解説者のプロフィール

沼田健裕(ぬまた・たけひろ)
国立病院機構米沢病院内科医長。北海道釧路市生まれ。自身の腰痛が鍼灸治療で軽快したことをきっかけに、中国北京体育大学にて中国武術を専攻。帰国後は東京大学大学院で気功の研究により教育学修士を修め、民間企業研究員などを経た後、日本医科大学医学部を卒業。東邦大学医療センター大森病院における研修の後、現在国立病院機構米沢病院で内科医長を務める。さらに、東北大学病院でも診療にあたるほか、東邦大学医学部でも太極拳講義を担当している。
太極拳の臨床研究論文は約1000本!
COPDやうつなど効果が見込める症状は多彩
私は、現代医学と伝統医学それぞれの特長を活かした医学統合医療の一環として、日常診療のなかに運動療法を取り入れています。そのなかで、よくご紹介するものの一つが、気功や太極拳の準備運動として行われる「スワイショウ」(やり方は別記事参照)です。
[別記事:血液が巡り心身が落ち着く!スワイショウでパーキンソン病やパニック障害が改善→]
このコロナ禍において、多くのかたが運動不足に陥っています。実際、スポーツ庁から報告された2020年度における体力運動能力調査結果の概要では、小中学生から高齢者まで、すべての年齢層において、成績の低下傾向が示されています。
東洋医学の観点からすると、運動不足によって、全身の気血水の巡りが減少し、将来的に病気や故障を起こしてしまう可能性が高まるといえます。
そこで近年、健康づくりや病気の症状改善のために太極拳が注目されています。直近の10年間でも、全世界における太極拳の臨床研究論文は約1000本も発表されています。
それらの論文内で効果が見込まれるとされている症状を、数が多い順に挙げると、高血圧、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、変形性ひざ関節症、心不全、うつ病、骨粗鬆症……といった具合です。内科的な疾患や、体の痛み、さらには精神の問題の改善まで期待できるとされています。
首・肩こり、胃腸の不調など様々な不調に効果!
スワイショウの特徴は、単純な動きにあります。特に技術や熟練も必要とせずに、始めることができます。
私どもが以前に行った研究では、首・肩こりや胃腸の不調、手足の冷え、足腰の痛み、体のほてり、頭痛、目の疲れ、全身の倦怠感といった8項目からなる自覚症状を点数化した値を、10分間のスワイショウの前後で比較しました。すると、平均10.7点から、5.6点まで、ほぼ半減したのです。
また、自律神経系の活動が、スワイショウの前後で変化し、特に末梢血管運動が活性化することもわかりました。
スワイショウを行うと、首や肩周辺の血行がよくなって温まることや、気分が改善して頭がすっきりすることが実感できると思います。睡眠の質の改善も期待できるでしょう。

ブランコをこぐイメージで!
最初は腕を前後に振るスワイショウがおすすめ
最初は、腕を前後に振るスワイショウが取り組みやすく、お勧めです。肩幅程度に両足を開き、ブランコをこぐようなイメージで両手を前に放り出しましょう。両手を前後に振りながら、背骨、股関節、ひざや足首が、それぞれしなるように意識するとより効果的です。
腕を振り上げる高さは、肩くらいが理想ですが、無理せず、ご自身のやりやすい高さでかまいません。
余裕がある人は腕を振るタイミングに合わせて、軽くひざを曲げて屈伸運動をしてみましょう。運動負荷が増加します。
3~10分程度行ったら、急に終わらせずに、力を抜いて腕の振りを徐々に小さくしていきます。重力に任せ、揺れが小さくなるのを待ちましょう。
1日に行う時間や回数に特に決まりはありません。できる範囲で行うとよいでしょう。ちなみに、台湾の脳神経外科医が、大腸がんを患った際、毎日2000回ものスワイショウを行っていたら、大腸がんが手術不要なほど縮小したという話もあります。
このスワイショウは、自宅で簡単に行うことができます。ステイホーム中の時間を有効に活用することができる体操といえるでしょう。
皆さんもぜひ、運動不足解消や健康管理の一助として、スワイショウを生活に取り入れることをお勧めします。

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。
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