解説者のプロフィール

冨高誠治(とみたか・せいじ)
常若整骨院院長。柔道整復師、鍼灸師。1977年生まれ。膵臓がんを患った自身の母に合う施術を探したことをきっかけに、整体師を志す。現在は、施術により体の痛みを取ることだけでなく、自律神経のバランスを整えて、心も楽にする方法を指導。さらに後進にその術を伝えるべく、講演会なども積極的に行っている。著書に、『自律神経療法の教科書』(BABジャパン)などがある。
▼常若整骨院
スワイショウで動悸や耳鳴りが軽減
私たち人間は、ストレスやトラウマ、病気やケガ、睡眠不足など、さまざまな要素の影響で、エネルギーの流れが悪くなると、不調が起こります。
そこで当院では、不調の原因を探るカウンセリングと、エネルギーの流れをよくする気功を取り入れた施術を行っています。
そしてもう一つ、重要視しているのがセルフケアです。
カウンセリングを行って不調の原因がわかっても、それを解決するのはご本人です。患者さんを見ていても、人頼りや薬頼りの人より、自分でよくなろうと努力して取り組む人のほうが、施術をしてもエネルギーが流れやすい傾向にあります。その結果、どこへ行ってもよくならなかった不調が一気に改善するのです。
今回紹介する「スワイショウ」(やり方は下項参照)は、誰もが手軽に取り入れることのできる、幅広い人にお勧めしたいセルフケアです。
スワイショウで期待できる3つの効果
スワイショウとは、気功の一つで、太極拳の準備運動としても使われています。手を前後・左右に振るだけの簡単な動きでありながら、体にとってポジティブな、さまざまな効果が期待できます。
一つは、血の巡りをよくする効果です。行ってみるとわかりますが、手を振っていると、しだいに手のひらに赤みがさし、ポカポカしてきます。手には経絡がたくさん通っているので、それが刺激されると神経伝達もよくなり、手だけでなく全身の血液循環がよくなります。
血の巡りがよくなれば体が温まり、冷えや低体温の改善につながるでしょう。肩こり、腰痛なども軽減するはずです。
全身の血液循環がよくなると、必然的に脳血流もアップするので、頭もすっきりします。仕事や勉強の合間に行えば、疲れが取れて、そのあとの能率の向上も期待できます。
二つめの効果として、緊張が緩むので、プレゼンなどの大事な舞台やテストの前などに行えば、最大限のパフォーマンスの発揮に役立つでしょう。
また、緊張が緩めば、動悸や耳鳴りが軽減したり、イライラや不安感が落ち着いたりといった効果も期待できます。「体が常にガチガチだと感じていたけれど、力が抜けてリラックスできるようになった」という人もいました。
寝る前にスワイショウを行えば、寝つきや眠りの質もよくなります。
三つめの効果は、重心の安定です。心や体が緊張していると、重心が上にいく傾向があります。肩が上がってしまうのは、そのためです。
スワイショウを行えば、上がっていた重心がだんだん下がってきます。すると、地に足がついたようにドッシリとして、気持ちも体も落ち着きます。
足腰がしっかり安定しやすくなるので、激しい運動ができない高齢者にもお勧めです。高齢者に限らず、体が弱っているかた、外へ出て運動するのが億劫に感じるかたも、家の中でできるスワイショウなら、簡単かつ安全に、体力をつける手助けになります。毎朝、ラジオ体操のかわりに、スワイショウを行っている人もいます。
便秘の改善や下腹部の引き締めにも効果的
手を左右に振るスワイショウでは、おなか周りをねじるため、下腹部の引き締めや便秘改善にも効果的です。
スワイショウは、手を前後に振る動きと、手を左右に振る動きの2パターンがあります。いきなり両方を一度にやると負荷がかかり過ぎるので、例えば朝は前後に振る動きを、夜は左右に振る動きを、といった具合に時間をあけて行いましょう。
ただし、めまいや耳鳴りの症状があるかた、車酔いしやすいかたなど、三半規管の弱いかたは、左右に振る動きはあまりお勧めしません。ほかに不安な症状あるかたも、体調を見ながら行ってください。
手を振るときは、力で動かすのではなく、反動に任せて動かします。左右に振る動きは、体に腕を巻きつけるイメージで、顔もいっしょに動かしましょう。
正しい姿勢や、大きく動かすことにこだわるよりも、なるべく無心で、気持ちよく動かすことが一番です。やっているうちに体が緩み、可動域も広がります。
重心が上に上がって体が緊張している人は、ふくらはぎや太ももが張らないように、ひざを上下に動かしながら行うとよいでしょう。特に緊張がなければ、ひざは意識しなくて大丈夫です。
行いすぎは禁物
最も注意していただきたいのは、行い過ぎないことです。前述したように、スワイショウには血液循環をよくする作用があります。血流に滞りのある人が長時間行うと、いきなり巡りがよくなって、フラついたり、吐き気が起こったりすることがあるのです。
大きな負荷もなく、楽にできるだけあって、行い過ぎていても気づきにくいもの。最初は前後・左右それぞれ3分ずつを目安に、タイマーをセットするのがお勧めです。慣れてきたら、徐々に時間を長くしてもかまいません。
パニック障害で当院に通っていた50代の女性は、施術のほかに、セルフケアとしてスワイショウをコツコツと実践し、半年で薬が不要になりました。最初は、家族に同伴してもらわないと不安で外に出られないといった状況でしたが、今では1人で外出できるようになっています。
もうお1人は、こちらはパーキンソン病で手のこわばりや震えがある60代の女性です。病気の原因と思われる家庭内のストレス解消に取り組み、夫婦の会話を増やすとともに、2人でスワイショウを実践されています。もちろん薬の効果もあると思いますが、スワイショウで体が緩んだのか、手の症状に付随する背中の痛みや体の重だるさ、イライラなどがかなり解消されているそうです。
体調の改善や気分転換、仕事・勉強・スポーツのパフォーマンス向上に、皆さんもぜひ実践してみてください。
スワイショウのやり方
※慣れてきたら回数を増やしてOKだが、最初から行い過ぎない。
※めまいがある人は、左右に振るスワイショウを控える。
※意識してひざを曲げ、負荷を調整するとなおよい。
腕を前後に振るスワイショウ

❶足を肩幅に開き、つま先を正面に向けて立つ。腕の力を抜いて、両腕を胸の高さまで上げる。
❷重力に任せて、腕を後ろへ振り抜く。前後で1セットとして、3分で150セット程度のペースでくり返す。
腕を左右に振るスワイショウ

❶足を肩幅に開き、つま先を正面に向けて立つ。両腕の力を抜いて、頭ごと上体を後ろに向けながら、腕を体に巻きつけるように右に振る。
❷同様に左に振る。左右で1セットとして、3分で70セット程度のペースでくり返す。

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。
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