解説者のプロフィール

金丸千穂(かなまる・ちほ)
ちほ内科クリニック院長。医学博士。2002年、東京大学大学院医学研究科修了。東京慈恵医科大学附属病院内視鏡科、聖路加病院予防医療センター内視鏡科などでの勤務を経て、2018年に現在のクリニックを開院。漢方の処方も取り入れながら、消化器疾患を中心に内科疾患の診療を行う。
▼ちほ内科クリニック
マスクで呼吸が浅くなりガス腹になる
「最近、常におなかが張る」「おならやゲップをする回数が増えた」……。コロナ禍になってから、こういった悩みを持つ患者さんが、私のクリニックに多く訪れるようになりました。
私は、この原因が「マスク生活」にあると考えています。
そもそも、おならは腸内細菌がガスを作り出したり、口から空気を飲み込んだりすることで発生します。そして、おならの原因の7割は、後者の「食事や会話をするときに口から飲み込んだ空気」です。
しかし、常にマスクをつける生活になったことで、口呼吸になる人や、呼吸が浅くなって過換気(発作的に息苦しくなる状態)気味になる人が増えました。それにより、空気を口から飲み込む回数も増え、ガスがたまりやすくなったと考えられます。
その上、感染対策で外出を控えたり、リモートワークで家にこもりきりになったりする人も増えています。体を動かさなければ、腸も活発に動かなくなりますし、ストレスや日光に当たらない生活が原因で、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスもくずれやすくなります。こうしたことも、ガス腹の原因になっているのでしょう。
ガス腹の多くは、このような生活習慣や便秘が引き起こしているので、対処すれば緊急性の高い病気ではありません。しかし、中には腸閉塞や心不全などの前兆になる場合があります。
また、ガス腹は大腸がんのサインとなることもあります。特に高齢者は、肛門の近くよりも大腸の奥の方にがんができやすい傾向があります。よって、血便などの自覚症状よりも、腹部膨満感が発見のきっかけになる場合があるので注意が必要です。おなかが張って苦しいときなどは、無理せず病院で診察を受けてください。
危険なガス腹チェックリスト
下記に「こんな症状が出たらすぐに病院に行くべき」というチェックリストを紹介しています。どれかひとつでも当てはまる場合は、一度病院で診察してもらうとよいでしょう。
なお、チェックリストに当てはまらなくても「長年ガス腹に悩んでいる」「市販薬が効きづらい」などがあれば、不安を解消するためにも、一度病院で診てもらうことをお勧めします。
□ 腹部に痛みや強い違和感がある。
□ おなかが異常にポッコリしているなど、短期間で明らかな見た目の変化があった。
□ 3週間~1ヵ月の間で、ガス腹がひどく悪化している。
□ 便の状態や色が突然変化した。
□ 息切れなど、ガス腹以外の症状も出てきた。

上のリストに当てはまる場合、頻度は低いが、丸の中のような病気が疑われる。
ガス腹の解消方法
よく笑うことも腸の活性化に効果的
ガス腹の解消には、腸の動きを活発にして、上手にガスを出すことが必要です。そのために次の方法を活用しましょう。
①上体ひねり
大腸のそばにある、腸腰筋という筋肉を刺激する方法です(やり方は下項)。腸腰筋を活性化させるイメージで行うと、より効果が出ます。ガスがたまりやすい、左のわき腹も意識するといいでしょう。
②トイレでの指圧
太ももの付け根からへそ辺りまでを押し、腸にたまっているガスを出す方法です(やり方は下項)。外からの刺激でも腸は動きやすくなります。おなか全体を「の」の字を描くように指圧するのも有効です。
③よく笑う
実は、おなかを自然にマッサージできる方法が「笑い」です。笑うことで横隔膜や腹筋が刺激され、胃腸が活発に動くようになります。
実際に患者さんの大腸を内視鏡で見ていると、患者さんの笑いに合わせて大腸が動きます。また、うつなどで気分が落ち込んでいる人は、おなかの張りを訴えていることが多いという研究もあるようです。
笑うと腸が活性化するだけでなく、口角が上がって顔のたるみ改善にもつながります。人と話す機会が減り、笑いが減っている今こそ、お笑い番組を見るなどして、意識的に笑う機会を作ってみてください。
④おならを我慢しない
おならを我慢し続けると、ガス腹が解消されないだけでなく便秘の悪化にもつながります。さらに、ひどい場合は自律神経の乱れや、血圧の異常な低下も引き起こします。ガスが出そうだと感じたら、我慢せずに思いっきり出すとよいでしょう。
この他にも、洗面台などにつかまりながらゆっくり腰を落とす、スクワットなどの運動もお勧めです。歯みがきの合間などを利用して、こうした運動も取り入れてみるとよいでしょう。
どうしてもおなかが張ってつらいときは、市販薬を活用する人も多いかと思います。その際は次の点に注意してください。
●一つの薬に頼らず、いくつかの薬を使って様子を見る。
●酸化マグネシウムを使っている便秘薬は、使い過ぎると腎臓に負担をかけるので注意する。
●センナ系の下剤は使い過ぎに注意する。
おなかのガスを出せれば、腸も気持ちもスッキリするはず。これらのセルフケアを、ぜひ生活に取り入れてみてください。
「上体ひねり」と「ガス出し指圧」
上体ひねりのやり方
❶両足を肩幅よりやや広めに開き、腕を水平に開いて立つ。

❷息を吐きながら、骨盤より下を動かさないようにして、上半身を左右にひねる。


●朝昼晩、1日3~4回程度行う。
●下の図にある腸腰筋や、左のわき腹を意識して行うと、より効果が高まる。

●ひざが痛い人などは、座って行ってもよい。

ガス出し指圧のやり方
※力加減に注意して、あまり強く押し過ぎないようにする。気持ちいいと感じるくらいの力で押すのがベスト。
❶息を吐きながら、親指以外の4本の指で、太ももの付け根を押し込む。

❷指の位置を徐々に上へ移動させながら、へそのわき辺りまでもみほぐす。

❸最後にへその下辺りを押し込む。

この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。
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