軽い糖尿病や糖尿病予備軍の人には、糖質摂取量を従来の2/3程度に減らす糖質制限を推奨します。ポイントは毎食、均等に糖質を減らすことです。また、糖質を制限するからといって、好き放題脂質やたんぱく質を食べていいというわけではありません。ふだん不足気味な脂質や植物性のたんぱく質を意識してとることが大事です。【解説】小早川裕之(小早川医院院長)

解説者のプロフィール

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小早川裕之(こばやかわ・ひろゆき)

小早川医院院長。医学博士。日本内科学会認定総合内科専門医。日本透析医学会専門医。「元気で長生き」をモットーに、薬物療法だけに頼らない医院を目指し、緩やかな糖質制限食を核とした糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病の予防・治療、家族のケアを考慮した認知症治療に力を入れている。
▼小早川医院

健康診断で把握できない食後高血糖に注意!

糖尿病とは、膵臓で作られるインスリン(血糖値を下げるホルモン)の分泌量が減ったり、その効きが悪くなったりすることで、慢性的な高血糖が持続する状態を指します。

糖尿病の治療では、血糖値を安定させて合併症を防ぐことが、重要なテーマとなります。慢性的な高血糖が長期間続くと、糖尿病特有の血管合併症を招きやすくなります。

この血管合併症には、「細小血管障害」と「大血管障害」があります。

細小血管障害とは、体内の細い血管が、高血糖によりダメージを受けることで生じます。腎症や網膜症、神経障害があり、これらは糖尿病の三大合併症と呼ばれています。

一方の大血管障害は、比較的太い血管で動脈硬化が起こり、さまざまな病気が発症する障害です。脳梗塞や心筋梗塞、壊疽といった重篤な病気の発症リスクが高まるので、要注意です。

一般的な健康診断では、空腹時血糖値や、過去1~2ヵ月間の血糖状態の目安となるヘモグロビンA1cを調べます。しかし、これらの検査では把握しきれないのが、「食後高血糖」(血糖値スパイク)です。

食事を取ると、誰でも血糖値が上がります。健康な人では適切にインスリンが分泌され、食後も140mg/dl以内に保たれます。

ところが、インスリンの分泌が不十分だったり、インスリンの効きが悪くなっていたりすると、食事で血糖値が急激に上がり、食後血糖は140mg/dl以上となります。これが食後高血糖です。

食後高血糖は、前述の大血管障害の原因となります。ですから、空腹時血糖値やヘモグロビンA1cだけでなく、食後の血糖値にも注意すべきです。

健康診断などで糖尿病予備軍(ヘモグロビンA1cが8.9%以下)や境界型糖尿病と指摘されたことがある人も、「自分は軽い糖尿病である」と自覚し、きちんと対処すべきです。

「糖質制限」を行う際に気を付けること

動物性のたんぱく質や脂質に偏らないよう注意

私のクリニックでは、10年前から糖尿病の食事療法に「糖質制限」を取り入れています。私が指導する糖質制限では、糖質の摂取量を減らし、その分を脂質やたんぱく質で補います。

糖質、脂質、たんぱく質の3大栄養素のうち、直接的に血糖値を上げるのは糖質だけです。従って、食後高血糖を抑えて血糖値をコントロールするには、糖質を減らすのが最も効率的です。

日本人の平均的な食事では、1日3食とも主食を取ると、糖質の摂取量は1日250gくらいになります。これをどのくらい制限するかは、糖尿病の重症度によって変わってきます。

重度の糖尿病(ヘモグロビンA1cが12%以上)の人は、糖質摂取量を数十g以下にし、ゼロに近づける厳しい糖質制限を一時的に行うこともあります。血糖値が落ち着いたら制限を緩めていきます。

中程度の糖尿病(ヘモグロビンA1cが9~11.9%)の人は、糖質摂取量を従来の3分の1程度に減らすのがお勧めです。軽い糖尿病や糖尿病予備軍の人には、糖質摂取量を従来の3分の2程度に減らす糖質制限を推奨します。ポイントは毎食、均等に糖質を減らすことです。

糖質を減らした分は、脂質やたんぱく質の摂取量を増やします。ここで重要なのは、どんな脂質やたんぱく質をとるか、ということです。糖質を制限するからといって、好き放題、脂質やたんぱく質を食べていいというわけではありません。

現在、日本でも欧米化した食生活が一般的となりました。しかし欧米食は、動物性の脂質やたんぱく質に偏りがちです。

ハーバード大学の研究では、動物性脂肪をとり過ぎると、がんや心筋梗塞、脳卒中になりやすいというデータがあります。ふだん不足気味な脂質や植物性のたんぱく質を、意識してとることが大事です。

画像: 糖質制限中の脂質の種類によるがんリスク

糖質制限中の脂質の種類によるがんリスク

例を挙げると、オリーブオイルやエゴマ油、アマニ油、シソ油などの油や、魚全般、納豆、豆腐、揚げ、豆乳、湯葉、おからといった食材は、不足しがちな脂質やたんぱく質を豊富に含みます。

併せて、糖質の質にも注意を向けましょう。白砂糖や白いパン、白米など精製度の高い糖質食品は、血糖値を急激に上げます。玄米や雑穀米、全粒粉のパンやパスタなど、精製度の低い穀物を選ぶようにしましょう。

最近、高齢になってから糖尿病を発症する人が増えています。血糖値が少し高い人も油断せずに、ぜひ今回ご紹介した糖質制限を意識してください。

画像: この記事は『壮快』2022年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年4月号に掲載されています。

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