欧米では、疫学研究によって、ピーナッツの摂取量と循環器疾患の発症や総死亡リスク低下との関連があったと報告されています。私たちの日本人を対象とした研究の結果、ピーナッツ摂取量が最も多いグループでは、全く食べないグループに比べ脳卒中発症リスクが16%低いことがわかりました。【解説】池原賢代(大阪大学大学院医学系研究科特任准教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

池原賢代(いけはら・さとよ)

大阪大学大学院医学系研究科特任准教授。医学博士。2009年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。2012年、英国のUniversity College Londonに疫学・公衆衛生学分野の客員研究員として留学。2019年より現職。循環器疾患の疫学、予防医学、公衆衛生学を専門に生活習慣と循環器疾患リスクの関連や子どもの健康と環境に関する調査・研究を行う。
▼専門分野と研究論文(CiNii)

※ピーナッツアレルギーを持っている人は、絶対に摂取を避けてください

脳梗塞の発症リスクが20%低い

小腹がすいたときやお茶うけに、何かをつまみたい。でも、健康面が気になる……。そんなときは、ピーナッツを活用するといいかもしれません。

欧米では、疫学研究(集団を対象に病気の発生頻度や要因を調べる研究)によって、ピーナッツの摂取量と、循環器疾患の発症や総死亡リスク低下との関連があったと報告されています。

また、介入研究では、血液中の脂質の改善などに効果があったとの報告があります。

循環器疾患とは、血液を全身に循環させる心臓や血管などが正常に働かなくなる病気のことです。具体的には、脳卒中や虚血性心疾患(動脈硬化などで冠動脈が狭くなったり詰まったりして、心臓の筋肉に血液や酸素が行き渡らなくなった状態)などが、これに当たります。

近年は健康ブームの影響もあり、日本でもピーナッツやナッツ類の健康効果が注目されるようになりました。

しかし、おやつ感覚でピーナッツを食べたり、ピーナッツバターを日常的に使ったりする習慣がある欧米諸国と比べ、日本にはピーナッツを食べる習慣がほとんどありません。

そのためか、日本人を対象としたピーナッツ摂取と循環器疾患の発症リスクとの関連についての研究はなく、日本人でも同じような結果が出るのかは、よくわかっていませんでした。

そこで、国立がん研究センターの多目的コホート研究(JPHC Study)の45~74歳の男女約7万5000人を対象に、食事内容に関するアンケートを行い、約15年間の脳卒中や虚血性心疾患の発症を調査しました。追跡期間中3599人が脳卒中を、849人が虚血性心疾患を発症しました。

これらの病気の発症には、年齢や体格、飲酒量、喫煙、食事内容など、さまざまな要因が関わっています。そのため、それらを統計学的に調整し、できるだけ影響を取り除いた上で、ピーナッツの摂取量と発症リスクとの関連を解析しました。

その結果、ピーナッツ摂取量が最も多いグループ(1日4~5個)では、全く食べないグループに比べ脳卒中発症リスクが16%低いことがわかりました

脳卒中には、脳の血管が詰まる脳梗塞と、脳の血管が破れる出血性脳卒中(脳内出血やくも膜下出血)がありますが、特に脳梗塞で発症リスクの20%低下との関連がみられました。

出血性脳卒中と虚血性心疾患では関連がみられませんでしたが、循環器疾患(脳卒中+虚血性心疾患)では、発症リスクが13%低いという結果でした。

欧米の先行研究では、ピーナッツの摂取量と虚血性心疾患の発症リスク低下との関連が報告されていますが、私たちの研究では、そのような関連はみられませんでした。私たちの研究では、欧米の研究と比べてピーナッツの摂取量が少なく、虚血性心疾患の発症者数も少なかったことが要因かもしれません。

1週間に30個程度を目安に

※ピーナッツアレルギーを持っている人は、絶対に摂取を避けてください

ピーナッツには、たくさんの栄養素がギュッと詰まっています。主なものを紹介しましょう。

不飽和脂肪酸

ピーナッツには、オレイン酸やリノール酸などの不飽和脂肪酸が豊富です。これらはLDL(悪玉)コレステロールを抑制する効果があるため、動脈硬化の予防に役立ちます。

ビタミンE、ミネラル類

ピーナッツには、体の炎症や酸化を抑えるビタミンEが豊富です。血圧を下げるのに役立つカリウムやマグネシウムなどのミネラルも含まれています。

たんぱく質、食物繊維

ピーナッツに含まれるたんぱく質や食物繊維は、高血圧の予防に役立ちます。また、食物繊維には、凝固因子の抑制や抗炎症作用の他、食後の糖の吸収をゆるやかにして、血糖値の急上昇を抑える効果もあります。

これらの栄養素は、脳卒中の予防によい効果が認められており、本研究でみられた脳卒中の発症リスク低下につながったのだと考えられます。

なお、本研究では1日のピーナッツ摂取量が4~5個のグループで、脳卒中や脳梗塞の発症リスク低下との関連がみられました。しかし、日本人における研究はまだ不足していて、日本人での適切な量については、研究を重ねる必要があります。

ピーナッツ(大粒種/乾)は、100g当たり572kcalと高カロリーな食品のため、食べ過ぎはよくありません。普段からよく食べる人は、特に注意しましょう。

あまり食べ慣れていない人は1週間に30個程度を目安にするなどして、日々の生活に取り入れるといいでしょう。

私たちの研究では、ピーナッツの味付けや調理法までは把握できていません。しかし、塩やバター味のもの、チョコレートでコーティングされているものは、食べ過ぎると塩分、脂質、糖分の過剰摂取につながる可能性があります。

素焼きのものを選ぶなど、気を付けて食べるようにしてください。ピーナッツアレルギーを持っている人は、絶対に摂取を避けてください。

画像: 【ピーナッツの健康効果】脳卒中・脳梗塞の予防対策におすすめ 素焼きの物を食生活にとり入れよう

脳梗塞の予防に役立つピーナッツの食べ方

甘いものやスナック菓子の代わりに食べる
ピーナッツは腹持ちがよく、甘いものやスナック菓子に比べ体にいい栄養素が豊富なため、おやつに最適。

味付け&食べ過ぎに注意!
塩やバター味のもの、チョコレートでコーティングされたもののとり過ぎは、塩分や脂質、糖分過多につながる。

無理なく生活に取り入れる
1週間に30個食べるなど、発想を転換して生活に取り入れる。

画像: この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.