解説者のプロフィール

森田博義(もりた・ひろよし)
リハビリパーク板橋病院院長。群馬県北軽井沢生まれ。横浜翠嵐高校卒。1976年、新潟大学医学部卒。東京大学第一外科助手。英国オックスフォード大学リサーチフェロー。国立国際医療センター医長、東京逓信病院外科医長、同人間ドックセンター長。横浜逓信病院院長、赤羽病院理事長兼院長を経て、2021年より現職。元東京女子医大非常勤講師。医学博士。著書に『大腸(直腸)・肛門・痔の病気 これで安心』(小学館)、『おしりの健康』(朝日新書)、 『外科医の目』(医学通信社)など多数
▼リハビリパーク板橋病院
食の欧米化によって腸内環境が悪化している
タマネギを乳酸発酵させて作る「発酵タマネギ」という万能調味料が、最近話題となっていることをご存じでしょうか。これは、みじん切りしたタマネギに塩と水を加え、1週間ほど発酵させて作る物で、さまざまな料理に活用できます(作り方は下項参照)。
私は、この発酵タマネギを、腸内環境改善のために役立つ新しい調味料と考え、注目しています。それがなぜかを説明する前に、どうして腸内環境を整えることがたいせつなのか、ふり返ってみましょう。
私は大腸の専門医として、これまで多くの患者さんを診察してきました。
大腸ポリープや大腸がんは、戦後の日本人に多発するようになった病気です。また、近年は潰瘍性大腸炎や、過敏性腸症候群などの患者さんも増えています。さらには、病名がつくほどの症状でなくても、分類不能な腸炎に苦しむかたや、便秘や下痢、ガス腹などに悩む患者さんも多くいます。
これには、戦後の食の欧米化が大きく影響しています。
私たちの食生活においては、動物性たんぱく質や脂質の摂取量が増える一方で、食物繊維の摂取量が大きく減っています。これによって、腸内の細菌のバランスが大きくくずれ、腸内環境が悪化していると考えられるのです。
さて、腸の中には、善玉菌と悪玉菌、そしてそのどちらでもない日和見菌が存在します。善玉菌は、腸に入ってきた食物の消化吸収を助け、健康維持を助けてくれます。
反対に、悪玉菌は体に悪い影響を及ぼす菌。そして日和見菌は、善玉菌と悪玉菌、双方になりうる菌です。
これらの菌のバランスがくずれると、下痢や便秘などが引き起こされます。さらに、それが慢性的な状況になると、腸内で有害物質が産生され、肌荒れや肥満のほか、さまざまな体調不良の原因になります。やがては、高血圧や動脈硬化などの生活習慣病、大腸がんの発生につながる恐れもあるのです。
さらに腸内環境の乱れは、免疫力の低下も招きます。腸の粘膜には、体内の免疫細胞の7割が存在するといわれています。腸内環境が乱れれば、感染症などへの抵抗力が失われるほか、アレルギーや自己免疫疾患などを招く恐れもあります。
これらを防ぐためにも、腸内環境を整えることが、非常に重要なのです。
悪玉菌の増殖を抑えて腸内環境がよくなる
ここで、最初にご紹介した発酵タマネギの話に戻りましょう。発酵タマネギは、キムチや白菜漬けのように、タマネギを乳酸発酵させて作ります。
乳酸菌には、腸内で悪玉菌の増殖を抑えて善玉菌を増やし、腸内細菌のバランスをよくする作用があります。また、タマネギに含まれる食物繊維やオリゴ糖は、腸内の乳酸菌の働きを助けるため、その効果がいっそう高まります。
こうして作る発酵タマネギを食べれば腸内環境が整い、
❶便通の改善
❷美肌効果
❸免疫力アップ
などの効果が期待できるのです。
なにより、この発酵タマネギは調味料ですから、毎日継続的にとることができます。食事の改善でたいせつなのは長く続けること。炒め物や和え物などに気軽に加える発酵タマネギなら、負担なく、おいしくとることができるでしょう。
私自身も作りましたが、この発酵タマネギは作るのが簡単なうえ、保存性にも優れており、調味料として素材の味を引き立ててくれる物だと感じました。
新型コロナ感染症の影響が続く今こそ腸内環境を整え、免疫力を高めて体外からの細菌やウイルスの侵入に対して防御することは、いつも以上に重要となっています。その点で、発酵タマネギはお勧めできる、すばらしい調味料だといえるのです。
発酵タマネギの基本的な作り方
材料
タマネギ(正味)…400g
塩…12g程度(タマネギの重量の3%が目安)
水…適量(約100ml)
❶タマネギをみじん切りにする。(スライスでもよい)
❷①をチャックつき保存袋に入れ、塩を加えて外側からもむ。水を加え、空気を抜きながら口を閉じる。

❸②を平らな状態で寝かせ、常温で発酵させる。夏なら1~3日、冬は6日ほどが目安。
❹③にほのかな酸味がし、白濁、あるいは小さな気泡が出れば完成。清潔な瓶に移す。

※冷蔵庫で2週間ほど保存可能。
※発酵中にタマネギが薄いピンク色になることがあるが問題はない。

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。
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