シニア層は寝たきりにつながる恐れもある
解説者のプロフィール

平畑光一(ひらはた・こういち)
ヒラハタクリニック院長。山形大学医学部卒業。東邦大学大橋病院で一般内科、循環器内科を研修、国立病院機構東京病院で呼吸器内科の研修を経て、東邦大学大橋病院消化器内科にて胃腸疾患や膵炎など、消化器全般の診療に携わる。2008年7月より東京・渋谷にある「ヒラハタクリニック」院長に就任。20年3月に「新型コロナ後遺症外来」を開設。オンライン診療も行う。日本消化器内視鏡学会専門医、日本医師会認定産業医、日本内科学会認定医。
▼ヒラハタクリニック
新型コロナ後遺症とは?
10種類以上の症状を併発する人も!
2022年1月現在(取材時)、新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)が再び猛威を振るい、流行第6波といわれています。オミクロン株による今回の流行は、感染者数は多いものの、比較的軽症で済む場合も多く、「新型コロナは普通のカゼに近づいているのでは」と考えるかたも少なくないようです。
しかし、新型コロナで怖いのは感染症そのものの症状だけではありません。実は、当初の症状が治まり、「回復した」と考えられる時期にも症状が残る、あるいは新たに症状が出現する「新型コロナ後遺症」(以下コロナ後遺症)が大変深刻なのです。
私は、自分の患者さんにコロナ後遺症のかたがいたことをきっかけに、2020年3月、「新型コロナ後遺症外来」を立ち上げ、これまで3000人以上のかたを診察してきました。
コロナ後遺症については、世界的に見ても全貌が明らかになっておらず、治療法も確立していません。そこで私のこれまでの臨床経験に基づき、コロナ後遺症の特徴をお伝えしましょう。
新型コロナ後遺症の特徴
❶症状が多岐にわたる
多い症状は下の図のとおりです。その内容は次項以降で詳しく説明します。よく知られる倦怠感や気分の落ち込み、体の痛み、嗅覚・味覚障害、脱毛のほかにも、人によって多様な症状が現れます。
同じ症状が長く続く人もいれば、異なる症状が出たり消えたりする人もいます。複数の症状(人によっては10種類以上)に悩まされる人が非常に多いことも特徴です。

コロナ後遺症の主な症状
ヒラハタクリニックを受診した3097人への聴き取りより(複数回答)
❷あとから発症する人もいる
多いのは、発熱や肺炎などの新型コロナの急性期症状が落ち着いたあとも不調が残り、途切れることなく後遺症になるケース。当院の調査では、88%のかたがこのパターンでした。
また、新型コロナの回復後、しばらく問題なく暮らしていたにもかかわらず、2~3ヵ月後、あるいは1年以上経ったのちに突然発症する人もいて、なかなか油断ができません。
❸新型コロナ軽症者は、後遺症が長引きやすい
新型コロナの重症者は、肺などの臓器に深刻な打撃を受けます。それにより臓器を中心に後遺症が残る確率も高いのですが、治療・リハビリをしっかり行うことで、回復が望めます。
一方で、軽症だったかたの後遺症は、倦怠感が中心の症状となることが多く、長引くことが多いようです。ですから、新型コロナが軽症だったからといって安心せず、用心する必要があるのです。
このようなコロナ後遺症の諸症状による、日常生活への影響は甚大です。
当院の患者さんのうち、在職中のかたへのヒアリングでは、約66%のかたが仕事に影響が出ていると回答。また約40%のかたは、一時的に休職となり、約6%のかたは、退職・廃業・解雇などに追い込まれています。
一時的に働けなくなるというだけではなく、仕事を失ってしまう人もいることから、社会問題としても捉える必要があると考えられます。また、シニア層の場合、倦怠感や体力の低下から、そのまま寝たきりにつながるという不安もあります。
ですから現在流行中のオミクロン株について、症状は軽いといわれても、決して油断してはいけません。コロナ後遺症を防ぐいちばんの方策は、まずは新型コロナに感染しないこと。罹患していないかたは、万全の対策を続けてください。
コロナ後遺症の治療法については、まだ世界中の医療機関が手探りで進めている状況ですが、少しずつ知見も集まり、各症状に対する注意点や、効果がある治療法もわかってきています。次項からは、症状別の私の治療法や、お勧めしているセルフケアをご紹介します。