強力な抗酸化作用によって動脈硬化を予防・改善できる、タマネギのケルセチンですが、最も多く含まれるのは、タマネギの茶色い皮の部分で、残念ながらここは食べるのには向きません。そこで白い部分に含まれるケルセチンの量を増やす有効な方法が、皮をむいたタマネギをバラバラにはがし、数日間日に当てて干すことです。【解説】山岸喬(ジェネテックバイオラボ(株)所長・北海道文教大学客員教授)

解説者のプロフィール

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山岸喬(やまぎし・たかし)

1945年北海道生まれ。東京理科大薬学部大学院修士課程修了。北海道大学薬学部にて薬学博士号取得。北海道立衛生研究所生薬製薬科長、ノースカロライナ大学客員研究員、北見工業大学教授などを経て、現在、ジェネテックバイオラボ株式会社所長、北海道文教大学客員教授、北見工業大学名誉教授。『日本ハーブ図鑑』(家の光)、『生薬学』(廣川書店)、『北海道山菜実用図鑑』(北海道新聞社)など、著書多数。
▼専門分野と研究論文(CiNii)

外皮に多い有効成分が簡単に増やせる

タマネギには、血液をサラサラにする作用のある硫化アリル、腸内環境を整えるフラクトオリゴ糖など、さまざまな有効成分が含まれますが、その中でも近年注目されているのが、ケルセチンです。

ケルセチンは、植物の色素成分であるポリフェノールの一種で、強力な抗酸化作用(酸化を防止する働き)、つまり、優れたアンチエイジング作用があります。緑黄色野菜に広く含まれていますが、特にタマネギの光に当たる部分に多く含まれます。

私たちの体には、活性酸素(体内で増え過ぎると細胞を傷つけ老化の一因となる物質)を除去する酵素がありますが、その酵素の働きは、加齢とともに衰えます。すると、活性酸素によって正常な細胞が酸化されてしまい、老化が進むのです。

活性酸素によって引き起こされる障害の一つが、血管の老化である動脈硬化です。ケルセチンの強力な抗酸化作用によって、動脈硬化を予防し、改善することができます。

ケルセチンのこのような効果は、動物実験でも証明されています。

ケルセチンを動物のエサに入れて飼育すると、免疫細胞(マクロファージ、T細胞等)が増加し、脂肪組織の炎症を抑制します。また、脂肪の蓄積に伴う活性酸素(体内で老化や病気の一因となる物質)の増加も抑えます。

この結果から、ケルセチンには、糖尿病や肥満、メタボリックシンドロームの予防・改善作用があると考えられ、内臓脂肪蓄積の予防や改善を目的とした特定保健用食品にも配合されるようになってきています。

さらに最近では、アルツハイマーモデル動物や老化マウスでの実験で、認知機能を改善する作用も明らかにされました。

なお、先述の通り、ケルセチンが最も多く含まれるのは、タマネギの茶色い皮(外皮)の部分なのですが、残念ながら、ここは食べるのには向きません。茶色い皮をむくと、皮の下の白い部分に含まれるケルセチンの量は、3分の1~5分の1程度しかないのです。

私は、農林水産資源を活用した新需要創出プロジェクトで、タマネギの研究をする機会があり、その研究の一環で、貴重なケルセチンを増やす有効な方法を考え出しました。それが、皮をむいたタマネギを丸ごと日光に当てるという方法です。

皮をむいたタマネギを天日干しにすると、白かったタマネギが、1週間後には緑っぽくなってきます。さらに日に当てていると、緑色が茶色に変わっていきます。新たに皮ができると考えればいいでしょう。

ポリフェノールは、植物が自分を守るために自らの中に作り出す物質です。皮をむいたタマネギを日光に当てると、直射日光の紫外線などのダメージからタマネギの細胞を守るために、ケルセチンが増えてくるのです。

私たちの研究結果では、4日目から1週間目にかけて、ケルセチンの含有量が急速に増え、4日で2.7倍、1週間で5倍以上になりました。

酢タマネギにすると保存がきき食べやすい

ただし、タマネギの皮をむいて1週間も日に当てるのは、時間がかかり過ぎると思う方もおられるでしょう。

そこで今回ご紹介するのが、もっと短期間でタマネギのケルセチンを増やす方法です。

それは、「皮をむいたタマネギを1枚1枚バラバラにはがし、数日間日に当てて干す」ことです。

こうすると、丸ごと日に当てたときよりも、タマネギが日光に当たる面積が格段に増えるので、短期間でケルセチンの量を増やすことができます。

日に当てる時間ですが、日当たりのいい場所であれば、2日ほどで大丈夫でしょう。ベランダなどに出して直接日光に当てても、日当たりのいい窓辺に置いて、窓ガラス越しに日に当てても大丈夫です。ただ、外に干す場合は、急な雨に当たらないように気を付けましょう。

この方法には、他にもメリットがあります。こうして日に当てたタマネギは、甘味が増して、食べやすくなるのです。タマネギの辛味が苦手な人は、ぜひお試しください。

また、タマネギを日に当てていると、だんだん硬くなってくるので、食べるときは、そのままではなく、サッと水で洗ってから、刻んで酢に漬け込み、「酢タマネギ」として食べることをお勧めします。酢タマネギなら、ある程度保存でき、毎日摂取しやすいからです。

また、酢と合わせることで、酢の持つ血圧降下作用や疲労回復作用、代謝を高める作用などの相乗効果も期待できます。

一度増えたケルセチンは、刻んだり、加熱したり、酢に漬けたり、冷蔵・冷凍したりしても、変性したり、減ったりしません。ですから、干しタマネギを、スープなどの加熱調理に利用してもよいでしょう。

なお、日に当ててケルセチンが増えるのは、北海道産などの辛味の強い、従来のタマネギのみです。辛味が少なくて甘い、いわゆるサラダ用タマネギでも日光に当てる実験を行いましたが、ケルセチンの量はほとんど増えませんでした。

ちなみに私自身も、干しタマネギを酢タマネギにして食べています。コンブを入れた和風の酢タマネギにするほか、中央アジアの国・キルギスで食べたピクルスをイメージした酢タマネギも、よく作ります。

以前、キルギスに薬草の調査に行ったことがあります。ホテルがないほど田舎だったので、民宿に泊まりました。そこの朝食のピクルスが、驚くほどおいしかったので、その作り方を女性オーナーに聞きました。

ロシア語なので、よく理解できなかったのですが、酢を軽く煮立て、熱いうちに野菜を入れた瓶に注ぎ込み、香り付けにディル(ハーブの一種)を入れるだけ、とのこと。酢を煮立てて少し砂糖を加えることで、酸味が和らぎ、まろやかで食べやすくなります。

参考までに、私の酢タマネギの作り方もご紹介しますので、興味のある方は、ぜひお試しください。

干しタマネギの作り方

画像1: 干しタマネギの作り方

タマネギの外皮をむき、中を1枚1枚バラバラにはがす。
日当たりのよい場所(窓辺など)で、2日干す。

画像2: 干しタマネギの作り方

使い方
水でさっと洗い、食べやすい大きさに切ってから使用する。日に干すと多少硬くなるので、スープなどの加熱調理に使用したり、酢に漬けて酢タマネギにしたりすると、食べやすい。

山岸先生お勧めのレシピ①
和風酢タマネギ

画像3: 干しタマネギの作り方

材料
干しタマネギ…300g
コンブ…20g
穀物酢…300ml
砂糖…30g
鶏ガラスープの素…少々

干したタマネギは食べやすい大きさに、コンブは一口大に切り、保存容器に入れる。
穀物酢、砂糖、鶏ガラスープの素を鍋に入れてひと煮立ちさせ、①に注ぐ。漬けたらすぐに食べられる。 
※酸味が苦手な場合は、酢を水で2~3倍に薄めて作ると食べやすくなる。余った酢も、水で薄めて飲むとよい。

山岸先生お勧めのレシピ②
タマネギたっぷりピクルス

画像4: 干しタマネギの作り方

材料
干しタマネギ、ニンジン、ダイコン…合計で約300g
穀物酢…300ml
砂糖…30g
ディルシードかディルパウダー…少々
フェンネル種子、葉…少々

干したタマネギ、ニンジン、ダイコンは食べやすい大きさに切り、保存容器に入れる。
穀物酢と砂糖を鍋に入れてひと煮立ちさせ、①に注ぎ、ディルとフェンネルを加える。

画像: この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。

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