人体は低温のものをたくさん取り入れることを想定した作りではありません。冷たい飲食物が腸に入って温度を下げると自律神経や免疫の働きが乱れ、症状を悪化させるのです。温かいみそ汁は直接おなかを温め、ショウガには、消化液の働きを刺激して、食べ物が胃から小腸に動くように促し、膨満感や腸内にガスがたまるのを緩和する働きもあります。【解説】加藤直哉(こもれびの診療所院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

加藤直哉(かとう・なおや)

こもれびの診療所院長。2000年、琉球大学医学部卒業。小児科専門医を取得後、内科・ペインクリニック・老人保健施設などにて西洋医学的治療トレーニングを行う。同時に漢方や鍼などの東洋医学にも精通。 現在は、西洋医学、東洋医学に加え、心理学、催眠療法、補完代替医療なども取り入れた統合医療を実践するクリニックを荒川区で開業している。
▼こもれびの診療所

過敏性腸症候群(IBS)を悪化させる最大の要因

現代医学では完治が難しい病気

ここでご紹介する「ショウガみそ汁」は、ガス腹や、おなかが弱くて困っている人にぜひ試していただきたい食事です。

私自身、下痢と腹痛がひんぱんに起こる過敏性腸症候群(IBS)に悩まされていました。

もともと幼少期からおなかが弱く、学校では試験途中や、運動会など大きな行事の前に緊張でおなかを壊したり……。それでも生活に支障をきたすほどではありませんでした。

しかし、統合医療(現代医学と伝統医学や代替療法を組み合わせた医療)を学びたいと東京へ転居後、徐々に体に変化が現れてきました。トイレに駆け込むことが何度も起こり、電車に乗ることさえ恐ろしくなってしまいました。

慣れない環境で、医師として激務と勉強に時間を費やす張り詰めた毎日のストレスが、発症につながったのでしょう。

現代医学では、IBSの症状を抑えることはできても、完治させる治療法は確立されていません。となれば、統合医療の出番だと、食事療法やさまざまな代替療法を活用し、IBSと向き合いました。

その結果、1年で症状を克服できました。ショウガみそ汁も、その経験からお勧めしたいもののひとつです。

ショウガ味噌汁をおすすめする理由

ショウガみそ汁がよい理由はまず「体を温める」作用です。

IBSを悪化させる最大の要因は「おなかの冷え」です。おなかが冷えていると、IBSの症状が3倍近くも悪化することが判明しています。

現代人は、冷たい飲み物を当たり前に摂取していますが、人体は低温のものをたくさん取り入れることを想定した作りではありません。冷たい飲食物が腸に入って温度を下げると、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)や免疫(病気に対する抵抗力)の働きが乱れ、症状を悪化させるのです。

温かいみそ汁は直接、おなかを温めます。そればかりか、みそには動脈硬化を防いで血行をよくする必須脂肪酸(リノール酸やαリノレン酸)やフィトステロールという成分が含まれています。血行がよくなれば、体温上昇につながります。

また、みそに含まれる大豆イソフラボンには、体内で「IGF‒1(体内に存在する成長因子の一つ)」を増やしてくれる働きがあります。IGF-1は体のさまざまな組織の修復や再生を促し、おなかに限らず、全身の健康に役立つ物質です。

ショウガも、体を温める作用が極めて高い食品です。ショウガに含まれる成分のジンゲロールが、体内でショウガオールに変わり、その作用で血流がよくなり、体を芯から温めるのです。

ショウガには、消化液の働きを刺激して、食べ物が胃から小腸に動くように促し、膨満感や腸内にガスがたまるのを緩和する働きもあります。

ショウガ味噌汁の調理のポイント

低FODMAP食にする

こうした効能を持つショウガとみそを組み合わせるわけですが、調理にはいくつかポイントがあります。

まず、だしは、カツオやアゴだし、煮干しなど魚介を使用します。コンブだしは避けてください。

具材に豆腐を入れる際は、絹ごしではなく、木綿豆腐を使います。具材は、タマネギや長ネギなどのネギ類、キノコ類はNGです。

なぜかというと、おなかに優しい「低FODMAP食」にするためです。FODMAPは「体内で発酵しやすい4つの糖質」を指します。

こうした食品は従来、腸にいいと言われていたのですが、健康な人にはよくても、IBSなどおなかが弱い人には悪いとわかってきました。キーワードはIBSと関連の深い「小腸内細菌増殖症(SIBO)」です。

小腸内に菌が増えると大量のガスが発生する

私たちの腸に腸内細菌がすみ着いていることは、皆さんもご存じでしょう。その大半は大腸にいて、小腸には本来わずかな数の細菌しかいません。

ところが、なんらかの理由で通常は大腸にいる細菌が小腸に入り込み、爆発的に増加してしまうことがあります。小腸内の細菌が異常に増えると、豊富な栄養分を分解し、水素やメタンのガスを多量に発生させます

これがSIBOで、ガス腹やゲップ、腹痛、下痢、便秘などの症状が現れます。

IBSと診断されている方の大半に、SIBOが存在することがわかっています。そこで、小腸内の細菌を増殖させない食事として「低FODMAP食」が推奨されているのです。

実は、みそや豆腐の原料になる大豆はFODMAPに含まれます。しかし、みそは発酵の過程で、腸内細菌のエサになるガラクトオリゴ糖が少なくなるため、問題ありません。木綿豆腐も、同様にガラクトオリゴ糖が少ないので安心です。

おなかを温める効果と低FODMAP食を同時に実現した「ショウガみそ汁」。ガス腹の症状に悩む方は、できれば毎日1食は食べていただきたいと思います。

ショウガみそ汁の作り方

画像: ショウガみそ汁の作り方

材料(4人分)
・木綿豆腐……1丁
・だし汁(カツオ、アゴ、煮干しのいずれか)…600ml
・カボチャ(一口大にカット)…1/4
・ニンジン(半月切り)……1/2
・みそ(お好みのもの)…大さじ3
・ショウガ(すりおろし)…大さじ1

鍋にだし汁、カボチャ、ニンジンを入れて火が通るまで煮る。
豆腐を入れ、煮立ったら火を止め、みそを入れる。
器に盛り付けて、すりおろしショウガを加える。

画像: この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.