腸内環境のため積極的に摂取したい食品、それが、ゴボウをはじめとした根菜類です。【解説】田中善(田中クリニック院長)
解説者のプロフィール

田中善(たなか・よしむ)
田中クリニック院長。1952年、大阪市生まれ。鳥取大学医学部医学科卒業。80年、大阪大学第一内科(腎臓内科)に入局し、医学博士を取得。大阪厚生年金病院腎臓内科医長を経て、現在、医療法人仁善会田中クリニック院長兼理事長。日本腎臓学会腎臓専門医。腸内フローラ移植臨床研究会代表理事、日本先制臨床医学会理事、日本老化制御医学会理事、IAOMT-Asia副代表なども務める。
▼田中クリニック(公式サイト)
私が「根菜食」をおすすめする理由
食物繊維の摂取不足が腸内環境の悪化を招く!
私は日ごろから患者さんに、日本古来の和食、とりわけ「根菜食」を勧めています。
かつて日本人は、すばらしい腸内細菌叢(腸内に棲む細菌の生態系)を誇っていました。
伝統的な和食には米や雑穀、豆、多種の野菜、海藻、キノコなどが用いられ、食物繊維を多く含みます。こうした食材と、みそや納豆などの発酵食を日々摂取することで、多様な善玉菌が腸に棲みつき、腸内環境が良好に整えられていたのです。
文献によれば、江戸時代の人は、1日5回も便通があったとのこと。さぞかし腸の状態が良好だったろうと推察されます。
しかし時代は変わり、食のスタイルが欧米化すると、パンや牛乳、肉食の台頭により、食物繊維の摂取量は激減しました。
実際、1950年ごろの日本人は、1日当たりの平均食物繊維摂取量が20g以上ありましたが、2018年の調査によると15gまで落ち込んでいます。
食物繊維が不足すると腸内環境が悪化しますが、これは免疫力の低下に直結します。なぜなら、腸には免疫細胞の大部分が集まっており、腸は「人体最大の免疫器官」だからです。
私の専門は腎臓内科ですが、がんの免疫療法に長く携わっていることから、がんの患者さんも多く来院されます。
存じのとおり、がんは免疫力の低下により引き起こされます。そして実際、がんで来院される患者さんは、欧米風の食を好む傾向があります。
医療がこれだけ進歩しているにもかかわらず、日本においてがんやアレルギー性疾患など、免疫にかかわる病気がなかなか減らない、もしくは増えているのは、腸内環境が変化してきたことと無関係ではないのです。
腸内環境のために摂りたい「ゴボウ」
食物繊維だけではない!ゴボウの健康パワー
腸内環境のため積極的に摂取したい食品、それが、ゴボウをはじめとした根菜類です。
特にゴボウは、食物繊維が豊富。野菜に珍しく水溶性の割合が多く、便に水を含ませて排便を促進。便秘を解消します。
水溶性食物繊維はイヌリンという多糖類です。これは血中のコレステロールを減らし動脈硬化を撃退。また、血糖値が上がるのを抑えます。利尿作用もあり、むくみ取りにも有効です。
私の専門である腎臓は、血液をろ過して浄化するフィルターのような働きをします。ゴボウもまた、血液の状態を改善して余分な水分の排出を促すことから、腎臓にも好影響を及ぼすでしょう。
一方、不溶性食物繊維はリグニンといい、便のかさを増すことで、排便を促します。がん予防にも効果があります。
食物繊維は腸に届くと腸内細菌のエサとなり、善玉菌を増やします。すると、短鎖脂肪酸が産生されて、腸内が弱酸性になります。これこそが、腸にとって最善の状態です。
腸がきちんと機能するようになると、免疫力が高まり、がん予防はもちろん、花粉症やアトピー性皮膚炎、ぜんそくなどのアレルギー性疾患の改善にも、大いに役立ちます。冷えも改善して、血流がよくなれば、血圧降下の助けにもなるでしょう。
また、精神を安定させるカルシウムやマグネシウムの吸収がよくなったり、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンや睡眠の質を高めるメラトニンの生成が促されたりします。「腸は脳とつながっている」といわれますが腸の状態がよくなると、実際、うつや不眠が改善されます。
ゴボウについて特筆すべきは食物繊維だけではありません。
あの黒い色は、コーヒーと同じクロロゲン酸をはじめとするポリフェノールによるものです。強い抗酸化作用があり、老化防止に役立ちます。クロロゲン酸には脂肪肝や糖尿病の予防効果が認められており、ダイエットにも役立つでしょう。肌のシミを薄くするなどの美肌効果も、確認されています。

ゴボウが効く!
●便秘 ●ダイエット ●美肌 ●動脈硬化・高血圧 ●血糖値上昇の抑制 ●腎機能の維持 ●免疫力アップ ●がん予防 ●アレルギー性疾患 ●冷え・むくみ ●うつ・不眠
ゴボウの健康効果を最大限生かすコツ
梅ゴボウで腸機能アップ
こうしたゴボウならではの健康効果を最大限生かすには、コツがあります。調理の際に皮を洗い過ぎたり、むいたりしないこと。そして、アク抜きのため水にさらさないことです。せっかくの水溶性食物繊維やポリフェノールが、減ってしまいます。
また、洗いゴボウよりも泥つきの物を選ぶのがお勧めです。泥には、土壌菌が棲息しています。私たちは昔から、手についた、あるいは野菜に付着した土壌菌を体内に取り入れ、それが腸内細菌の多様性を生み出してきました。自然と共存することで、健康が得られます。
私たちの腸内細菌叢は、祖先から脈々と受け継がれてきています。そう鑑みると日本人の腸には、和食が最も適しているのです。ゴボウを食用とするのはほぼ日本人だけとも聞きます。
ゴボウを日本古来の伝統食である梅干しと煮た「梅ゴボウ」(作り方はレシピ記事参照)などは、そうした観点からも、腸の機能を高める常備菜といえるでしょう。ぜひ、ゴボウを健康づくりに生かしてください。
[別記事:腸が喜ぶ大地の恵み!シャキシャキ!ゴボウ美味レシピ&活用術→]

この記事は『壮快』2022年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp