解説者のプロフィール

班目健夫(まだらめ・たけお)
青山・まだらめクリニック院長。1954年、山形県生まれ。80年、岩手医科大学医学部卒業。医学博士。東京女子医科大学附属東洋医学研究所、同大学附属成人医学センター自然療法外来、同大学附属青山自然医療研究所クリニック講師などを経て、2011年より現職。西洋医学と東洋医学それぞれのよいところを取り入れた統合医療を研究・実践している。著書に『「首のスジを押す」と超健康になる』『「湯たんぽを使う」と美人になる』(ともにマキノ出版)、『免疫力を高める「副交感神経」健康法』(永岡書店)などがある。
▼青山・まだらめクリニック
冷えから全身を守るためのポイントは「耳」
「冷え」対策が健康維持の要となります。特に大事な部位は「耳」です。耳を冷やさないように配慮することが、冷えから全身を守るためのポイントとなるからです。
冬場の外出時には、毛糸の帽子を目深にかぶったり、耳当てを着けたりして、耳を冷やさないようにしてください。カイロなどで耳を直接温めるのも、ぜひ取り入れていただきたい方法です。後に詳しいやり方を説明します。
なぜ耳を温めるといいのか?
なぜ、耳を温めるのが大切なのでしょうか。
耳には、脳神経の一つである「迷走神経」が走っています。迷走神経は脳の下部に位置する延髄から出て、体内で複雑に枝分かれしています。胸部や腹部にも分布している、極めて長い神経です。その一部が耳に達しているために、耳を温めることが迷走神経への刺激になるのです。
また、迷走神経は働きも多彩です。運動や知覚を司る神経に加え、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のうちの心身をリラックスさせる副交感神経などから成り立っています。副交感神経全体の約75%を迷走神経が占めるといわれ、自律神経のバランスに大きな影響を及ぼします。
不調を抱える人は自律神経のバランスがくずれ、心身を活動的にする交感神経が過度に緊張した状態にあります。この状態が続くと、血圧や血糖値が上がりやすくなります。
耳を温め、心地よい刺激を与えて副交感神経を優位にすると、自律神経が整い、高血圧や糖尿病の予防・改善につながります。
さらに、迷走神経を介して気管支、食道、心臓、胃、腸など臓器の機能が活性化します。その結果として、呼吸器や心臓の病気の予防、胃痛や便秘、下痢などの改善と、さまざまな効果が期待できます。
内臓の働きがよくなれば、全身の血行も改善します。全身に活力がみなぎり、こりや痛みや疲労の解消効果も現れます。
気分の落ち込みに劇的に効くことも!
さらに、耳を温めると脳全体の血流が上がるので、うつ病や不眠症などの精神疾患にも有効です。実際に、うつ病では脳の血流が悪くなっていることが明らかになっています。
私のクリニックでも、気分の落ち込みなどの症状を訴える患者さんに耳を温める温熱療法をすると、劇的な効果が現れることが少なくありません。患者さんからは「クヨクヨしなくなった」「よく眠れるようになった」といった声をよく聞きます。
脳の血流がよくなれば、脳卒中や認知症の予防効果も期待できます。ことに、耳のすぐそばには言語や記憶、聴覚に関わる脳の「側頭葉」があり、その深部には記憶の中枢となる「海馬」があります。
海馬は新しい出来事を記憶するのに重要な役割を担っており、アルツハイマー型認知症になると、海馬から脳が萎縮していくことがわかっています。この海馬の血流がよくなれば、記憶力の向上や改善が期待できます。
耳を温める方法
耳の裏も温めることが効果を高めるポイント
では、実際に耳を温める方法をご紹介しましょう。
最も手軽なのは、使い捨てカイロを使う方法です。湯たんぽがあれば、それを使うのもいいでしょう。
ここで、大事なポイントがあります。耳の表側からだけ温めるのでなく、耳を折り曲げて、裏側からも温めるということです。耳全体の温度を上げることが大切なのです。
もう一つ、温める時間に気をつけてください。実際に耳を温めると実に気持ちがよく、長くやっていたくなりますが、長過ぎるのはよくありません。
目安としては、片耳の表と裏それぞれ1~2分くらいで十分です。自分で「しっかりと温まって、気持ちよくなった」と感じたら、反対側の耳に行うようにしてください。
耳を温めることを習慣にすると、首の血流もよくなり、首のこりや頭痛もらくになります。特に就寝前に温めると、自律神経の過剰な興奮や筋肉のこりが取れ、眠りやすくなります。疲労感が残ることも少なくなるはずです。
また、外出時には、毛糸の帽子を耳まで深くかぶることも、耳を冷やさないためにお勧めしています。
使い捨てカイロで耳を温める
耳の表側に、使い捨てカイロを1~2分当てて温める。裏側も同じように温めたら、反対側の耳でも行う。低温やけどに注意。

帽子で温める
外出時には、毛糸のマフラーを使い、耳まで深くかぶる。耳当てを利用してもよい。


この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。
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