うつ病の治療で最も多く使われている抗うつ剤SSRI(選択的セロトニン取り込み阻害剤)は、多岐にわたる副作用があり、不安や幻覚なども添付文書に示されています。もし「幻覚」が現れたら、どうでしょう。医師は統合失調症の薬も出そうとします。「手足の震え」なら、パーキンソン病の薬。こうして、飲む薬がどんどん増やされていきます。【解説】高橋徳(クリニック徳 院長)

解説者のプロフィール

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高橋徳(たかはし・とく)

クリニック徳院長。1977年、神戸大学医学部卒業。医学博士。兵庫医科大学勤務を経て渡米。ミシガン大学助手、デューク大学准教授・教授、08年よりウィスコンシン医科大学教授(のちに名誉教授)。帰国後、16年にクリニック徳を開院。東北大学ほかで非常勤講師、早稲田大学理工学術院総合研究所にて招聘研究員を務める。近著に『薬に頼らないうつ消し呼吸』(マキノ出版)がある。

飲む薬が多くなるほど副作用も増える

私は長らく海外で研究生活を送ってきましたが、2016年に統合医療のクリニックを開院しました。そこで驚いたのは、「うつ」の患者さんの多さです。事態を検証するうち、問題が明らかになってきました。

うつ病の治療で最も多く使われている抗うつ剤は、SSRI(選択的セロトニン取り込み阻害剤)という薬です。

この薬は1999年に日本で認可されましたが、ほぼ同時に、「うつは心のカゼ」という周知キャンペーンが展開されました。気軽に処方されるようになった結果、今も製薬各社が多種多様なSSRI製剤を売り出しています。

この薬は、「うつになると、神経伝達物質であるセロトニンが脳内で不足するので、脳内セロトニン濃度を上げればよい」という観点から作用します。

けれども、「うつ病患者の脳内はセロトニンが少ない」と実験で証明されたことはありません。大前提が、仮説の上に成り立っているのです。

運よく功を奏する場合もありますが、うつはSSRIを使うことでかえって症状が悪化し、簡単には治らなくなります。

その証拠に、1999年時点で44.1万人だった国内のうつ病患者数は、2008年には104.1万人と、およそ2.4倍に増加しています。薬が効いているなら、10年足らずでこれほどまで増えるはずがありません。

これは日本だけの現象ではなく、先進諸国でも同様に、「SSRIが売り出されると、うつ病患者が爆発的に増える」という現象が起こっています。

 
SSRIは、吐き気や便秘などの比較的軽い症状から、血圧上昇、肝機能や性機能の異常、〝自殺の念慮・企図〟まで、多岐にわたる副作用があります。うつの薬にもかかわらず、不安や幻覚なども、副作用として添付文書に示されています。

もし「幻覚」が現れたら、どうでしょう。医師は統合失調症の薬も出そうとします。「手足の震え」なら、パーキンソン病の薬。こうして、飲む薬がどんどん増やされていきます。

飲む薬が多くなるほど副作用が増え、本来の病態と副作用による症状の、区別がつかなくなります

薬はあくまで対症療法であり「根本原因が取り除かれないかぎり、病気は治らない」ということを認識すべきです。

睡眠薬の安易な使用は禁物

もう一つ、うつと関係の深い症状に、「不眠」があります。

睡眠薬の主流は、ベンゾジアゼピン系という薬です。この薬は視床下部や扁桃体に作用します。GABAという神経伝達物質の受容体(受け取る器官)に結合して、神経活動を抑制。脳を休ませ、眠りへと導きます。

ところが、GABA受容体は視床下部や扁桃体だけに存在するわけではありません。副作用として、眠気や集中力の低下は想定内としても、認知障害、攻撃性、暴力、衝動性、自殺念慮なども報告されています。さまざまな中枢神経活動を、広範囲にわたって低下させるのです。

この薬の使用で最も懸念されるのは、依存性の強さです。

長期にわたり服用すると効きが悪くなり、2錠、3錠と、どんどん薬を増やすことになります。副作用に悩まされるようになり、薬をやめたいと思っても、多くの場合、激しい離脱症状が襲ってきます。

より深刻な睡眠障害、不安と緊張の増加、手の震え、発汗、動悸、パニック発作などが発現するおそれがあります。安易な使用は禁物です。

患者さんにより、薬を使わざるをえない場合もありますが、処方は最小限にとどめるべきです。もし、すでに長期使用している場合は、決して勝手にやめてはいけません。必ず医師に相談のうえ、ごくごく少量ずつ減らすよう調整してください

 
では、うつや不眠を、薬に頼らず治すにはどうするか。

うつの発症要因は、職場や家庭のストレスがほとんどです。できればいったん休むか離れるかして配置転換を希望するか、少し気力が戻ったら転職や引っ越しも視野に入れましょう。

基本的には頭の使い過ぎで、脳が疲れているので、散歩や運動で気分転換することも有効です。

不眠の場合、朝は早く起きて日中によく動き、体を疲れさせましょう。夜は湯船につかって早めに床に就くことで、自然と眠くなるはず。横になっているだけでも、脳は休息できます。

眠れないことを、気に病む必要はありません。数を数えつつ、ゆっくり深呼吸して、「そのうち眠れる」と考えることです。

うつや不眠の減薬プロセスは多くの場合、困難を伴います。症状は一進一退しますが、意志を強く持って、根気よく取り組んでいきましょう。

 

画像: 早寝早起き、散歩と運動、入浴と呼吸法が有効!

早寝早起き、散歩と運動、入浴と呼吸法が有効!

薬物療法からの脱却を!

抗うつ剤DDRI
ベンゾジアゼピン系睡眠薬
▶︎メンタル面・身体面に、多岐にわたる副作用があり、重篤な症状を現す場合も。依存性もあり、薬漬けになりやすい。

うつ症状
▶︎いったん休むか離れるかして、ストレスの根本原因を取り除く。
不眠
▶︎よく体を動かす。横になるだけでも脳は休まる。眠れないことを気に病まない。

画像: この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。

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