解説者のプロフィール

松生恒夫(まついけ・つねお)
松生クリニック院長。1955年東京都生まれ。80年、東京慈恵会医科大学卒業。同大学第三病院内科助手、松島病院大腸肛門センター診察部長を経て、2004年に松生クリニック(東京都立川市)を開業。大腸内視鏡検査や炎症性腸疾患の診断と治療を得意とし、これまでに行った大腸内視鏡検査は5万件を超える。EXVオリーブ油の保温力の高さを証明した実験の特許出願中。『腸の冷えを取ると病気は勝手に治る』(マキノ出版)が好評発売中。
▼松生クリニック
腸の冷えが免疫力を下げる
当院で実施している「便秘外来」には、全国から多くの人が訪れますが、決まって冬になると患者さんが増えます。
これには3つの理由があります。
①寒くて外に出かける機会が減って、運動不足になる。
②汗をかかず、のども渇かないので水分の摂取量が減る。
③気温の低下が「冷え」を招き、腸の働きを停滞させる。
これらが、冬の便秘の主な要因です。
寒い日に外で運動しようとしても、体が冷えていると、筋肉がなかなか思うように動きません。それと同じで、臓器も冷えると働きが低下します。特に腸は、冷えの影響を受けやすい臓器といえます。
便秘やおなかの張りなどに悩む方は、手足の冷えだけでなく、「おなかが冷える」と訴えることが少なくありません。過去にデータを取ったこともあります。便秘外来に来た患者さん126名のうち、全身の冷えを自覚している人は約7割の88名もいました。
ちなみに、腸は消化吸収だけでなく、体を病気から守る免疫の働きにも重要な役割を果たしていますから、腸の冷えは、免疫力の低下も招きます。
便秘外来医師がすすめる「野菜スープの食べ方」
ですから私は、「腸を温め、冷えを解消する食事」を患者さんにお勧めしています。中でも、手軽で高い効果が期待できるのが「温かい野菜スープ」です。このスープは、タマネギ、カボチャ、トマトなどの野菜を入れて作りますが、特別これといった具材や味付けの決まりはありません。
この温かい野菜スープは、まず第一にその温度で腸を温めます。加えて、野菜に豊富な食物繊維が腸の働きをよくします。
冷えて働きが悪くなっていた腸に野菜スープが入ると、食物繊維によって腸が刺激され、蠕動運動(腸の内容物を先へ送り出す働き)を促します。冷え切った体が運動で温まるように、低下していた働きがよくなるというわけです。
また、食物繊維は腸内にいる善玉菌のエサとなります。善玉菌が優勢になれば、腸内環境が改善して、腸の働きはさらによくなります。
便通の改善にとどまらず、腸を温めて免疫力を高めることによって、感染症やアレルギー性疾患、がんなどの予防効果も期待できるでしょう。
野菜スープの効果をさらに高める「オリーブオイル」
こうした野菜スープの効果をさらに高める方法があります。「食べる前に少量のオリーブ油を回しかける」という、簡単な方法です。たったこれだけのことで、腸の温め効果が抜群に高まります。
オリーブオイルは「エクストラバージン」がよい
ただし、どんなオリーブ油でもよいわけではありません。オリーブ油には、精製方法によっていくつかの種類があります。
最も温め効果が高いのは、「エクストラバージン(以下、EXV)」のオリーブ油です。このEXVオリーブ油は、オリーブの実を搾った後に精製を行っておらず、かつ品質も高いもののことをいいます。
飲んで90分後も体温が下がらず体がポカポカ
私はEXVオリーブ油の保温効果を調べるため、日清オイリオグループとの共同研究で、次のような実験を行いました。
温かいミネストローネスープ(トマトなどで作るイタリアの野菜スープ)300ml を、①「そのまま飲む」、②「EXVオリーブ油10ml を回しかけて飲む」の2つのケースに分けて、体温の変化を調べました。他は全て同一条件、同一被験者で、飲んだ直後から30分ごとに体温を測りました。
すると、①は飲んだ直後からは体温がやや上がったものの、90分後には下がりました。それに対して②は、飲んだ直後から①より体温が高くなった上、90分経過後も高い体温が維持されたのです。
こんなに保温力に差が出る秘密は、「油膜」にあります。EXVオリーブ油を回しかけると、スープの表面に油膜ができて冷めにくくなり、摂取後も保温力が持続するのです。
しかも、EXVオリーブ油の保温力は、他の油よりも高いとわかっています。
こんな実験をしたことがあります。ビーカーに80℃のお湯を入れて、①「そのまま置く」、②「EXVオリーブ油を加える」、③「サラダ油を加える」という条件で、温度の下がり方を調べました。
50分後の温度は、①が38.9℃、③が42.2℃だったのに対して、EXVオリーブ油を加えた②は46.3℃と、明らかに高い温度が長く保たれていました。
EXVオリーブ油はスーパーマーケットで手軽に入手できます。日本の大手メーカーが販売している、遮光瓶に入っているものを選ばれるといいでしょう。値段は、それほど高くなくても大丈夫です。
スープ1食分に対し、小さじ2~3のEXVオリーブ油を回しかけるのが目安です。保温効果が高まるだけでなく、味に深みが出ておいしくなります。
オリーブ油入りスープ

温かい野菜スープ1食分に対して、エクストラバージンオリーブ油を小さじ2~3かける。なお、野菜スープの具材や味付けはお好みで構わない。

この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。
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