解説者のプロフィール

松本美緒(まつもと・みお)
サザンガーデンクリニック副院長。1997年、千葉大学医学部卒業。順天堂大学皮膚科に入局し一般外来および脱毛症専門外来を担当。慈愛病院、巣鴨皮膚科医院勤務を経て、2008年より京成小岩皮膚科クリニック院長。10年に内科医師の夫とサザンガーデンクリニックを開院し副院長に就任。地域のかかりつけ医として尽力している。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。
▼サザンガーデンクリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
ステロイドは「短期決戦」が基本
皮膚科で使う薬のなかで、最も患者さんの関心が高いのは、アトピー性皮膚炎(以下、アトピー)のステロイド外用薬ではないでしょうか。「ステロイドの副作用が怖い」という声は、昔から根強くあります。
とはいえ、どんな薬にも副作用はあります。ステロイドも、正しく使えば効果的な薬です。
加えて近年は、新しい治療法や非ステロイド薬も続々と登場しており、アトピーの治療は新しいステージを迎えています。
今現在、治療中の患者さんは「三位一体論」を耳にしたことがあるでしょうか。10年ほど前から提唱され広まってきた、アトピーの発症機序についての考え方です。
アトピーの発症には、「バリア機能の異常」、「アレルギー炎症(免疫システムの破綻)」、「かゆみ」の三つの因子が絡み合っています。
これらは相互に作用しており、例えば、皮膚のバリア機能が低下するとアレルゲンにさらされやすくなり、アレルギー炎症が起こる。一方で、炎症が起こるとバリア物質が減少して、バリア機能が低下する、といったぐあいです。
●アトピー性皮膚炎の三位一体論

患者さんを診る際は、「現状どの因子が特に強く作用しているのか」、「それを抑えるためにはどんな治療が適切か」といった点を検討しながら、治療方針を定めます。
ステロイド外用薬による局所的な副作用には、皮膚の萎縮(薄く弱くなる)、毛細血管の拡張(皮膚が赤くなる)、色素脱失(皮膚が白っぽくなる)、多毛、ニキビなどがあります。
長く使えばそれだけ副作用が強く現れやすくなるので、ステロイドを使う際は「短期決戦」が基本です。症状の改善に応じて、徐々に減らしていきます。
推奨されるセルフケアは「汗をかくこと」
アトピーの治療過程には三つの段階があり、炎症度合いに応じた強さの薬を処方します。
❶急性期
強い炎症があるとき。三因子のうち、アレルギー炎症とかゆみを優先して、まず「火消し」をします。患者さんには、炎症に応じたステロイド外用薬を1日2回、2週間を目安に、毎日塗ってもらいます。
塗り方は、塗ったあと患部にティッシュを貼って、くっつく程度がベスト。薄く伸ばすと、よくなるものも治りません。急性期のステロイドは、しっかり塗ってスパッとやめましょう。
❷寛解導入期
炎症が抑えられ、治りかけてきたとき。ステロイドは週2~3回、曜日を決めて塗ります。土日だけステロイドを塗り、月曜からきれいな肌で1週間をスタートするのもいいでしょう。
ほかの日は、タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏など、非ステロイド系の外用薬を使います。タクロリムス軟膏は、分子量が大きく、正常な皮膚から吸収されないので、安全性が利点です。
デルゴシチニブ軟膏は、2020年に承認された新薬で、かゆみや炎症を抑えます。従来の薬とは作用機序が異なることから、期待が寄せられています。
❸寛解維持期
炎症やかゆみが抑えられ、いい状態が続いているときです。とはいえ、治ったように見えても、季節の変わりめなどに症状がぶり返すことがあります。
こうした再発予防に重要なのが「プロアクティブ療法」です。保湿剤だけでなく、外用薬(ステロイドまたは非ステロイド)を定期的に塗ることで、皮膚の奥に潜んでいる炎症を抑え続けることができます。ここ10年くらいで主流となりました。
従来の、症状が改善したら外用薬をやめる「リアクティブ療法」では、再発したときに、また強いランクのステロイド外用薬から治療を始める必要がありました。これが結果的に、ステロイドの長期使用を余儀なくしていた側面もあります。
先に述べたように、近年は治療の選択肢が広がっています。注射剤のデュピルマブは効果・安全性ともに高く評価されています。また、もともとリウマチの内服薬であるバリシチニブとウパダシチニブが、アトピーの治療薬として、2021年に追加承認を受けました。
セルフケアとしては、今は昔と違い、汗をかくことが推奨されています。私の患者さんでもホットヨガを始めたら症状がグンとよくなった人がいました。
医療は日々進化しています。病気や治療に対する知識を常にアップデートすることも、ご自身に最適な治療法を探る一助になるはずです。

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。
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