解説者のプロフィール

柴田重信(しばた・しげのぶ)
早稲田大学先進理工学研究科電気・情報生命専攻薬理学研究室教授。薬学博士。1981年、九州大学大学院薬学研究科博士課程修了。早稲田大学人間科学部教授などを経て2003年より現職。日本時間栄養学会会長も務める。『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門』(講談社)、『食べる時間を変えれば健康になる』(ディスカヴァー21・監修書)など、著書・監修書多数。
3食均等よりも朝を増やす方が効率的
「朝食は簡単に済ませがち」という人は、皆さんにも多いのではないでしょうか。しかし、加齢とともに衰えやすくなる筋肉を維持するには、朝食時にたんぱく質を多くとることをお勧めします。
肉や魚、卵や豆類などに豊富なたんぱく質は、筋肉量の維持や増加に必要な栄養素です。今回、私たちが行った研究では、3食の中でも特に、朝食時に多くのたんぱく質をとることが有効であると確認できました。
たんぱく質のとり方と筋肉量の関係については、これまでの研究でも、さまざまな調査報告があります。
2014年にアメリカで行われた研究では、1日3食それぞれ均等量のたんぱく質を食べたグループと、夕食時に最も多くのたんぱく質を食べたグループとで、筋肉量を比較した報告があります。
どちらも1日のたんぱく質の摂取総量は同じですが、結果はなんと、3食に分けて均等にたんぱく質を摂取した方が、筋肉合成が増えることが確認されました。
この調査報告を受け、私たちは、マウスを使った動物実験でたんぱく質を摂取する時間帯と筋肉量の関係を調べました。
アキレス腱の一部を切除したマウスは、たんぱく質を与えると、切除された箇所をカバーするように筋肉が肥大します。その筋肉の肥大率を、たんぱく質を摂取した時間帯別で比較したのです。
マウスのエサは、1日朝夕の2回。たんぱく質の総量は同じで、朝にたんぱく質を多く与えたグループと、朝夕均等に与えたグループ、夕方に多く与えたグループに分け比較しました。
すると、朝にたんぱく質を与えたグループの肥大率が最も高く、次点で均等に与えたグループ、夕方に多く与えたグループという結果になったのです。アメリカの研究報告と同様、均等にたんぱく質を与えたグループの筋肉量が一番増えるだろうと予測していたため、この結果には少し驚きました。
この他にも、たんぱく質中に含まれる分岐鎖アミノ酸(筋肉の合成に深く関わる必須アミノ酸)を添加したエサを、朝に多く与えたマウスの筋肉肥大率が高いことも確認しています。
納豆やサバ缶で体内時計をリセット!
では、なぜ朝にたんぱく質を多くとると、筋肉量が増えるのでしょうか。私たちは、その理由に体内時計が関わっていると推測しました。
人間の体は、時計遺伝子と呼ばれる遺伝子群によって、生理機能に昼夜のリズムを持たせています。筋肉の破壊や再生も、このリズムと関係しています。
実験では、時計遺伝子の一部を欠損させて体内時計を狂わせたマウスも用いました。すると、これらのマウスは朝にたんぱく質を多く与えても、筋肉量が増えなかったのです。
筋細胞を含む体の細胞は、常に分解と再利用をくり返しています(オートファジー)。このしくみによって、筋肉は夕方から夜にかけて一部が破壊されます。そして、この破壊された筋肉は昼過ぎに再生します。
一方、朝に多くのたんぱく質をとると、午後には消化吸収され、筋肉の材料になるアミノ酸に変わります。今回の実験結果には、筋肉が再生する時間にこの変化が起こることが関係しているのかもしれません。
また、私たちは、高齢者を対象とした観察実験も行いました。その結果、高齢女性の場合、昼や夜よりも朝のたんぱく質摂取量が多い人ほど、筋肉量が多いことが確認できています。

高齢女性のたんぱく質摂取のタイミングと骨格筋機能の関連
人間の場合は、まだ追加検証が必要ですが、マウスと同様に朝食時に多くのたんぱく質をとることで、筋肉の維持・増加が期待できるといえるでしょう。
では、朝食でたんぱく質を多くとるには、どうすればよいのでしょうか。
約2500名の朝食の内容を調べた調査報告によると、たんぱく質の摂取量が最も多かったのは、和食でした。和食は、みそ汁のみそや豆腐、油揚げ、おかずの納豆や卵、魚などで、異なる種類のたんぱく質を無理なく多くとることができます。
さらに、近年の研究では、魚に豊富なDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、納豆に含まれるビタミンKを朝にとると、乱れた体内時計をリセットできるといわれています。
マウスを使った実験では、体内時計が乱れていると、朝にたんぱく質を多くとっても筋肉量が増えませんでした。筋肉量の維持や増加を狙うなら、朝食にサバ缶やツナ缶、納豆などを加えるとよいかもしれません。
朝食はパン派だという人は、これまでの食事にツナ缶や魚肉ソーセージ、牛乳、チーズ、卵などを加えてもよいでしょう。
[別記事:おいしく手軽にたんぱく質が摂取できる!ふわ焼き鶏むね肉の作り方&やわらかレシピ→]

この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp