便秘の人は、便の排泄時に息を詰めて強くいきみがちです。私はこの「いきみ」が、脳卒中の死亡リスクを高める一番の理由だと考えています。強くいきめばいきむほど、血圧も上がります。に加わる圧力も、必然的に増します。そのため、脳卒中のリスクが高まると考えられます。まずは便秘にならない生活習慣として、食物繊維を意識してとることをお勧めします。【解説】前田耕太郎(藤田医科大学病院国際医療センター教授)

解説者のプロフィール

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前田耕太郎(まえだ・こうたろう)

藤田医科大学病院国際医療センター教授。1979年、慶応義塾大学医学部卒業。1985年、同大学伊勢慶応病院外科手術室長に就任。スウェーデンやイギリスの大学への留学後、1990年に社会保険埼玉中央病院外科医長に就任。2004年、藤田保健衛生大学医学部消化器外科主任教授を経て現職。大腸肛門病の外科治療、機能性大腸肛門疾患(便秘、便失禁)などを専門としている。

いきみと加齢が脳卒中リスクを高める

便秘は、単なる体の不調と思われがち。しかし、実はこれが重篤な病気につながる恐れもあるのです。

2016年に東北大学が発表した大規模調査にも、そのデータは現れています。4日に1回しか排便しない人は、1日1回以上排便する人と比べ、狭心症・心筋梗塞(心臓の血管が詰まる病気)で死亡するリスクは1.45倍。さらに、脳卒中で死亡するリスクに至っては、2.19倍という結果でした。

便秘の人ほど、脳卒中で死亡するリスクが高いのは、次のような原因が考えられます。

加齢による体の衰え

大腸の機能は、加齢によって衰えるため、高齢者ほど便秘になりやすくなります。特に日本では、60歳を超えると、便秘になる人の割合が増えます。

また、加齢とともに発症しやすくなる、パーキンソン病や糖尿病などの病気の症状にも便秘があります。

一方、前述した調査対象は、40~79歳の男女4万5000人以上で、13年以上かけて行われました。これは脳卒中になりやすい年齢の人を集めたためです。

こうして見ると、便秘やそれに関連する病気のリスクが高い年齢の人は、脳卒中も起こしやすいことがわかります。

排便時のいきみ

便秘の人は、便の排泄時に、息を詰めて強くいきみがちです。しかも、症状がひどい人ほど、長時間トイレに滞在して、何度もいきむのです。私は、この「いきみ」が、脳卒中の死亡リスクを高める一番の理由だと考えています。

当然のことですが、強くいきめばいきむほど、血圧も上がります。もともと血圧が高めな人の場合、一度のいきみで瞬間的に上の血圧が200mmHgまで上がることもあるそうです(上の血圧の基準値は140mmHg)。

血圧が上がれば、脳の血管壁に加わる圧力も、必然的に増します。そのため、脳卒中のリスクが高まると考えられます。

多彩な食材から異なるタイプの食物繊維をとろう

脳卒中予防に、すぐにできる対策として、まずは便秘にならない生活習慣を心がけてみてはいかがでしょうか。

食事では、食物繊維を意識してとることをお勧めします。

食物繊維は「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」に大別されます。不溶性食物繊維は、腸内で善玉菌のエサとなって腸内環境を改善します。また、腸内で水分を吸収して便のカサを増し、腸の蠕動運動を促す効果も期待できます。

食物繊維は、根菜類を中心とした野菜やキノコ類、海藻類、豆類、全粒穀物などに多く含まれています。こうした、多彩な食材をバランスよく食べ、異なるタイプの食物繊維をとるのがよいでしょう。

食べる量は、厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準(2020年版)」を目安にするのがお勧めです。1日当たりの食物繊維の摂取目標量は、18~64歳の男性で21g以上、女性で18g以上となっています。

ただし、1食でこの量をとるのは非常に困難です。そのため、1日3食に分けて、こまめにとるとよいでしょう。私自身も、食事の量がやや多い夕食を中心に、1日3食の中で、食物繊維が豊富な食材を食べています。

大腸の機能が衰えている高齢者は、特に食物繊維をとるよう心がけてください。

また、年を取ると食が細くなりがちですが、食事の量が少ないと、便の量も少なくなり、胃腸がうまく働かなくなります。おかずの品数を減らさないようにして、上記の食材を活用するとよいでしょう。

便秘の予防や解消に、特にお勧めなのが、朝に食物繊維を多くとることです。睡眠時は、長時間水分も食物もとることができないため、体が飢餓状態になります。しかし、起床後に朝食をとることで、飢餓状態から解放されます。

これにより、反射的に胃腸が動き、大腸も蠕動運動を始めます。そのため、朝はお通じがつきやすいのです。食物繊維の他にも、便の滑りをよくする水分や、腸内環境を整える、納豆などの発酵食品も意識してとるとよいでしょう。

どうしても便が出ない人は、下剤を利用するという手もあります。しかし、「センナ系」の下剤の場合、長期間の使用には注意が必要です。

センナとは、アフリカ原産の植物で、市販の下剤の多くに使われています。これが腸を刺激して蠕動運動を促すことで、便秘を解消します。しかし、センナ系の下剤は長期間使用すると腸に耐性がつき、蠕動運動が起こりづらくなったり、便意を感じづらくなったりします

こういった作用が気になる人は、医師の診断を受けて、ご自身の体に合った下剤を処方してもらってください。

便秘解消にお勧めの食物繊維のとり方

1日3食の中で、適正量の食物線維をとる
1日あたりの目安…男性21g以上、女性18g以上
※食事の回数や量を減らすと、便の量が少なくなり、便秘につながる。無理のない範囲で、食物繊維が豊富な食材の割合を増やすとよい。

食物繊維が豊富な食材をバランスよくとる
根菜類を中心とした野菜、キノコ類、海藻類、豆類、全粒穀物などがお勧め。

朝食に食物繊維を多くとる
体が飢餓状態から解放され、大腸が動きやすくなる。

画像: この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。

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