「足ブラブラ運動」で股関節がスムーズに動くようになると、立つ、座る、歩くといった動作がスムーズに行えるようになります。さらに、筋肉が収縮したときに出る物質「マイオカイン」のなかには、肥満や糖尿病を抑える働きがある物、認知機能の改善やがん予防に役立つ物もあるため、こまめに行うのがお勧めです。【解説】中山久徳(そしがや大蔵クリニック院長)

解説者のプロフィール

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中山久徳(なかやま・ひさのり)

1965年、東京都生まれ。そしがや大蔵クリニック院長。リウマチ専門医、骨粗鬆症認定医、総合内科専門医。88年、早稲田大学商学部卒業。サラリーマンを経て、山形大学医学部に再入学し96年卒業。東京大学アレルギーリウマチ内科、国立病院機構相模原病院リウマチ科などで臨床経験を積み2012年より現職。リウマチ性疾患や骨粗鬆症の専門治療、地域医療に携わる傍ら、メディアなどでも医療情報を発信している。
▼そしがや大蔵クリニック

運動機能を維持できれば健康寿命が延びる

「健康寿命」という言葉をご存じでしょうか。これは、病気などにより日常生活が大きく制限されずに、介護を受けることもなく、自立して暮らせる期間のことを指します。

日本では平均寿命も、健康寿命も延びています。しかし両者には約10年の開きがあり、この差は長らく縮まっていません。この期間は介護が必要となることが多いため、健康寿命をさらに延ばすことが望まれます。

介護が必要となれば、本人も不本意ですし、家族の負担も大きくなります。

自立した生活ができなくなる原因疾患はいくつもあります。これまでは脳卒中などの脳血管疾患が多かったのですが、近年では認知症が増えています。そして、転倒による骨折や関節障害を含めた運動器の疾患が最も多くなっています。

運動機能が落ちてしまうと、寝たきりのリスクが高まり、さらに認知症も引き起こしやすくなるため、いっそう要介護へとつながっていくのです。

私はリウマチ内科医として関節リウマチの患者さんを長らく診てきました。関節に痛みがあると、体を動かす機会が減ります。その結果、関節の可動域はどんどん狭まってしまいます。そうなると、筋肉の動きも悪くなり、しだいに萎縮してくるのです。

筋肉が使われなくなると骨も弱くなっていきます。体を動かす筋肉や関節、そして骨はお互いに影響しあっているので、いずれかに支障を来すと運動機能が落ちていく悪循環に陥ります。これは、誰にでも起こりうることです。

そうならないために、日ごろから運動習慣をつけて、体を不自由なく動かせる状態を維持することが大事です。こうした観点から、皆さんにお勧めしているのが、今回ご紹介する「足ブラブラ運動」です。やり方は下項をご参照ください。

体力に自信のないかたに「足ブラブラ運動」がおすすめ

こまめに振って効率的に脂肪を燃焼

特にお勧めなのが、運動習慣がなく、体力にもあまり自信のないかたです。この運動は、負担が少なく、外に出る必要もありません。しかし、続けることで、さまざまな健康効果が期待できます。

足ブラブラ運動によって期待できる効能は、次の2つです。

サルコペニアやフレイルの予防効果
マイオカインの分泌効果

順に説明しましょう。サルコペニアは、「加齢や病気によって、筋肉量が減少し、身体機能の低下が起こること」をいい、フレイルは、「加齢により生じる心身の虚弱状態」です。

サルコペニアがきっかけとなって動けなくなり、心身ともに虚弱した状態(フレイル)に陥り、それが要介護へとつながっていくというパターンを避けるために、足ブラブラ運動が役立つはずです。

この運動では、股関節をよく使います。股関節は体重を支えて、歩くためにとても重要な関節です。足を前後に振ることで股関節の屈曲・伸展を行い、左右に振ることで股関節の内転・外転を行います。

さらに、反動をつけて足を動かすことが、動かせる範囲を広げる訓練となります。狭まっていた股関節の可動域を広げるのにも役立つでしょう。

この運動で股関節がスムーズに動くようになると、立つ、座る、歩くといった、最も基本的な動作がスムーズに行えるようになります。

足ブラブラ体操が「マイオカイン」の分泌を促す

さらに近年の研究で、筋肉が収縮したとき、筋肉からしぼり出される物質(筋肉作動物質)が30種類以上あることが判明しています。それらの物質の総称が、「マイオカイン」です。

これまで、血糖値を下げるのは膵臓から分泌されるインスリンしかないと考えられてきました。しかし、マイオカインのなかにも、糖を筋肉に取り込みやすくして、血糖値を低下させたり、脂肪の分解を促進したりする物があります。

つまり、肥満や糖尿病を抑える働きがあることがわかってきたのです。ほかに、認知機能の改善や、がん予防に役立つ物もあります。

この足ブラブラ運動も、マイオカインの分泌を促します。その効果をより享受するには、こまめに行うのがお勧めです。

画像: 足ブラブラ体操が「マイオカイン」の分泌を促す

また、足ブラブラ運動では、大腿四頭筋や大殿筋(お尻の筋肉)といった大きな筋肉を使います。足を前後だけでなく左右に振ることで、ふだん使わない筋肉が使われて、より効率的にマイオカインの分泌を促すこともできます。

股関節の周囲には多数の筋肉があります。この足ブラブラ運動は、股関節を動かす比較的小さな筋肉も収縮させるので、その点もマイオカインを出すことに貢献するでしょう。

足ブラブラ運動のやり方

足を振る際のポイントは、背すじを伸ばし、足もとを見ないこと。目線は前方の遠くを見るつもりで、また、足を振る際には、ゆったりと動かすことを心がけましょう。

慣れてきたら、転ばないように気をつけながら、支えていた手を少し離して、足を振ってみましょう。これによって、体幹が鍛えられます。腸腰筋なども鍛えられるため、深部の筋肉のマイオカインの分泌を促すことにもなります。

なお、股関節痛のあるかたは、最初のうちは、様子を見ながら行い、しだいに大きく振っていくといいでしょう。

※転倒に注意する。
※①と②で1セットとし、1日3セット、朝昼晩に行う。
※慣れてきたら、支えていた手を離して行うのがお勧め。

机やイスに右手でつかまり、右足を前後に10回振る。左側も同様に10回振る。

画像1: 足ブラブラ運動のやり方

同じく、左右に右足を10回振る。左側も同様に10回振る。

画像2: 足ブラブラ運動のやり方
画像: この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。

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