解説者のプロフィール

伊藤勇矢(いとう・ゆうや)
いとう鍼灸整骨院院長。柔道整復師。鍼灸師。世界最高峰のトレイルランニング大会「ウルトラ・トレイン・デュ・モンブラン(UTMB)」日本人初のメディカルトレーナーとして、2017年から3年連続参加。現在、国内外にクライアントを抱えながらも、教育現場や地域の健康セミナーでの指導にも力を入れている。著書に、『1日1分で痛みが消える!足の甲のばし』(マキノ出版)がある。
▼いとう鍼灸整骨院
手指を使い過ぎていると関節がかたくなる
手指の痛みに苦しんでいるかたや、仕事や家事などで手指を酷使しているかたに、とても好評なセルフケアがあります。それが、「手首振り」です。
これは、もともと自分のために開発した方法でした。私自身、患者さんに対して手を使って施術をしていますから、手指には大きな負荷がかかっています。その手指の状態を回復させて、いい状態をキープするために考案したのが、この手首振りです。
それを皆さんに紹介したところ、「痛みが消えた」「手指の動きがよくなった」「動かなかった関節が動くようになった」といった多くの反響があり、いまや手指のセルフケアの定番として勧めています。
手指を使い過ぎている人は、手指の血流が悪くなり、関節がかたくなっています。さらに悪化して、関節がこわばり、変形し始めている人もいます。
こうした状態を改善するには、筋肉に血流を巡らせてやわらかくし、同時に、関節のこわばりをほぐす必要があります。そのために、手首振りが役立ちます。
手指を日常的に使う人だけでなく、バネ指やヘバーデン結節といった手指の疾患に悩まれているかたは、ぜひ一度このセルフケアをお試しください。また、末端の冷えに悩まされているかたにもお勧めです。
特に昨今は、コロナ禍の影響で外出の機会が減り、体を動かさなくなったかたが増加しています。そうなると、手指だけでなく、ひじや肩、首などの、コリや痛みなども起こりやすくなります。そうした上半身の不調全体に、この手首振りは有効です。
準備体操を行って手指をほぐすことが重要
手首振りのやり方は下項をご参照ください。
手首振りでは、手を振る動作がメインですが、この動作の前に、準備体操を行います。手指の筋肉や関節がこわばったままの状態で、いきなり手を振っても効果的ではないからです。かえって手を痛めてしまう可能性もあります。そのため、手指をほぐす準備体操をきっちり行うことが重要です。
そのあとに20秒ほど手首を振ると、じわ~っと血液が流れこんでくるのを感じられるはずです。あまり感じられないようでしたら、10~20秒さらに手首を振ってみましょう。
最初のうちは準備体操で、痛みを感じることがあるかもしれません。それでも続けると、しだいに慣れて、痛みを感じにくくなります。日常生活で感じていた痛みが解消したり、かたくなっていた関節が動かしやすくなるはずです。
できれば、手首振りを行う前に、「グーパーグーパー」と手のひらの開閉をくり返したり、腕を頭上まで持ち上げたりして、その時点での自分の体の状態を確認しておきましょう。そして、手首振りのあとに再び試すと、手のひらの開閉が、以前よりも楽にできるようになったり、腕も上がるようになったりしていることがわかるはずです。
手指の動きというのは、複雑で、巧緻性に富んでいます。細かい動きができるように作られているといってもいいでしょう。ところが、ずっと同じ動きばかりくり返していると、その巧緻性が失われていくのです。手の末端の、センサーとしての働きも弱っていきます。
手首振りには、こうした状況をリセットする効果があります。そして、手指の末端のセンサーとしての働きもよくなってくるのです。上がらなかった腕が上がるようになったり、肩や首のコリが改善したりと、多くの効果が期待できるでしょう。
次に、体験例を紹介しましょう。ある50代の女性は、仕事で指を酷使したため、指が動かなくなってしまいました。さらに、指だけではなく、ひじや肩にも痛みを感じるようになっていました。
最初にこの手首振りを試しに行ってもらったところ、激痛を訴えていました。それでも、根気よくセルフケアを続けてもらったところ、痛みはあるものの、ひじや肩が楽になってきたとのこと。こうして1~2ヵ月続けると、動かなくなっていた指が動くようになったと喜んでいました。
最後に注意点です。このセルフケアは、必ず片手ずつ行ってください。
もちろん、両手を同時に行うことも可能ですが、残念なことに、私たちの意識は、左右両方に同じように集中できません。自分では両手をどちらも同じように振っているつもりでも、思ったように動かせていないことが多いのです。それでは、狙った効果を得られなくなってしまいます。
この傾向は、手指に問題を抱えているかたには、特に当てはまります。手首振りの効果をより高めるためにも、片手ずつ集中して行ってください。
手首振りを行うのは、朝晩1セットずつ。加えて、仕事の合い間などに、時間を見つけて行うとよいでしょう。
なお強い炎症が起こっている場合には、手首振りは控えたほうがよいでしょう。それ以外のケースでは、痛みがひどくならない程度に力を調節しながら、続けることをお勧めします。
手首振りのやり方
準備体操1
左手の指の1本を右手で握り、10秒回したあと、10秒引っ張る。すべての指をほぐしたら、右手も同様に行う。

準備体操2
左手を机にのせ、小指の側面が机につくよう手のひらを立てる。上から右手のひらをかぶせ、前後に3往復ほど動かし、左手をほぐす。右手も同様に行う。

手首振り
※1日3セット、朝昼晩に行う。
※必ず片手ずつ行う。
❶右手を上下に20秒程度振る。

❷右手を左右に20秒程度振る。

❸右手を上下左右など不規則に20秒程度振る。左手も同様に①~③を行う。


この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。
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