解説者のプロフィール

眞田祥一(さなだ・しょういち)
医学博士。1944年、東京生まれ。東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。日本赤十字社大森赤十字病院脳神経外科部長中に、国際赤十字カンボジア難民救済活動医、タクラマカン砂漠での医療活動などにも従事。1996年、東京都大田区に眞田クリニックを開業。脳血管障害を主体とした、脳神経の治療の入口(予防)と出口(後遺症)の治療に当たっている。『ボケは96%防げる!治せる!』(主婦と生活社)、『自分で見つけて治す隠れ脳梗塞』『とまどいボケありませんか?』(ともにマキノ出版)など、著書、監修書多数。
▼眞田クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
[別記事:「顔と腕のマヒ」「言語障害」が急に出たら即119! 脳梗塞は早期の治療開始が肝要→]
油はなるべく魚や植物性のものからとる
脳梗塞は生活習慣病の一種で食事・生活・運動といった生活習慣の影響を強く受けます。では、脳梗塞を防ぐポイントを、それぞれ見ていきましょう。
食習慣
食事では、次の三つの働きを持つ食品をとるのが大切です。
①血管をしなやかに保つ食品
青魚に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、ウナギや卵黄、マカダミアナッツなどに多いPOA(パルミトオレイン酸)といった成分が、この働きを持っています。
これらは、油脂の主成分である脂肪酸の一種で、脳の「血液脳関門」をスムーズに通るという特徴があります。血液脳関門とは、脳の血管に有害物質が入らないように、関門役をしているしくみのことです。
他の脂肪酸はここを通れませんが、前述の三つの成分は通過できるため、脳血管をしなやかに保つのに役立ちます。
②血管壁の傷を防ぐ食品
脳の血管に傷がつく最大の原因は、老化の元凶物質でもある活性酸素です。活性酸素は、常に体内で作られていますが、増え過ぎると細胞を傷つけます。
それを除去する作用のことを抗酸化作用といいます。この優れた抗酸化作用を持つ代表的な成分が、ビタミンC・Eです。
その他、大豆製品やキノコ類にも強力な抗酸化作用があり、脳血管や脳神経細胞を健康に保つのに役立ちます。
③脳の血流をよくする食品
納豆に含まれるナットウキナーゼや、イカ・タコなどに豊富なタウリンといった成分は、脳の血流をよくして血栓(血液の塊)の形成を防ぐ効果が期待できます。
この他にも、最近は、枝豆やアスパラガスの煮汁が動脈硬化の予防に役立つといわれています。これらに含まれるポリフェノールが煮汁に溶け出すため、こうした効果が期待できるのではないかと考えられます。
逆に避けたいのは、塩分のとり過ぎです。高血圧を招いて血管を傷める元になるので減塩を心がけましょう。塩分の摂取量は、1日7g(小さじ山盛り1杯程度)が目安です。
肉の脂肪も、とり過ぎると動脈硬化を招きやすくなります。これも、できるだけ避けましょう。調理に使う油は、ゴマ油やナタネ油、大豆油などの植物性がお勧めです。
●脳梗塞の予防に役立つ食品リスト
血管をしなやかに保つ食品 | ||
EPA・DHA | アジ、イワシ、サバ、サンマ、サケなど | |
POA | ウナギ、アナゴ、卵黄、マカダミアナッツなど | |
血管壁の傷を防ぐ食品 | ||
ビタミンC | かんきつ系(ミカン、レモン、キウイ、グレープフルーツなど)、トマト、パプリカ、リンゴなど | |
ビタミンE | 緑黄色野菜、種実類(ゴマ、ピーナッツなど)、大根、アボカドなど | |
大豆製品 | 納豆、豆腐など | |
キノコ類 | エノキ、マイタケなど | |
脳の血流をよくする食品 | ||
ナットウキナーゼ | 納豆 | |
タウリン | イカ、タコなど | |
ポリフェノールが豊富な食品 | ||
アスパラガス、枝豆など ※煮汁ごと使うと、溶け出したポリフェノールも摂取できる。 | ||
植物性の油 | ||
ゴマ油、ナタネ油、大豆油など | ||
塩分……1日7g(小さじ山盛り1杯程度)に留める | ||
肉……とり過ぎは動脈硬化につながる。なるべく上記のような、魚の脂や植物性油をとるようにする。 |
温度差が10℃以上あると脳梗塞が急増する
生活習慣
生活上のポイントで最も重要なのは、こまめに水を飲むことです。特に、発汗で水分が失われる夏は、しっかり水分を補給しましょう。夏に脱水気味になると、血液がドロドロになって脳梗塞の危険が高まります。
なお、水分補給には、水以外の食事を使うのもお勧めです。野菜や果物、スープなどを、うまく活用するといいでしょう。
ただし、スポーツドリンクなどの糖や甘味料を含む飲み物は、普段の水分補給には向きません。水や麦茶を、積極的に飲むようにしてください。
加えて、温度差に気をつけることも大切です。
冬場の温かい部屋と寒い外の温度差、夏場のクーラーの効いた部屋と暑い外の温度差は、いずれも血管に負担をかけて脳梗塞のリスクを高めます。特に、室内外の温度差が10℃以上になると、脳梗塞が急増するとわかっています。
冬の外出前には、5分程度、軽いストレッチや手足を大きく動かす足踏みなどを行うと、血流がよくなって温度差の影響を少なくできます。その上で、十分に温かい服装で出かけるようにしてください。
夏は、外との温度差が10℃以内になるようにクーラーを設定しましょう。除湿運転で湿度を減らすだけでも、体感としての暑さは和らぎます。
運動
適度な運動は、血圧を安定させるとともに血流を促し、血管を丈夫にするため、脳梗塞予防に役立ちます。自分の体力に応じた運動を、できれば毎日、無理なら1日おきや3日に一度など、無理のないペースで定期的に継続するのがポイントです。
40〜50代の人は、軽く汗ばむ程度の速足ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどを1日30〜45分程度行いましょう。60代以上なら、1時間程度ゆっくり散歩するだけでも効果的です。腕を振り、太ももをしっかり上げて全身を動かす意識を持てば、効果が倍増します。
ただし、普段から運動不足の人は急に強い運動をせず、徐々に慣らしてください。体調が悪いときは、無理せず休みましょう。また、運動後は忘れずに水分を補給してください。
脳梗塞の最大の敵は、何と言ってもストレス。楽しめる趣味を持つことや、気持ちに余裕を持つことは、脳血管の健康にも役立ちます。できそうなことから取り入れて、脳梗塞の予防にお役立てください。

この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。
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