マグネシウムが不足すると、細胞がインスリンの作用を受けにくくなって、糖分を取り入れづらい状態になります。細胞内の糖分が処理されにくくなるのです。すると、マグネシウムが腎臓で再吸収されず尿に排出される量が増え、さらにマグネシウム不足を引き起こすという悪循環が生じ、血糖値は高くなっていくのです。【解説】長谷部直幸(旭川医科大学名誉教授/心血管再生・先端医療開発講座特任教授)

解説者のプロフィール

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長谷部直幸(はせべ・なおゆき)

旭川医科大学名誉教授/心血管再生・先端医療開発講座特任教授。旭川医科大学大学院卒業。医学博士。循環器病学の医師として勤めた後、米国ハーバード大学研究員として3年研究を行う。帰国後、旭川医科大学第一内科助教授、同大学内科学講座循環・呼吸・神経病態内科学分野教授、同大学心血管再生・先端医療開発講座兼任教授、同大学循環・呼吸医療再生フロンティア講座兼任教授を経て、2021年3月に定年退職。同年4月より現職。

糖尿病が増えている背景の一つに「マグネシウム」不足

糖分を処理できるのはマグネシウムのおかげ

糖尿病は、「中高年で、太った人がかかる病気」というイメージを持たれがちですが、必ずしもそうとはいえません。

糖尿病が増えている背景として、現代の日本人は、マグネシウムが不足していることが挙げられます。

戦後、食生活の欧米化が進みました。この変化で、日本人は雑穀などの穀物類や大豆などの豆類といった、マグネシウムを豊富に含む食品を食べる機会が減少しました。こうした食生活の欧米化と並行する形で、糖尿病の患者数も増加したのです。

マグネシウムは、体にとってたいせつな成分です。では、なぜ不足すると糖尿病の原因となるのか、ご説明しましょう。

細胞はインスリンと結びつくことで、血液中の糖分の取り込みや処理を促します。マグネシウムには、インスリンを細胞に結びつけやすくする働きがあります。また、細胞内での糖分の分解反応を助けます。

つまり、細胞が血液中の糖分をスムーズに取り入れて処理できるのは、マグネシウムのおかげというわけです。

マグネシウムが不足すると…

マグネシウムが不足すると、細胞がインスリンの作用を受けにくくなって、糖分を取り入れづらい状態、つまりインスリン抵抗性が高い状態になります。細胞内の糖分が処理されにくくなるのです。

また、腎臓には体に必要な栄養素や水分を戻す「再吸収」という働きがあり、全身のバランスを整える役割を担っています。ところがインスリン抵抗性が高いと、マグネシウムが腎臓で再吸収されにくくなり、尿に排出される量が増えます。

このように、マグネシウム不足がインスリン抵抗性を高め、さらにマグネシウム不足を引き起こすという悪循環が生じ、血糖値は高くなっていくのです。

マグネシウムが豊富な食材

私のおすすめは豆腐や納豆、ナッツ類

現代の日本人のマグネシウム摂取量(1日当たり)は、推奨摂取量より男性は100mg、女性は50mg、不足しているといわれます。ですから、マグネシウムがたっぷり含まれている食品をふだんから取り入れることがたいせつです。

その目安ですが、前述した不足分をさらにとるよう、意識するといいでしょう。不足しているマグネシウムを十分に補うことで、血糖値降下に役立つことが期待できます。

加えて、マグネシウムが豊富な食材は、食物繊維も多く含んでいる傾向があります。そのため、腸での糖分の吸収を抑えて、食後の血糖値上昇を緩やかにする効果もあります。いわゆる「血糖値スパイク」を防ぐのにも、適しているのです。

マグネシウムを豊富に含む食材は、下記の一覧をご参照ください。そのなかでも、私がお勧めするのは、豆腐や納豆といった大豆食品ナッツ類です。

特に豆腐は、マグネシウム豊富な大豆と、主成分が塩化マグネシウムであるにがりが材料に使われています。100gの豆腐で換算すると、50mg以上のマグネシウムが含まれています。豆腐1丁は約300gなので、男性なら3分の2丁、女性なら3分の1丁をふだんの食事に加えると、1日の不足分が補えることになります。納豆をそばにのせた納豆そばもお勧めです。

マグネシウムが豊富な食材
生そば65㎎玄米110㎎
豆腐(木綿)57㎎納豆100㎎
アーモンド290㎎ピーナッツ170㎎
ワカメ(生)110㎎ノリ(焼き)300㎎
ヒジキ(ゆで)37㎎カキ65㎎
アサリ100㎎マグロ(赤身)45㎎
ほうれん草(ゆで)40㎎アボカド34㎎
バナナ32㎎……など
可食部100g当たりのマグネシウム量。
数値は文部科学省『日本食品標準成分表2020年版』〈八訂〉より

また、飲水を硬水のミネラルウォーターにするのもいいでしょう。硬水とは、ミネラルが豊富な水で、マグネシウムも多く含まれます。硬水かどうかは、ラベルの成分表を見ればわかります。

サプリメントに頼り過ぎるのはお勧めできません。先に述べた食物繊維やビタミンなど、ほかの栄養素もバランスよくとることが重要です。自然の食べ物に含まれるマグネシウムをとる、というのが望ましい考え方です。

マグネシウムのとり過ぎは、あまり心配ありません。たとえ極端に摂取し過ぎたとしても、せいぜい下痢になる程度です。ただし、極度に腎機能が悪い人は、過剰摂取を避けたほうがいいでしょう

何事もほどほどが大事です。一度にたくさんとるよりも、毎食、分散してマグネシウムが豊富な食材を食べるように心がけましょう。

マグネシウムには、糖尿病の合併症として起こりやすい動脈硬化や高血圧などの予防や改善も期待できます。糖尿病対策の食事というと糖質が注目されがちですが、マグネシムにも目を向けて、継続的に摂取するように日ごろから心がけてください。

[別記事:マグネシウムたっぷり!合併症も防ぐ!糖尿病特効レシピ→

画像: この記事は『壮快』2022年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年4月号に掲載されています。

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