近年の研究で、コーヒーは糖尿病の発症リスクを低下させ、肝炎から肝硬変や肝臓がんまで、ほぼ全ての肝疾患の予防・改善効果があることが確認されています。「飲むと血圧が上がる」どころか、動脈硬化や心筋梗塞など、心血管系の疾病にもよい影響をもたらします。また最新の知見では、脳や筋肉、骨を強化する働きもあることが報告されています。【解説】石原藤樹(北品川藤クリニック院長)

解説者のプロフィール

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石原藤樹(いしはら・ふじき)

北品川藤クリニック院長。医学博士。信州大学医学部医学科大学院卒業。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。診療のかたわら、ほぼ毎日更新している『北品川藤クリニック院長のブログ』(https://rokushin.blog.ss-blog.jp)は、現在毎日15000アクセスを超える人気ブログに成長。著書に『コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?』(PHP)などがある。
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コーヒーを飲むと寿命が延びるといわれている理由

3杯以上飲むと糖尿病のリスクが2割低下

私は学生時代から、1日10杯はコーヒーを飲む、大のコーヒー好きで、それが高じて、長年コーヒーの研究にいそしんできました。そして得られた結論は、コーヒーは何ものにも勝る薬である、ということです。

コーヒーは薬」と聞いて、いぶかしく思う人もいるでしょう。カフェインの多いコーヒーは、いかにも体に悪そうです。ところが近年、そのイメージがくつがえされているのです。

転機となったのは、2012年にアメリカの有名な医学誌(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)に掲載された論文です。

40万人以上の健康調査を分析したところ、コーヒーを1日6杯以上飲む人は、糖尿病、心臓病、脳卒中、呼吸器疾患、感染症などによる死亡リスクが低下し、あらゆる原因によって起こる総死亡リスクも低かったのです。つまり、コーヒーを飲むと寿命が延びるのです。

この論文以降、コーヒーの健康効果が次々に発表されるようになりました。中でも私の目を引いたのが、糖尿病と肝臓病に対する健康効果です。

私は学生時代、内分泌や糖代謝の研究をしており、糖尿病が専門です。また私自身、クリニックの患者さん5000人以上を対象に、コーヒーの摂取量と糖尿病のリスクを調べたことがあります。その結果、1日3杯以上コーヒーを飲む人は、糖尿病になるリスクが2割以上低いことがわかったのです。

私の調査は正規の研究ではありませんが、2014年に糖尿病の専門誌に掲載された論文を読んで、驚きました。それは、110万人以上という膨大なデータを解析し、コーヒーと糖尿病のリスクを調べたものです。

結果は、コーヒーを飲まない人に比べ、1日3杯飲む人は2割、5杯飲む人は3割、糖尿病の発症リスクが低下するという、私の調査とほぼ同じ傾向が出ていました。

それを裏付ける報告もあります。コーヒーに含まれるクロロゲン酸というポリフェノールを1日1200mgとると、血糖値が低下し、インスリンの効きがよくなるのです。

しかし、コーヒーにはそれほど多くのクロロゲン酸は含まれていません。クロロゲン酸の作用に加え、コーヒーに含まれるさまざまな成分が体内で活性化されて、糖代謝をよくしているのだと思われます。

なお、クロロゲン酸は食後血糖値を下げるので、糖尿病には食前に飲むと効果的です。

ほぼ全ての肝疾患に効果がある

糖尿病と並んで、最もよく研究されているのが、肝臓病に対するコーヒーの効果です。

コーヒーは肝機能の数値を改善し、ウイルス性肝炎、アルコール性肝機能障害、非アルコール型脂肪性肝疾患、それが進行した非アルコール型脂肪肝炎(NASH)、さらに肝硬変や肝臓がんまで、ほぼ全ての肝疾患の予防・改善効果があることが、これまでの研究で確認されています。またその効果は、肝臓を患っている患者さんほど強く現れます。

例えば、慢性のウイルス性肝炎には、B型にもC型にも改善効果が認められています。コーヒーに含まれるカフェインや、コーヒーを焙煎したときにできるコーヒー酸に抗ウイルス作用があり、肝炎ウイルスの増殖を抑えるのです。

データが豊富なC型肝炎では、コーヒーを飲む習慣のある人は、飲まない人に比べて、肝臓の線維化(肝臓の細胞修復の過程で、異常に大量の瘢痕組織がつくられること。線維化が進むと、肝臓の細胞が本来の機能を果たせなくなる)や肝硬変への進行が抑えられていました。

肝硬変や肝がんのリスクが高いNASHには、コーヒーが肝臓の炎症を抑え、脂肪の蓄積を改善して脂肪肝を元に戻すような作用があることが、動物実験でわかっています。

また、これまでの研究で、コーヒーを常飲している人には、肝臓の線維化の進行や肝硬変が少ないことも報告されています。それを裏付けるように、2015年に発表された論文で、コーヒーを飲むことによって線維化の危険性が27%、肝硬変の危険性が39%低減することが判明しました。

さらに、別の論文によれば、コーヒーを1日3杯以上飲むと、肝細胞がんのリスクを56%も減らせるそうです。

このようにコーヒーは、糖尿病にも肝臓病にも、まるで薬のような効果を発揮するのです。しかも、効果は1日2〜3杯から現れます。多くのデータを見ると、3〜5杯が推奨されています。ですから、それくらいを常飲すると、糖尿病、肝臓病だけでなく、さまざまな病気を予防し、結果として寿命を延ばすことができるのです。

画像: ほぼ全ての肝疾患に効果がある

一時的には上がるが長期的には高血圧を防ぐ

「コーヒーを飲むと、血圧が上がる」 そう信じ込んで、コーヒーを避けている人もいるのではないでしょうか。

しかし、それは誤解です。コーヒーの常飲で高血圧になることは、まずありません。それどころか、動脈硬化や心筋梗塞(心臓の血管が詰まって起こる病気)など、心血管系の疾病によい影響をもたらすのです。

コーヒーが血圧によくないイメージが強いのは、カフェインが多いからでしょう。カフェインは脳に作用して、興奮作用や覚醒作用を起こします。また、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のうちの交感神経を刺激して、心臓の働きを強めたり、脈拍を増加させたりします。

そのため、コーヒーを飲むと、確かに血圧がわずかに上がり、脈拍も少し速くなります。しかし、それは一時的な反応で、時間がたてば元に戻ります。むしろ長期的には、高血圧のリスクを減らす働きがあるのです。

その朗報は、コーヒー豆の最大の生産国、ブラジルからもたらされました。

35〜74歳の一般住民約1万5000人の疫学データから、高血圧のない8780名を抽出し、コーヒーの摂取量と高血圧の発症リスクを解析したところ、コーヒーを1日1〜3杯飲む人は、飲まない人に比べて18%リスクが低下。非喫煙者に絞ると、そのリスクは21%に低下したのです。

つまり、毎日習慣的にコーヒーを飲んでいると、血圧が上がるどころか、高血圧になりにくいのです。タバコを吸わなければ、さらによいということです。

コーヒーは、インスリンの感受性を上げて、ブドウ糖の肝臓への取り込みを増やしたり、動脈硬化を抑えたりする作用があります。そうした血管へのよい作用が、血圧を下げる方向に働くのでしょう。

とはいえ、カフェインに血管を収縮して血圧を上げる作用があるのも事実です。コーヒー200〜3000mlを一気に飲んで、収縮期血圧が8mmHg上がったという報告もあります。

しかし通常は、こんなコーヒーの飲み方をしません。普通の量を普通に飲んでいれば、こうした急性の作用は起こりえないことです。

また、毎日コーヒーを飲んでいると、カフェインの刺激に体が慣れてきますから、カフェインの作用はあまり考えなくていいでしょう。

ただし、普段コーヒーを飲まない人で高血圧があり、血圧が不安定な人は、念のため、主治医に相談してください

カフェインが気になるようなら、ノンカフェインのコーヒーを飲むのも一つの方策です。コーヒーの健康効果は、ノンカフェインでもそれほど大きく変わりません。

飲む量が多いほど脈拍がゆっくりに

カフェインには脈拍数を増加させる作用もありますが、これも血圧と同様に一時的なものです。

久留米大学の研究で、コーヒーを常飲していると、脈拍数は逆に減少することがわかりました。住民検診を受けた1902人の住民の15年間にわたるデータを解析したところ、コーヒーを飲む量が多いほど、安静時の脈拍はゆっくりでした。

高血圧や血管の病気のリスクは、安静時の脈拍数が多いほど高まります。ですから、健康のためには、脈はそれほど速くない方がいいのです。

脈拍数と並んで気になるのは、不整脈でしょう。カフェインが不整脈の発症リスクになるという指摘が、まことしやかに言われていますが、本当でしょうか。

昨年、大手医学誌(JAMA Internal Medicine)に載った論文が、それを明確に否定しています。

世界最大規模のバイオバンクである、英国UKバイオバンクの遺伝子情報を活用して、38万6000人を超える膨大な臨床データを再検証したところ、習慣的にコーヒーを飲む人は、不整脈の発症リスクが、1杯当たり3%低下していました。しかも、そこにカフェインの作用は関係していませんでした。

この研究から、コーヒーの不整脈予防作用はカフェインとは関係がなく、コーヒーでのカフェイン摂取が不整脈のリスクを高める可能性も低い、ということが推察されます。

2019年に、アメリカの心臓病専門誌(Journal of the American Heart Association)に発表された論文でも、コーヒーを飲まない人と比較して、1日1杯飲む人は15%、2〜3杯飲む人は14%、心房細動という不整脈のリスクが下がると報告されています。

仕事の合間などにコーヒーを飲むと、ひととき、気分がリラックスしますね。こうしてコーヒーブレイクを楽しむことも、血圧や脈拍の安定につながります。

画像: 飲む量が多いほど脈拍がゆっくりに

1日3杯程度飲むと脳にいい影響がある

私が「コーヒーは薬」だと思うのは、コーヒーにさまざまな病気を予防する効果があるからです。その中から、最新のコーヒーの知見をご紹介します。

脳への作用

コーヒーに含まれるカフェインには、脳を活性化させて、注意力を高める働きがあります。また、コーヒーがパーキンソン病やうつ病のリスクを減らすという報告もあります。

パーキンソン病は神経の難病の一つで、ドーパミンという脳の神経伝達物質が関係しています。以前から「コーヒーをたくさん飲む人に、パーキンソン病は少ない」といわれていました。その傾向は男性と閉経後の女性に顕著で、更年期前の女性にはあまりみられません。これは、カフェインと女性ホルモンが肝臓の同じ酵素で代謝されるからです。

また逆に、パーキンソン病の患者さんは、血液中のカフェインやカフェイン代謝産物の濃度が低いことが知られています。カフェインやその代謝物には、神経細胞の変性を防ぐなど、脳を保護する働きがあるのです。

実際に、コーヒーでパーキンソン病の運動障害が改善したという報告が、複数あります。

脳卒中の予防にも、コーヒーは有効です。これまでの臨床データを解析した論文を読むと、コーヒーを1日3〜4杯飲んでいる人は、飲まない人に比べて、脳卒中のリスクが16%低下しています。

さらに認知症との関連を調べたデータでは、中年期にコーヒーを1日3〜5杯飲んでいる人は、飲まない人に比べ、老年期の認知症の発症を65%も抑えられました。コーヒーは、脳血管性認知症の予防には、明らかに効果があると考えられます。

一方、別の論文では、1日1〜2杯のコーヒーで認知症のリスクが18%低下するものの、3杯以上飲むと発症リスクが上がる、というものもあります。

アルツハイマー病に対しては、原因物質の一つとされるアミロイドβの産生を抑えるという報告はありますが、アルツハイマー病そのものの予防効果はわかっていません。

現時点では、認知症に対しては研究途上の段階です。しかし、カフェインの脳を活性化する作用や、クロロゲン酸の抗酸化作用などを考えると、1日3杯程度の常飲は、脳によい影響を及ぼすと思われます。

加齢による筋力の衰えと身体機能の低下も防ぐ

脂肪や筋肉への作用

最近、インターネット上で「運動前にコーヒーを飲むと、脂肪燃焼効果が高まる」という投稿を目にします。これを検証してみました。

私たちの体には、2種類の脂肪細胞があります。一つは余分なエネルギーを脂肪に変えてため込む白色脂肪細胞、もう一つは脂肪を燃焼して熱を産生する、褐色脂肪細胞です。

2019年、「サイエンティフィック・リポーツ」という科学誌に、コーヒーを飲むと脂肪が燃焼して熱を産生するという実験が紹介されました。コーヒーを飲むだけで脂肪が燃えるなら、運動前にコーヒーを飲むのは合理的だと思います。

また、コーヒーは、筋肉を強くする飲み物でもあります。高齢になると筋力が衰えて、身体機能が低下していきます。これを「サルコペニア」といいますが、コーヒーはサルコペニアの進行を予防するのです。

コーヒーを習慣的に飲んでいると、ブドウ糖の筋肉への取り込みが高まります。ブドウ糖は筋肉の大事な栄養源ですから、増えれば筋肉が壊れるのを防いだり、壊れた筋肉を修復したりできます。そういう動物実験も報告されています。

骨への作用

2017年に発表された論文では、カフェインが骨の材料であるカルシウムの吸収を抑え、尿や便からの排泄を促すと報告されています。つまり、コーヒーの多飲は、骨折や骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)のリスクになるというのです。

ところが、その前年に報告された韓国の疫学調査(集団を対象に病気の原因や発生状態を調べる統計的調査)では、骨粗鬆症の予防効果が確認されています。

閉経後の女性4066名の骨量とコーヒーの関係を調べたところ、コーヒーを1日2杯以上飲む人は、飲まない人に比べて骨粗鬆症のリスクが36%低下し、大腿骨頸部と脊椎の骨量も増加していたのです。

骨粗鬆症は炎症によって進行し、抗酸化剤は骨吸収を抑制するという報告があります。コーヒーに含まれるクロロゲン酸には、抗炎症作用と抗酸化作用があり、それらの作用が骨粗鬆症の予防に影響したと推測されます。

そして、2020年、香港で行われた研究で、コーヒーに含まれるトリゴネリンやAFMUという成分が、骨量の増加や骨粗鬆症の予防に関係していることがわかりました。ですから、コーヒーはおおむね骨粗鬆症の予防に役立つと考えていいと思います。

コーヒーには1000種以上の生理活性物質があり、中には相反する作用のものもありますが、どれか特定の成分というよりは、コーヒーとしてとるのがよいのだろうと、私は考えています。

ぜひ皆さんも、コーヒーを楽しく健康維持にお役立てください。

画像: この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。

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