100歳を超える長寿の人たちの好物は何だと思いますか? 実はステーキや焼き肉と答える人が案外多いのです。しかし。肉をモリモリ食べるのが難しい人も多いでしょう。その場合にお勧めなのが、豆腐などの植物性たんぱく質や魚をしっかり食べることです。【解説】尾池雄一(熊本大学大学院生命科学研究部分子遺伝学講座教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

尾池雄一(おいけ・ゆういち)

熊本大学大学院生命科学研究部分子遺伝学講座教授。医師、博士(医学)。2007年より現職。健康長寿社会の実現へ向け、老化のメカニズム解明、および加齢関連疾患の予防・治療法の開発研究に従事。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医として、加齢関連疾患の臨床に従事。

長寿者のアルブミンの数値に注目

超100歳者の好物はステーキや焼き肉

100歳を超える長寿の人たちの好物は何だと思いますか?実は、「ステーキや焼き肉」と答える人が案外多いのです。

慶應義塾大学医学部・百寿総合研究センターの広瀬信義特別招聘教授、新井康通教授らの研究グループは、国内の100歳以上を含む高齢者を対象とした調査研究を行っています。

その中で、健康長寿達成者には肉好きが多いことがわかってきました。本研究グループは、1427人の高齢者(内訳は110歳以上36人、105~109歳572人、100~104歳288人、85~99歳531人)の血液検査データと調査時点からの生存期間を解析しました。

その結果、「アルブミン」と、「NT-proBNP」という二つの検査項目が、その後の生存期間と深く関わっていることが判明しました。この項目のうち、長生きする人はしっかり食べるし肉が好きという事実と関連があるのがアルブミンです。

私たちの体内では、アルブミンなどのさまざまな物質が作られますが、いずれも食事から摂取した栄養素が元となります。アルブミンは、血液中に最も多く存在する物質なので、アルブミンの血中濃度が、たんぱく質などの栄養素をしっかり摂取できているかの目安となります。

基準値は4g/dl以上で、3.5g/dl以下の場合は低栄養が疑われます。被験者の100歳時点でのアルブミンの値を比較したところ104歳までに亡くなった人の平均値が3.6g/dlだったのに対し、110歳以上生きた人の平均値は3.9g/dlでした。

高齢になると食が細くなるので、前者でも悪くない数値だといえます。しかし、110歳以上の長寿者は、現役世代とほぼ並ぶ値となっています。このことからも、しっかり食べて栄養を摂取できることが、長寿の秘訣の一つだといえるでしょう。

ちなみに、もう一つの項目のNT-proBNPは、心臓に負荷がかかったときに心臓から分泌されるホルモンで、心臓の働き具合を判断する目安になります。本研究では、長寿者ほどこの値が低いことも明らかになりました。

アルブミンの血中濃度を維持するメリット

アルブミンは、栄養状態の指標となるだけではありません。血中濃度を維持することで、次のメリットももたらされます。

正常な血液循環の維持

アルブミンは、血管内で水分を保持する働きをしています。濃度が下がると、血管内に水分をとどめておけなくなります。

その結果、水分が血管の外にもれ出して起こるのが、むくみや腹水などの症状です。正常な血液循環システムを保ち、こうした症状を防ぐためにアルブミンは欠かせない物質なのです。

栄養分の運搬

アルブミンは、他の物質と結合する性質があり、血流に乗ってさまざまな物質を体内の必要な部位まで運ぶ運搬役として働いています。具体的には、カルシウム・カリウム・亜鉛などのミネラルや、代謝に欠かせない酵素、ホルモンなどが、アルブミンによって運ばれています。

アルブミンの血中濃度が低下すると、これらの物質の運搬が滞り、臓器や細胞に十分な栄養が届かなくなります。

また、体内でつくられるさまざまな物質は筋肉の材料となるので、たんぱく質などの栄養をしっかり摂取するよう心がけることで、フレイル(心身機能は低下しているが要介護には至っていない状態)の予防にもつながります。

たんぱく質は今からでも摂取すればよい

植物性タンパク質摂取に「大豆ミート」も有効

この研究結果は2020年に論文で発表され、その後、雑誌やインターネットでも紹介されました。すると、血液検査の結果を見て「アルブミンが低値ですが、私は先行きが短いのでしょうか?」と、気にされる患者さんが出てきたのです。

私は、こういった患者さんに「今からでも、バランスよくしっかり食べれば大丈夫。特にたんぱく質をとるように」とお話しします。

しかし、歯や咀嚼力の問題で肉をモリモリ食べるのが難しい人も多いでしょう。その場合にお勧めなのが、豆腐などの植物性たんぱく質や魚をしっかり食べることです。

最近は、大豆を肉の代わりに使えるよう加工された「大豆ミート」という食品が登場しました。これにより、植物性たんぱく質をとるためのバリエーションが一気に広がりました。調理法の工夫によっては、日々の食事をおいしく食べる一助にもなるでしょう。

最後に、注意点をお伝えします。

たんぱく質の摂取を意識した方がよいのは、70~80歳以降の人です。どの世代の人も、まずはバランスよく適量の食事をとることが健康には重要です。特に、若い人は腹八分にして生活習慣病の予防改善を心がけましょう。

アルブミンを上げるたんぱく質摂取のポイント

動物性、植物性たんぱく質をバランスよくとる
肉をモリモリ食べられるのがベスト。歯が抜けていたり、咀嚼力が落ちていたりして難しい場合は、魚や豆腐などを活用する。

「大豆ミート」で食事を楽しく!
▶大豆ミートとは
肉の代わりに使える大豆製品のこと。水やお湯で戻して使う「乾燥タイプ」の他、最近では使い勝手のよい「レトルトタイプ」「冷凍タイプ」も販売されている。形状も、ひき肉のような「ミンチ」、薄切り肉のような「フィレ」、一口大の「ブロック」などがある。
▶使い方
表示通りに戻してから、炒め物や煮物など、普通の肉のように使う。

画像: 【長寿の食事】元気な100歳になる秘訣はたんぱく質! 無理なく食べるには「大豆ミート」が有効
画像: この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.