解説者のプロフィール

小柳津広志(おやいづ・ひろし)
東京大学名誉教授。1977年、東京大学農学部農芸化学科卒業。アメリカ・イリノイ大学留学を経て、腸内微生物と微生物系統進化の分野で論文を多数発表。世界中の微生物研究者から評価され、43歳のとき東京大学の教授となる。2003年より東京大学大学院生物工学研究センター教授を務め、16年に退職。著書に『東大微生物博士が教える 花粉症は1日で治る!』(自由国民社)など。
ゴボウは「酪酸菌」を腸内で増やす代表的な食品!
「酪酸菌」とは?
腸内細菌が健康に大きく関与していることは、よくご存じでしょうか。私は腸内細菌について数多くの論文を発表していますが、この分野の研究は、日々進んでいます。今最も注目されているキーワードは「酪酸菌」です。
腸内には、多種多様な細菌が棲息しており、この生態系を腸内細菌叢といいます。高齢者の腸内細菌叢を調査した研究があり、健康長寿な人は腸内の善玉菌のうち、酪酸菌の割合が多いと判明しました。酪酸菌はそれゆえ、「長寿菌」とも呼ばれています。
では、酪酸菌を増やすには、どうすればいいのでしょうか。有力な答えは、「フラクトオリゴ糖」。フラクトオリゴ糖は、ヒトの消化酵素で分解されない難消化性のオリゴ糖です。腸内で酪酸菌のエサになり、酪酸菌を増やします。
摂取するには、サプリメントが最も効率的ではありますが、フラクトオリゴ糖は食品中にも含まれています。含有量が多いとして知られる野菜や果物がいくつかあり、ゴボウはその代表的な物の一つ。ゴボウ1本を100~150gとするとフラクトオリゴ糖はその中に、10gほど含まれています。
酪酸菌を増やし、健康効果を発揮するためには、フラクトオリゴ糖を、少なくとも10gはとりたいところです。
そう考えると毎日ゴボウを1本食べるのは不可能……でも、ちょっと待ってください。ほかの食品、例えばタマネギやニンニク、ニラ、アスパラガスなどにもフラクトオリゴ糖は含まれています。
そうした野菜も意識してとりつつ、ゴボウを積極的に食べることで、フラクトオリゴ糖の摂取量を着実に増やせます。
「酪酸菌」が増えると何が起きる?
花粉症やぜんそくなどアレルギー性疾患が改善
では、ゴボウに多いフラクトオリゴ糖により酪酸菌が増えると、具体的にどう健康にいいのでしょうか。
酪酸菌は、大腸で酪酸を増やす働きをします。実は、主役はこの酪酸であり、酪酸が産生する各種の免疫細胞です。これまでに論文で公表された事実と、私がフラクトオリゴ糖摂取者を調査して確認した健康効果を、以下に列挙しましょう。
●便通がよくなる
酪酸は大腸細胞のエネルギー源となり、ぜん動運動(便を送り出す動き)を促進します。栄養吸収もよくするので、便の状態もよくなります。
●全身の炎症を抑える
免疫抑制細胞の一種である活性型制御性T細胞が増えることで全身の炎症が抑えられ、花粉症やアトピー性皮膚炎、ぜんそくなどのアレルギー性疾患が改善します。
関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患や、うつや慢性疲労症候群などといった脳の炎症性疾患にも効果を発揮。血管の炎症も抑えるので血流がよくなり、脳梗塞や心筋梗塞、認知症の予防にも有用です。痔の改善にも役立ちます。
●組織の修復力が向上する
同じく活性型制御性T細胞の増加により、骨密度がアップします。傷が早期に治り、イボが消失した事例もあります。私自身も、ほくろがポロリと取れて驚きました。シミやシワなどへの効果も期待できます。
●免疫が強化される
活性型キラーT細胞という免疫細胞が増え、ウイルスに感染しにくくなります。カゼやインフルエンザはもちろん、新型コロナウイルスにも有効です。口唇ヘルペス、帯状疱疹など、さまざまなウイルス性疾患を撃退します。免疫力が高まるので当然、がん予防にもなります。
おすすめの食べ方は「酢ゴボウ」

このように、ゴボウに多いフラクトオリゴ糖の健康効果は枚挙にいとまがありません。
効果の発現に肝心なのは、ある程度の量を、継続して摂取すること。もちろん、多彩な食べ方ができればそれに越したことはありませんが、毎日異なるゴボウ料理を作るのは大変です。
そこでお勧めなのが、ゴボウを調味酢に漬けた「酢ゴボウ」です。漬け物感覚で毎日食卓に出すことで、飽きずにおいしく食べることができます。
酢は発酵食品であり、含まれる酢酸は、腸内で善玉菌を増やします。また、酸による刺激もぜん動運動を促進するので、酢ゴボウは、ダブルで腸に効くというわけです。
腸はまさに健康の要です。人生100年時代、酢ゴボウをはじめ、フラクトオリゴ糖の多い食品を意識してとり、さまざまな病気を遠ざけましょう。健康長寿も、夢ではありません。
酢ゴボウの作り方

材料と用意するもの(作りやすい分量)
・ゴボウ…1本(150~200g)
・清潔な耐熱容器(容量500ml程度でふたつきの物)
[漬け酢]
・酢…150ml
・白だし…50ml(めんのつけつゆに3倍希釈するタイプを使用。好みにより調整)
・ハチミツ…大さじ2

❶ゴボウはタワシなどでこすり洗いし、土を落とす。皮はむかないまま、1~2mm幅の斜め薄切りにする。アク抜きはしなくてよい。

❷漬け酢の材料を耐熱容器に入れ、600Wの電子レンジで30秒加熱し、ハチミツを溶かす。①を加えて混ぜ合わせ、ふんわりとラップをかけ、再度電子レンジに入れ5分加熱する。

❸粗熱が取れたら食べられる。時間をおいたほうが味がなじむ。
食べ方と保存など
漬け物としてそのまま食べる。酸味を生かして和え物にしたり、刻んでサラダに加えたりしてもよい。
●食べる量や回数に決まりはない。体調により量を調整する。
●ふたをして冷蔵庫で保存。1週間ほどで食べ切る。
●余った漬け酢は、ドレッシングがわりに使うなどして活用する。

この記事は『壮快』2022年4月号に掲載されています。
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