解説者のプロフィール

宇佐見啓治(うさみ・けいじ)
うさみ内科院長。1982年、福島県立医科大学卒業後、同大学附属病院第二内科に入局。福島赤十字病院での勤務を経て、97年にうさみ内科を開院。専門は内科全般。25年ほど前から、糖尿病治療に運動療法として筋トレを取り入れ、食事療法と並行して患者に指導。治療に高い成果を上げている。著書に『血糖値がみるみる下がる!7秒スクワット』(文響社)など。
▼うさみ内科(公式サイト)
薬で血糖値を下げるのは難しい
私はこれまで、数多くの糖尿病患者さんに向き合ってきました。正直に申し上げて、薬で血糖値を下げるのは至難の業です。
糖尿病の薬は、3タイプ、全7種類があります。
①インスリン抵抗性改善薬(血糖値を下げるホルモンである、インスリンの効きをよくする薬)が、2種類。 ②インスリン分泌促進薬(インスリンの出をよくする薬)が、3種類。 ③糖の吸収や排泄を調整する薬が、2種類です。
患者さんの病態を診ながら、これらの薬とインスリンを組み合わせて処方するのですが、そう簡単にはよくなりません。
過去1~2ヵ月の血糖状態がわかる、ヘモグロビンA1c(以下、A1c)という指標があります。基準値は4.6~6.2%で、6.5%以上なら糖尿病の疑い、7%台で合併症のリスクが生じます。8%台なら、入院も検討するレベルです。
薬1剤では、このA1cを1%下げるのも難しい。9%台や11%台のA1cを、6%台まで下げようと思ったら、3~4種類以上もの血糖降下剤を使わなくてはなりません。
さらに、薬で無理に血糖値を下げようとすると、重大な副作用が現れるおそれもあります。
ACCORD試験と呼ばれる北米の大規模研究があります。
心血管疾患が高リスクな約1万人の糖尿病患者を二つの群に分け、片方は標準療法群としてA1cを緩やかにコントロール。もう片方は強化療法群とし生活習慣の改善に加え、血糖値降下薬とインスリンを使用。A1cの目標値を6%未満と定め厳格に管理しました。
すると予想に反して、強化療法群で全死亡率と心血管死のリスクが有意に増加。終了予定をくり上げる形で、2008年に試験は中止となりました。
なぜ死亡率が増加したのか、今に至るまでさまざまな検証がされていますが、強制的に下げたことで、重症低血糖による致死性合併症が起こったと考えられます。
薬を使うにしても、「下げ方の質」が問われるのです。
無理のない糖質制限とスクワットがおすすめ
糖尿病には1型と2型があります。1型はインスリンの分泌が不足する病気ですから、薬による治療が必要です。
対して、2型は生活習慣病。食事の改善と運動で、治らない2型糖尿病はありません。
私はボディビルを趣味としていたことから、糖尿病の治療に効く筋肉トレーニングを長年にわたり研究。実践を重ね、患者さんの治療に役立ててきました。
一例を挙げましょう。39歳の男性患者さんは体重100kg超で高血圧症があり、通院していました。ところが6.9%だったA1cが、1年のうちに11.1%に上がってしまい、糖尿病も治療が必要になりました。
すでに高血圧の薬を服用していたうえ、比較的若い患者さんだったことから、薬を使わず、食事療法と運動療法を指導しました。
すると、1ヵ月もせずにA1cが9.7%に降下。3ヵ月で6.6%、5ヵ月で5.4%まで下がりました。体重も最大時より20kg以上減りました。5年以上が経った今でも薬はいっさい使わず、良好な状態を維持しています。
薬物療法を選んでいたら、3~4剤以上を服用することになっていたでしょう。
私の指導する食事療法は、いわゆる糖質制限ですが、行うのは平日の5日間のみ、しかも夕食をご飯抜きにするだけです。間食は控えてもらいますが、土・日は普通に食べてOKですから、無理なく続けられます。
運動療法では、特にスクワットが有効です。太ももの大きな筋肉を育てることで、筋肉への糖の取り込みを促します。
ポイントは、ゆっくりと腰を落とすこと。筋肉が引き伸ばされると、筋肉組織に小さな傷が生じます。トレーニングをしたら、少し筋肉を休ませて、損傷を修復することで、筋肉が肥大化します。ですから、筋トレは週3日程度がベストなのです。

運動療法と食事の改善で治らない糖尿病はない!
食事療法
お菓子や果物は控えたうえで、平日の夕食だけ糖質制限を実践(ご飯などの炭水化物をとらない)。
運動療法
ゆっくり腰を落とす「スクワット」がお勧め。10回を1セットとして1日3セットを週3日行う。
私はよく患者さんに、ロバのたとえ話をします。荷物をたくさん背負わされたロバを山に登らせるには、どうすればいいでしょうか。
鞭でお尻を叩いたら登ってくれるかもしれません。これが、薬を使ってインスリンを分泌させるやり方です。
けれども、それではロバ、つまりインスリンを分泌する膵臓は、疲弊してしまいます。疲れさせないためには、鞭を打つのをやめ、ロバから荷物を下ろしてやればよい。これが、食事療法と運動療法というわけです。
ぜひ今からでも、ロバに鞭打つコントロール法を見直し、積み荷を降ろしてあげましょう。

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。
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