解説者のプロフィール

福冨章(ふくとみ・あきら)
福富健康院院長。1961年生まれ。はり師・きゅう師、柔道整復師、あん摩マッサージ師。江戸時代のあん摩術が、現代人の抱える症状に効果がある点に着目し、古法あん摩と現代の解剖学に基づく手法を融合。日々の施術を行うとともにセルフ整体法を考案する。著書に、『ウルトラポーズで体がよみがえる』(主婦の友社)、『痛みもコリも一瞬でとれる筋ツイスト』(秀和システム)などがある。
マスクやストレスが「側頭骨のゆがみ」を招く
側頭骨のゆがみが耳の穴のゆがみにつながる
私が提唱する「耳穴ひねり」は、江戸時代に確立された古法あん摩術の「耳鐘の術」という技法をベースにしています。
耳穴ひねりのやり方は、とてもシンプルです。左右の耳穴に人差し指を入れて、軽くひねって抜くだけ。ただし、ひねる方向には注意が必要です。
そもそも、耳穴ひねりの目的は側頭骨のゆがみを正すことにあります。側頭骨とは、10種16個の骨から構成されている、頭蓋骨の一種です。
側頭骨がゆがむと、耳の周りの筋肉が緊張状態になります。これが、頭痛や頭重感、首・肩・背中のコリ、眼精疲労等につながります。

さらに側頭骨のゆがみは、耳の穴自体のゆがみにもつながります。耳の穴がゆがむと、外耳と中耳の空気圧のバランスが崩れ、耳閉感があったり、逆に音が聞こえ過ぎたりするといったことが起こります。また、平衡感覚を司る内耳の三半規管の働きが乱れ、めまいの原因にもなります。
なかなか改善しない耳鳴りやめまいの原因に
近年、コロナ禍によって側頭骨がゆがんでいる人は増加傾向にあります。マスクはもちろん、ストレスによって奥歯を噛みしめることも側頭骨がゆがむ大きな要因の一つです。
私たちは、過度なストレスを受けると、奥歯を噛みしめて堪えようとします。あごの下側の骨である下顎骨は、側頭骨に連結しているので、噛みしめることで側頭骨に負荷がかかるのです。同様の理由で、噛み合わせが悪い人も要注意です。
耳鳴りやめまいといった症状に悩み、耳鼻科へ行ったのに改善しないとお悩みのかたも少なくないでしょう。これは、側頭骨のゆがみが耳鳴りやめまいの原因となっている場合、耳鼻科での治療や、そこで処方された薬を飲んでも根本的な対処にならないからです。
側頭骨の歪みを正す「耳穴ひねり」とは
側頭骨のゆがみをチェックする方法
耳穴ひねりは、この側頭骨のゆがみを、自分で正すことを可能にします(やり方は下項参照)。まずは、自分の側頭骨のゆがみ方を確認しましょう。
両手の中指を合わせて、親指や人差し指が手前にくる側を、耳の穴が前方にねじれている側として判定します。中指を合わせたとき、親指や人差し指が手前にくるのは、前腕(手首)が内側にねじれるためです。
したがって、指の位置の左右差がわかりにくいときは、前腕が内側にねじれる側を耳の穴が前方にねじれている側とします。前腕が外側にねじれる側を、耳の穴が後方にねじれている側とします。わかりづらい場合は、後ろから他人に見てもらうのもよいでしょう。
ゆがみのチェック方法

チェック例
上の写真のように、右手の親指と人差し指のほうが手前にある(右の前腕が内側)場合
→右の耳の穴が前方にねじれているタイプ
左手の親指と人差し指のほうが手前にある(左の前腕が内側)場合
→左の耳の穴が前方にねじれているタイプ
耳穴ひねりは、両手の人差し指を耳の穴に入れますが、その際は力まかせに行わないようにします。指を入れて軽くひねり、ふた呼吸程度したら、指をスポンと抜いてください。
耳穴ひねりを行うタイミングに、特に決まりはありません。疲労を感じたときに行えば、頭がスッキリして、視界も明るくなるでしょう。
嚙み合わせが悪い人は、就寝中に歯ぎしりをしていることが少なくありません。朝起きてすぐに行えば、あごの緊張を和らげることができます。1日に何回行ってもかまいませんが、連続して何回も行うのは避けてください。
マスク頭痛やドライマウス対策にも有効
近年、マスクをする機会がとても増えました。生活に欠かせないといってもよいでしょう。
マスクのひもを耳にかけている間は、常に耳が引っ張られます。ささいな力でも、長時間にわたり力が加わることで、側頭骨のゆがみや側頭筋の過緊張につながります。
マスクを長時間つけざるを得ないときも、合間に耳穴ひねりを行うといいでしょう。特にマスク頭痛はクセになりやすいので、早めに対処するに越したことはありません。
また、マスク頭痛に悩む人は、ドライマウスに悩んでいることも少なくありません。その対策としても、耳穴ひねりは有効です。
このコロナ禍を乗り切るため、耳穴ひねりを有効に活用してください。
耳穴ひねりのやり方
※耳の穴をひねるときは息を吐きながら、指を抜くときは息を吸いながら行う。
※耳の中を傷つけないように爪は短くし、指を耳穴の奥まで入れ過ぎないように気をつける。
※事前によく手を洗う。
※1日に何回行っても、いつ行ってもOKだが、連続して何回も行わない。
❶前項のチェック方法を参考に、自分のゆがみ方を確認する。

❷両手の人差し指を耳の穴に入れる。

❸左の耳の穴が前方にねじれているタイプの場合は、右の人差し指を後ろに、左の人差し指を前にひねり、ふた呼吸おいてから、両方の指を一気に抜く。
右の耳の穴が前方にねじれるタイプの場合は、左右のひねり方を逆にする(写真の矢印は左の耳の穴が前方にねじれているタイプのひねり方)。

この記事は『壮快』2022年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp