たんぱく質をはじめとする栄養が不足する「低栄養」状態は、肥満やメタボリックシンドロームよりも死亡リスクが高いといわれており、免疫力の低下、筋力の低下にも大きく関わってきます。1日に必要なたんぱく質を1食でとろうとしても、体内で利用しきれずに排出されてしまうため、3回の食事でしっかりとるのが大切です。その上で特に意識してほしいタイミングが、朝食です。【解説】藤田聡(立命館大学スポーツ健康科学部教授)

解説者のプロフィール

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藤田聡(ふじた・さとし)

立命館大学スポーツ健康科学部教授。1993年ノースカロライナ州ファイファー大学スポーツ医学・マネジメント学部卒業。2002年南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。博士(運動生理学)。2006年にテキサス大学医学部内科講師、2007年に東京大学大学院新領域創成科学研究科特任助教を経て、2009年より立命館大学に着任。2012年より現職。『眠れなくなるほど面白い 図解 たんぱく質の話』(日本文芸社)、『カラダに効く! タンパク質まるわかりBOOK』(学研プラス)など、監修書多数。

たんぱく質や栄養の不足で起こる「低栄養」

低栄養はメタボより死亡リスクが高い

何歳になっても、自分の足で元気に歩きたい。そう思っている方は多いのではないでしょうか。

そんな人には、たんぱく質を毎食一定量、特に「朝食」で意識的にとることをお勧めします。理由をお話しする前に、まずは、たんぱく質と筋肉の関係について説明しましょう。

たんぱく質は、筋肉をはじめ皮膚や髪、爪など、体のあらゆる組織をつくる材料になっています。たんぱく質の総重量は体重の約30~40%にも上り、特に筋肉は約80%がたんぱく質で構成されています。

これらのパーツは、毎日つくり変えられます。そのため、筋肉量や肌ツヤの維持には、材料となるたんぱく質を毎日欠かさずとることが必要です。

しかし、厚生労働省の調査によると、年を取るにつれて、たんぱく質をはじめとする栄養が不足する「低栄養」状態に陥る人の割合が増えているのだそう。低栄養は、肥満やメタボリックシンドロームよりも死亡リスクが高いといわれており、体重の減少や免疫力(病気に対する抵抗力)の低下にも大きく関わってきます。

低栄養を放置すると、「サルコペニア」と呼ばれる、筋力の低下や筋肉量の減少が起こります。これにより、歩く、座る、姿勢を維持するなどの日常動作がスムーズに行えなくなったり、疲れやすくなったりするなどの支障が出ます。

疲れやすくなって活動量が減ることは、食欲の低下にもつながります。すると、低栄養もますます進行し、筋肉量も減少する……という、悪循環に陥ってしまうのです。

そして最悪の場合、身体機能が低下した、要介護1歩手前の状態である「フレイル」になってしまいます。フレイルになると、骨折や感染症にかかるリスクが高まるため、将来寝たきりになることにもつながります。

ただ、フレイルになってしまっても、しっかり栄養をとるなどして筋肉量を取り戻せば、健康な状態に戻る可能性もあります。そのためにも、普段からたんぱく質を摂取することが、非常に重要なのです。

朝にたんぱく質をとる方が筋肉量が増える!

では、筋肉量を維持するためには、どのようにたんぱく質を摂取すればよいのでしょうか。

大前提としてお伝えしたいのが、「たんぱく質は3回の食事でしっかりとるのが大切」だということです。

1日に必要なたんぱく質を1食でとろうとしても、体内で利用しきれずに排出されてしまいます。また、筋肉は合成と分解をくり返すため、食事の間隔が空いてしまうと、その分筋肉の分解が進みます。

逆に言えば、毎回の食事で一定量のたんぱく質をとれば、栄養を効率よく利用することができます。

1日に必要なたんぱく質量は、65歳以上の場合で、体重×1.06gが目安です。60kgの人の場合は、1日に63.6gのたんぱく質が必要なので、1食当たり21.2gずつとるのがよいでしょう。

その上で特にたんぱく質を意識してほしいタイミングが、朝食です

2012年の国民栄養調査結果では、多くの国民が朝食や昼食で十分なたんぱく質をとれていないことがわかりました。

特に朝は、夕食から食事の時間が空いていることもあり、筋肉の分解がかなり進んでいる状態。だからこそ、意識的にたんぱく質を補給して、筋肉の合成スイッチを入れることが重要になってきます。

このことは、私が行った調査でも明らかになっています。大学生26人に週3回のトレーニングを行ってもらい、片方のグループは夕食に15gのたんぱく質を、もう片方のグループは朝食にたんぱく質15gをとらせたところ、3ヵ月後には、朝にたんぱく質を摂取したグループの方が、筋肉量が40%も多く増えていたのです。

そうは言っても、朝は食欲が湧かない人もいるでしょう。そんな人は筋肉の合成スイッチをオンにするアミノ酸の一種、ロイシンを多く含むヨーグルトやチーズ、牛乳などの乳製品をプラスするのがお勧めです。

忙しくて朝食をとる時間がない場合は、「ホエイプロテイン(牛乳が原料のプロテイン)」を活用してもよいでしょう。

また、筋肉量の維持や増加には、たんぱく質の摂取の他に、適度な運動も大切です。

中でも意識したいのが、下半身の筋トレ。大腿四頭筋や大臀筋などの大きな筋肉がある下半身は、全身の筋肉の60~70%を占めています。

また、立つ、歩くといった日常動作の多くにも、これらの筋肉が関係しています。

次の項では、簡単にできて続けやすい、下半身を中心とした筋トレを紹介しています。これらの運動とたんぱく質の摂取を組み合わせて、元気な体を維持していきましょう。

たんぱく質摂取のポイント

毎食一定のたんぱく質をとる
〈1食分のたんぱく質の目安〉
65歳以上の場合:体重□kg×1.06g÷3
(例)60kgの場合:60kg×1.06g÷3=21.2

朝食で意識的にとる
朝が忙しい人は、ホエイプロテインを使うのも◎。

下半身の筋トレも行う
大腿四頭筋や大臀筋を鍛えられる簡単な筋トレがお勧め。毎日続けられるものを。

[別記事:おいしく手軽にたんぱく質が摂取できる!ふわ焼き鶏むね肉の作り方&やわらかレシピ→

おうちでできる!簡単筋トレのやり方

ポイント
各種目を1日1セットずつ行う
食事と筋トレの順番は、どちらが先でもよい
「歯磨きをしながら」「テレビを見ながら」など、普段の習慣としてトレーニングを行うと定着しやすい
どの部位を鍛えているかを意識しながら行う
息は止めず、自然に呼吸をしながら行う。どうしても息が止まる場合は、「1、2、3……」と数を数えながら行うとよい
体に違和感が出たら、無理をせずに休む

1. スクワット

1セット▶︎10回 鍛える部位▶︎お尻、太もも

足を肩幅に広げていすに座り、両手を太ももの付け根に置く。

画像1: 1. スクワット

足の裏が床から離れないようにしながら、ゆっくり立ち上がる。この時、前傾姿勢になっても構わない。

画像2: 1. スクワット
画像3: 1. スクワット

2. いす腹筋

1セット▶︎片側5回ずつ 鍛える部位▶︎おなかの横

いすに座り、頭の後ろで腕を組む。

画像1: 2. いす腹筋

上半身をまっすぐにしたまま、体を左右にひねる。

画像2: 2. いす腹筋
画像3: 2. いす腹筋

[応用]慣れてきたら、①の状態から体をひねり、ひじと反対側のひざを交互につける。

画像4: 2. いす腹筋

3. お尻上げ

1セット▶︎10回 鍛える部位▶︎おなか全体

あおむけになった状態で手のひらを床につけ、ひざを90度に曲げる。

画像1: 3. お尻上げ

肩からひざまでがまっすぐになるところまで腰を浮かせる。その後、ゆっくりと腰を落として①の体勢に戻る。

画像2: 3. お尻上げ

4. つま先上げ

1セット▶︎10回 鍛える部位▶︎すね

両足を揃えていすに座る。ひざは90度に曲げる。

画像1: 4. つま先上げ

かかとを床にしっかりとつけ、つま先を上げたり下げたりする。

画像2: 4. つま先上げ

5. かかと上げ

1セット▶︎10回 鍛える部位▶︎ふくらはぎ

両足を揃えていすに座る。ひざは90度に曲げる。

画像1: 5. かかと上げ

つま先を床につけたまま、かかとを上げたり下げたりする。

画像2: 5. かかと上げ

[応用]慣れてきたら、立って行う。

両足を揃えてまっすぐ立つ。

画像3: 5. かかと上げ

つま先を床につけたまま、かかとを上に浮かせる。

画像4: 5. かかと上げ
画像: この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年4月号に掲載されています。

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