解説者のプロフィール

濱田美里(はまだ・みさと)
料理研究家、国際中医薬膳師、国際中医師A級。中医学から日本の郷土料理まで好奇心旺盛に幅広く探求し、それらを生かした料理を提案。テレビ番組に出演するほか、YouTubeの複数のチャンネルにて料理関係の動画を公開している。
胃が弱い私でも胸やけを起こさない
カレーなどの煮込み料理や、サラダなどで大活躍のタマネギ。血液サラサラ効果を期待して、毎日食べているという方も多いでしょう。
このタマネギで作る、うま味たっぷりの万能調味料「発酵タマネギ」をご存知でしょうか。
発酵タマネギは、白菜漬けやキムチなどと同じように、タマネギを塩と水で乳酸発酵させて作ります。発酵の作用でうま味と風味が加わり、整腸作用も期待できるというスグレモノの調味料です。考案のヒントは、私たち日本人の食卓になじみ深いお漬物でした。
私は若い頃に全国各地を回り、おばあちゃんたちからさまざまな郷土料理を学びました。中でも私が特に気に入ったのは、野菜を乳酸発酵させて作るお漬物です。生の野菜のままでは得られない、深いうま味と複雑な風味に魅せられたのでした。
その後、白菜やキャベツなどのさまざまな野菜を乳酸発酵させました。タマネギもそのひとつです。ほかの野菜と比べると、タマネギは発酵時にものすごく臭います。しかし、完成した発酵タマネギは、うま味とシャキシャキ感が抜群でした。
さらに、体調が整うのもハッキリと感じられました。私はもともと胃が弱く、油っぽい料理を食べるとよく胸やけを起こしていました。しかし、同じ油っぽい料理でも、発酵タマネギとあわせて食べると、胸焼けを起こさないのです。
その後、NHKの情報番組などで発酵タマネギを紹介したところ、「手軽に作れて使い道も豊富」「お通じが整う」など大きな反響がありました。当時の女性ディレクターさんも「便秘が解消してポッコリおなかが凹んだ」と大喜び。肌まできれいになったそうで、今でも作って食べていると聞きました。
私の生徒さんの中には、発酵タマネギで作ったおつまみを食べながらお酒を飲むと、二日酔いにならないとおっしゃる人もいます。
[別記事:旨味がアップ! 発酵タマネギの作り方&活用レシピ→]
腸内で善玉菌のエサとなるオリゴ糖が豊富
発酵タマネギは、刻んだタマネギに塩と水を加えたものを、ジッパー付きの食料保存袋で発酵させて作ります。保存袋を日の当たらない涼しい場所に数日置いて、汁がやや白く濁り、ほのかな酸味が出たら発酵が始まった合図です。その後は、煮沸消毒をした容器に移し替えて、冷蔵保存してください。
発酵中は、途中で保存袋をもんだりひっくり返したりする必要はありません。また、発酵中はジッパーを閉じていても強い臭いがするため、保存袋は密閉容器に入れて二重に封をするのがお勧めです。
発酵に必要な期間は、気温によって異なります。夏ならポツポツと小さな泡ができて、半日~1日で発酵することもありますが、寒い時期だと6~7日ほどかかるようです。
また、冷蔵庫の中でもゆっくりと発酵は続きます。低い温度でゆっくり発酵させたほうが臭いや風味が和らぐため、発酵開始に気づいたらすぐに冷蔵保存するとよいでしょう。
発酵タマネギは、塩分量が少な過ぎたり雑菌が入ったりすると腐敗します。強い濁りと臭い、ドロドロと溶けかけて粘りが出ると、腐敗した状態です。食べずに廃棄してください。
なお、発酵タマネギは、夏に作ると、まれに薄いピンクや茶色に色づくこともあります。この色はタマネギの成分によるもので、腐敗ではありません。
腐敗にさえ気をつければ、発酵タマネギの作り方や保存方法は簡単です。普段は料理をしない私の義父も、発酵タマネギを自分で作って食べています。発酵タマネギにツナや水煮のイワシ、マヨネーズとチーズで作ったペーストを、トーストに乗せていただくのが義父のお気に入りです。
その義父ですが、2021年の夏から発酵タマネギ作りをお休みしていたそうで、そのせいか、最近はおなかの調子が整いにくいとか……。「今度、また発酵タマネギを作って食べる」と言ってくれました。
発酵タマネギが持つ植物性の乳酸菌は酸に強いため、腸まで生きて届くといわれています。また、タマネギは腸内で善玉菌のエサとなるオリゴ糖も豊富です。お通じの調子が気になる人、免疫力(病気に対する抵抗力)を高めたい人、外食続きでくたびれた胃腸をリセットしたいときにお勧めです。
何より発酵タマネギは和・洋・中、どんな料理にもよく合います。時間が作る奥行きの深いうま味を、ぜひお楽しみください。
[別記事:旨味がアップ! おなかの調子がよくなる!発酵タマネギの作り方&活用レシピ→]
●発酵タマネギを作るときのコツ
コツ1
全てのタマネギに塩が行き渡るように、袋の中でよくもむ。

コツ2
かなり強い臭いが出るので、発酵中は袋ごとしっかりふたのできる容器に入れておく。

コツ3
清潔な容器、調理道具を使うこと。保存容器やスプーン、まな板にも台所用のアルコールスプレーを吹きかけるとよい。


この記事は『安心』2022年3月号に掲載されています。
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