解説者のプロフィール

工藤孝文(くどう・たかふみ)
みやま市工藤内科糖尿病内科医・漢方医・統合医療医。福岡大学医学部を卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。現在は、福岡県みやま市の工藤内科にて、糖尿病内科・ダイエット外来・漢方医療を専門に、地域診療を行っている。NHK「ガッテン!」「あさイチ」、日本テレビ「世界一受けたい授業」など、テレビ出演多数。『やせグセがつく最強のみそ汁』(マキノ出版)など、著書は50冊以上に及ぶ。YouTube「工藤孝文のかかりつけ医チャンネル」が人気。
▼工藤内科
▼工藤孝文のかかりつけ医チャンネル(YouTue)
牛乳は「朝」飲んだほうが睡眠に良い理由
睡眠の質を高めるのに欠かせない成分「トリプトファン」
私の専門は「内分泌科」といって、ホルモンが専門分野です。
ホルモンは、体のさまざまな働きを調整する物質で、全身の健康に深く関わっています。有名なものにはドーパミン、インスリンなどがありますが、数多くあるホルモンの中で、私たちの気分に最も影響を与えるホルモンが、セロトニンです。
セロトニンは、正確には神経伝達物質(神経細胞の末端から分泌され、神経細胞の間で情報を伝達する物質)ですが、セロトニンには「幸せホルモン」という異名があり、心の安定に深い関わりがあります。
セロトニンが分泌されると、幸福感が増し、気持ちも前向きになるといわれていますが、このセロトニンの原料となるのが、トリプトファンという成分です。
トリプトファンは、牛乳に豊富に含まれるたんぱく質です。ちなみに、トリプトファンは必須アミノ酸の1つで、体内で合成できないので、食品から摂取する必要があります。
「寝る前にホットミルクを飲むとよく眠れる」とよく言いますが、ホルモンの働きから考えると、実は夜より朝に牛乳を飲んだ方が、睡眠にはよい影響があります。
トリプトファンは、体内でセロトニンに変わり、そこからさらにメラトニンというホルモンに変換されます。メラトニンは「睡眠ホルモン」という異名を持ち、質のよい睡眠へ導いてくれるホルモンです。
ところが、メラトニンが体内で分泌され始めるのは、起きてから14~16時間後。例えば朝8時に起きたなら、夜10時頃からメラトニンが分泌され始めるということになります。ですから、牛乳は朝に飲む方が、よい睡眠のためには効果的なのです。
なお、トリプトファンは、牛乳以外にも、バナナ、ナッツ、卵、大豆製品、肉や魚などからとることができます。こういった食品を朝食で食べておくことも、睡眠の質の改善につながります。
「朝牛乳」と「ターメリック」で抗酸化力をプラス
この「朝の牛乳」のアレンジとしてお勧めしたいのが、スパイスの「ターメリック」を加えた「ゴールデンミルク」です。
[別記事:鮮やかな黄金色が体の酸化を防ぐ!おいしいアンチエイジング飲料ゴールデンミルク→]
ターメリックはショウガ科の植物の根茎で、ウコンとも呼ばれます。カレーの黄色い色の素となっている、日本人にもおなじみのスパイスです。
ターメリックの黄色い色は、クルクミンと呼ばれる成分で、強い抗酸化作用や抗炎症作用があることがわかっており、近年研究が進んでいます。その期待できる効果として、
・アンチエイジング作用
・消化不良の改善作用
・肝機能改善作用
・記憶力の向上作用
・血糖値を下げる作用
などが挙げられています。
皆さんご存じの通り、活性酸素は体内の細胞を酸化させ、老化や全身の炎症を招く元凶です。その活性酸素の害を防いでくれるのが、食品などに含まれる抗酸化物質です。
ですから、朝の牛乳にターメリックを加えることで、ホルモンのコントロール効果に抗酸化作用が加わって、さらに体によい作用が期待できるのです。
なお、食事の際にたんぱく質を先にとることで、満腹ホルモン「インクレチン」が分泌されて、食べ過ぎを防ぐことができます。ですから、食べ過ぎを防ぎたい場合は、ゴールデンミルクを食事の一番最初に飲むようにするとよいでしょう。
睡眠の質が悪い、気分が晴れない、老化を予防したい、という方は、ぜひ朝のゴールデンミルクを習慣にしてみてはいかがでしょうか。

この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。
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