おなかの張りの強い箇所に、左手の人さし指と中指の指の腹を軽く当て、その指の上を、右手の人さし指で軽くたたいてみてください。腸にガスがたまっていたら「ポン、ポン」という、やや高めの軽やかな音が出ます。これに対し、便や脂肪、腹水、尿などがおなかにたまっているときは、やや鈍い音が出ます。【解説】前田耕太郎(藤田医科大学消化器外科教授)

解説者のプロフィール

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前田耕太郎(まえだ・こうたろう)

藤田医科大学消化器外科教授。1979年、慶応義塾大学医学部卒業。1985年、同大学伊勢慶応病院外科手術室長に就任。スウェーデンやイギリスの大学への留学後、1990年に社会保険埼玉中央病院外科医長に就任。2004年、藤田保健衛生大学医学部消化器外科主任教授を経て現職。大腸肛門病の外科治療、機能性大腸肛門疾患(便秘、便失禁)などを専門としている。

ガス腹の原因は?

おなかの張りは一般的に「腹部膨満感」という

腸にガスがたまることでおなかが張って苦しくなったり、吐き気などの不快感が生じたりする状態は、「ガス腹」などと呼ばれています。ガス腹は、何が原因で起こるのでしょうか。

その解説をする前に、まずはガス腹をほかの病気や不調と見分ける方法を探ってみましょう。

「おなかが張って不快感がある」という状態は、医学的には「腹部膨満感」と呼ばれる症状です。腹部膨満感を症状とする病気や不調は、実は数多くあります。

まず挙げられるのは、便秘です。腸にガスではなく便がたまり過ぎることで、おなかが張って苦しくなるのです。

単なる肥満でも、腹部膨満感を招くことがあります。おなかに脂肪がついて重くなった違和感を、「おなかが張って苦しい」と感じてしまうわけです。

高齢者の場合、腹部膨満感の裏に何らかの病気が隠れている場合も少なくありません。例えば、肝臓疾患や卵巣がんなどの重篤な病気の影響で、腹腔(腹部の臓器が収まっている体内空間)にたまった腹水が腹部膨満感を生むこともあります。

また、高齢男性の場合、前立腺肥大症などによって尿が出にくくなることがあります。この場合、ひどい人では、膀胱に尿がたまり過ぎて、へその上の辺りまでおなかが張ることもあります。この状態の不快感も、腹部膨満感と呼ばれます。

医学的にいうと、これらの病気や不調の可能性が全て否定されたときに、初めて「腸にガスがたまった状態=ガス腹」と診断されるのです。

ガス腹かどうか自分で見分ける方法

おなかの張りの原因が、腸内にたまったガスなのか、それ以外なのかをレントゲンなどで調べる前に、自分で見分ける方法もあります。

内科を受診した際、医師におなかを指でたたかれたという経験がある方もいるでしょう。これは「打診」と呼ばれる、音や振動によって内部の状態を確認する診断法です。この打診をご自分で試してみてください。

まず、おなかの張りの強い箇所に左手の人さし指と中指の指の腹を軽く当てます。そしてその指の上を、右手の人さし指で軽くたたいてみてください。腸にガスがたまっていたら「ポン、ポン」という、やや高めの軽やかな音が出ます。

これに対し、便や脂肪、腹水、尿などがおなかにたまっているときは「ボン、ボン」「ボヨン、ボヨン」「ドン、ドン」といった、やや鈍い音が出ます。腹水の場合は、おなかの右側をたたくと左側までといった具合に、振動が広い範囲で響きます。

打診は経験のある医師でないと正確な判別が難しい場合もありますが、参考にしてみてください。

自分でできる「打診」の方法

画像: 自分でできる「打診」の方法

おなかの張りの強い部分に左手の人さし指と中指の指の腹を軽く当てる。
その指の上を、右手の人さし指で軽くたたいてみる。
【ガスがたまっている場合】
「ポン、ポン」という、やや高めの軽やかな音がする
【便や脂肪、腹水、尿などがたまっている場合】
「ボン、ボン」「ボヨン、ボヨン」「ドン、ドン」といった、やや鈍い音がする

腸に溜まった「ガス」の正体は?

腸内の悪玉菌によるガスの量は少ない

ではガス腹の、腸にたまった「ガス」の正体は何でしょうか。

これについて、ガス腹でお悩みの方は、「腸内環境が悪く、悪玉菌が悪いガスを盛んに発生させている」などと考えがちです。

確かに、ガス腹のガスの成分には腸内細菌が由来のものも含まれます。例えば、肉を食べ過ぎたときにおならが臭くなるのは、腸内細菌がたんぱく質を分解する際に発生する硫黄系の成分がおならに含まれているからです。

しかし、腸内細菌が由来のガスの量はごくわずかにすぎません。実際には、ガス腹のガスの大半は窒素や酸素、二酸化炭素など。つまり、「空気」なのです

私たちは食事の際、食べ物と一緒に、無自覚に空気を飲み込んでいます。また、おしゃべりしているときや喫煙時にも、唾液と一緒に空気を飲み込んでいます。

これらの空気は、本来であれば、ゲップやおならなどで排出されたり、腸で吸収され血液を介して肺に運ばれ、その後、排出されたりします。しかし、何らかの理由で十分に排出されず、空気(ガス)が腸内に滞ってしまうこともあります。その状態が、「ガス腹」というわけです。

では、なぜガスは腸内に滞るのでしょうか。

その理由は、①物理的に腸が狭くなっており、ガスが出せない、②それ以外の理由の大きく2つに分けて考えられます。

画像: この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。  www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。

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