LDLコレステロールを減らす「スタチン系薬剤」は、薬を調整する話題になると「やめてもいい薬」として、よく挙がります。理由はあくまで「予防薬」だからです。非常に効果が高く、画期的といえるほどの薬ですが、副作用のリスクもあるため、肝心なのは漫然と服用を続けないことです。5年をひと区切りとして、心血管・脳血管疾患の発症リスクを、医師と検討してください。【解説】石原藤樹(北品川藤クリニック院長)

解説者のプロフィール

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石原藤樹(いしはら・ふじき)

北品川藤クリニック院長。1963年、東京都生まれ。信州大学医学部医学科大学院卒業。医学博士。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科と小児科で研修後、98年より六号通り診療所所長。2015年、北品川藤クリニックを開院。主な著書に『健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな!』(KADOKAWA)『誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方』(総合医学社)がある。コーヒーを愛好しその健康効果にも注目している。
▼北品川藤クリニック
▼専門分野と研究論文(CiNii)

スタチンは効果が高いがあくまで「予防薬」

高血圧や動脈硬化と診断されると、たいていの患者さんは、「スタチン系薬剤」という薬を処方されます。肝臓に作用し、いわゆる〝悪玉〟であるLDLコレステロールを減らす薬です。

LDLコレステロールが基準値を超えている場合、脂質異常症の一つである「高コレステロール血症」と診断されます。放置すると、動脈硬化が進行しやすくなり、心筋梗塞や脳卒中などの心血管・脳血管疾患の発症リスクが高まります。こうした重篤な病気の予防のため、スタチンが処方されるのです。

けれども薬を調整する話題になると、スタチンは「必要性が低く、やめてもいい薬」として、よくやり玉に挙がります。治療効果が乏しいからでしょうか?

いいえ、違います。スタチンは非常に効果が高く、しっかりしたエビデンスがあり、画期的といえるほど、いい薬です。

しかも近年は、スタチンに抗酸化・抗炎症作用があることが判明。動脈硬化の炎症を抑える効果も期待されています。

それでも重要性が低いとされる理由は、スタチンがあくまで「予防薬」だからです。

例えば抗がん剤は、がんの治療薬です。有効性があれば、がんが縮小するなど、効果がわかりやすい。一方、スタチンは、 LDLコレステロールが下がっても、その時点の健康状態に大きな変化はありません。

「飲んでいれば動脈硬化が進まない」とはいい切れず、動脈硬化になった人が皆、脳卒中を起こすわけでもない。起こるかわからないリスク回避(一次予防)のために、「無駄打ち」しているケースも多いというわけです。

漫然と服用を続けないことが肝心

裏を返せば、スタチンの服用が「無駄にならない」ケースもあります。心筋梗塞や脳卒中などの既往歴がある人が、再発予防(二次予防)として飲む場合です。

ほかにも、高血圧や糖尿病などの病歴、肥満度、年齢など多くの要素を考慮して、心血管・脳血管疾患の発症リスクを推測します。リスクが高ければ原則として服用を勧めます。

スタチンを始めたら、5年間は継続してください。短期間の服用では、予防効果がないことが研究でわかっています。

一方、「5年間飲み続けたら続けてもやめても、予防効果は20年間変わらない」とする報告もあります。つまり、もし80代の患者さんが「一次予防のために8年間スタチンを飲んできた」という状況であれば、この先のリスクは低いと考え、中止する判断もありえます。

肝心なのは、漫然と服用を続けないこと5年をひと区切りとして、心血管・脳血管疾患の発症リスクを、医師と検討してください。メリットとデメリットを照らし合わせて、適切な処方になるよう見直しましょう。

スタチンを飲むことのデメリットは、やはり副作用です。

スタチンはその薬理作用から、筋肉細胞を少し壊れやすくするため、筋肉疲労や倦怠感が現れやすくなります。筋肉系で重篤な症状としては、横紋筋融解症などが起こりえます。

筋肉細胞の損傷がある場合、その指標であるCKPという値が上昇します。しかし、この値が上がっていなくても「スタチンのせいか筋肉痛がある」という患者さんも、たまにいます。正直、スタチンの副作用かどうか判別はつきませんが、私は要望があれば、いったんは処方を中止するようにしています。

ほかにも副作用として肝・腎障害が挙げられます。50代の女性患者さんで、腎機能低下を表すクレアチニン値が上がってきた例がありましたが、スタチンをやめたら下がりました。

もう一つ懸念すべき副作用が血糖値の上昇です。「スタチン服用患者の13人に1人は、糖尿病が悪化する」という論文が2021年に発表されました。

糖尿病でスタチンを処方される場合もあるので、これは矛盾した話ですが、スタチンはインスリンの効きを悪くする作用が確認されています。実際、スタチンを始めてから明らかに血糖値が上がった患者さんがいました。一次予防のために飲んでいたので中止したところ、血糖値は元のレベルに戻りました。

このように、スタチンにはいい面も悪い面もあります。「動脈硬化は心配だが、スタチンは避けたい」という場合、医療用のEPA(エイコサペンタエン酸)・DHA(ドコサヘキサエン酸)製剤を処方することもあります。

患者さんが納得する形で薬を使うと、治療効果が上がります。ベストな治療法を見つけていきましょう。

スタチンはあくまで「予防薬」

心血管・脳血管疾患の既往歴なし(一次予防)で服用している人
▶︎中止してみて特に問題となる変化がなければ、やめてもよい。

心血管・脳血管疾患の再発予防(二次予防)で服用している人や、発症リスクの高い人
▶︎原則、継続を推奨。

心血管・脳血管疾患の発症リスクは、年齢や健康状態により経年で変化する。メリットとデメリットを5年ごとに検討し、適切な処方に見直すことが肝心!

画像: この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。

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