解説者のプロフィール

本部千博(ほんべ・かずひろ)
ほんべクリニック院長。眼科医、ホリスティック医師。「近視は治せる病気」をモットーに、眼筋ほぐしメガネやナイトコンタクトなどを用いた視力向上法に力を入れる。『見るだけで目がよくニャる猫の写真』(マキノ出版)など、著書、監修書多数。
▼ほんべクリニック
疲れ目や眼精疲労に「腕振り」がおすすめな理由
腕をブラブラさせる「腕振り」のことを、気功では「スワイショウ」といいます。これは、気功の前に準備体操として必ず行う基本の体操で、スワイショウを行ってから、全身を整えます。
以前、私が気功を勉強していたころ、気功の大家である楊名時先生の本に、こんな話が載っていました。
ほぼ失明状態の人が、楊先生のところに「どうしたらいいのか」と相談に来ました。先生は「1日3時間、スワイショウをしなさい」と、答えました。その人は先生の言う通り、まじめにスワイショウを続けました。すると、なんと3年後には、目が見えるようになっていたそうです。
スワイショウの効果は、この逸話が全てを物語っています。目に限らず、人がさまざまな病気になるのは、その部分に気(一種の生命エネルギー)がいかないからです。全身の気のバランスが悪いと、過不足のあるところに、病気や症状が出てしまいます。
私は、自身の眼科で鍼灸を用いながら、目の治療を行っています。例えば目が痛いときに、目に関連する経絡(気の通り道)上にある足のツボを刺激すると痛みが取れます。
このような効果は、気の流れでしか説明できません。つまり、経絡上のツボを刺激することで、気の流れが整って、症状が改善したということです。
気の流れがよくなれば、自然と血流もよくなります。というのも、血管や内臓の働きの調整は自律神経がつかさどっているからです。自律神経は、血管を拡張・収縮させることにより、血流を支配しています。
この自律神経を支配しているものこそ、私は「気」だと考えます。気の流れを整えれば、自律神経のバランスも整い、血流や細胞の働きがよくなります。
そうすれば、たいていの目の症状も改善していきます。例えば、近視の場合、同じ視力の人に同じ度数のレンズを使っても、人によって見え方が違います。1.5まで見える人がいれば、0.8しか見えない人もいます。
しかし、気の流れを調整すれば、後者のような見え方が悪く視力の上がらない人でも、よく見えるようになります。なぜなら、気の流れとともに自律神経のバランスが取れて、目のピント調節能力が高まるからです。
老眼にも、同じことが言えます。実際、ピントを合わせる能力が少しでも残っていれば、気の流れをよくすることで、見やすくなる人が結構いるのです。
そんな気の流れを、自分で手軽に調節できる方法が、冒頭で紹介したスワイショウです。
この体操の魅力は、簡単にできること。いくら体にいいといわれていることでも、人によってはできないものもあります。しかし、腕を振るだけなら、誰にでもできるはずです。
当院の患者さんの中にも、私の本を読み、スワイショウをしている人が大勢います。特に、私の医院はオフィス街にあるため、長時間パソコンを使っている人が多くいらっしゃいます。それが原因で、疲れ目や眼精疲労に悩んでいた人から「本の通りにスワイショウを行ったら、調子がよくなりました」という声をよく聞くのです。
▼スワイショウのやり方は別記事を参照
自律神経の乱れによる目の異常が改善
スワイショウは、どんな目の症状にも効きますが、特にお勧めしたいのが、原因のわからない目の不調です。
最近、眼科のジャンルに「神経眼科」というものが加わりました。
自律神経が乱れていたり、精神的に疲れていたりすると、それが目に影響して、さまざまな症状を引き起こします。それによって、どこにも異常がないのに物が見えにくくなる、疲れ目が悪化する、痛みが出るなどの不調が出てきます。
これはまさに、自律神経が過敏になっている証拠。だからこそ、こんな症状には、自律神経と密接に関わる気の流れを整えるスワイショウがお勧めです。
さらに、日本人に多い正常眼圧緑内障の予防・改善にも、スワイショウが役立ちます。
正常眼圧緑内障の人は、一般的に血流が悪く、視神経に十分な栄養と酸素が届いていません。そのため、眼圧が正常であっても、その圧力に視神経が耐えられず、緑内障になってしまうのです。
しかし、スワイショウで気の流れをよくして、血流を改善すれば、この病気を防ぐこともできます。スワイショウは、神経を鎮める作用もあるので、夜寝る前に行うと効果的です。

スワイショウ(腕振り)で予防・改善が期待できる目の病気
●近視
●老眼
●疲れ目、眼精疲労
●原因不明の目の症状
(物が見えにくくなる、目の疲れがひどくなる、痛みが出るなど)
●正常眼圧緑内障 など

この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。
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