解説者のプロフィール

松田史彦(まつだ・ふみひこ)
松田医院和漢堂院長。1962年生まれ。87年、聖マリアンナ医科大卒業。同年に熊本大学麻酔科入局。熊本大学医学部第2内科を経て、97年に東京女子医科大学附属東洋医学研究所に勤務し、東洋医学と漢方に出合う。2000年に松田医院和漢堂を開院。心と体の健康をサポートする地域のかかりつけ医を目指しつつ、統合医療と予防医学を実践。著書に『薬の9割はやめられる』(SBクリエイティブ)がある。
▼松田医院和漢堂(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
全身に血液を送るために血圧が上昇する
私は、近代西洋医学と、代替療法や伝統医学などを組み合わせた統合医療を実践し、患者さんの治療に当たっています。
近隣地域からさまざまな症状の患者さんが来院されますが、9年ほど前に開設した「薬やめる科」には、遠方からも多くのかたが相談に見えます。ご自身やご家族が、「今飲んでいる薬を減らしたい」と悩んだ末に、訪れるのです。
なかでも相談を受けるのが、生活習慣病の薬。
高齢のかたはたいてい、血圧を下げるための降圧剤を服用しています。血圧の基準値は、最大血圧が140mmHg、最小血圧が90mmHgですが、これを超えると「脳梗塞や心筋梗塞など重篤な疾患の発症を予防する」という目的で、降圧剤が処方されるのです。
けれども、血圧が高いことは、ほんとうに病気なのでしょうか。
年を取ってくると、血管が柔軟性を失い、かたくなります。全身の隅々まで血液を送るためには圧力が必要です。年齢が高くなるにつれ血圧が上昇するのには、理由があるのです。
それにもかかわらず、血圧を薬で無理に下げようとすると、血液が末端まで行きわたらず、めまいやふらつきといった症状が起こる可能性があります。
血圧降下剤には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、カルシウム拮抗剤、α遮断薬、β遮断薬などがあります。
名称に注目してください。いずれも、人間に本来必要な生理反応を抑えることで、血圧を下げているのです。
もちろん、若い人で血圧が180mmHgや200mmHgを超えるようであれば、薬を使って下げる必要も出てくるでしょう。循環器系や脳血管系の既往歴がある場合も、要検討です。
けれども、こと高齢者においては、体が必要に応じて血圧を上げている側面があるということを覚えておいてください。
副作用のめまいに新たな薬が出ることも
薬を勧めない理由は、それだけではありません。これは降圧剤に限った話ではないのですが、副作用があまりにも多いからです。
医師の側は、残念ながら、薬の副作用をすべて把握しているわけではありません。加えて、「この症状は薬の副作用かも」と疑うことも、ほぼありません。
例えば、降圧剤により、めまいやふらつきなどが現れても、それらは高齢者によくある症状なので「年のせい」と片づけられてしまうことが多いのです。
それだけならまだしも、「では、めまい止めの薬を出しておきましょう」などと、新たな薬を追加で処方される可能性があります。これが、ポリファーマシー(多剤併用)の始まりです。
もちろん、薬を飲まないと治らない疾患もあります。薬を飲むことで安心できる、という患者さんもいます。多剤併用が即NG、というわけではありません。
ただ、その薬を飲むことで得られるメリットとデメリットを検討し、必要に応じた処方に調整することがたいせつです。
そのために、医師は副作用を見落とさないよう注意する必要があります。同時に、患者さんの側も、体調の変化に気をつけてください。薬を処方されてからの経過をメモしておくなど、自衛策を取ることです。
私の患者さんの例を挙げましょう。40代・男性のAさんは血圧が高めで、降圧剤を数種類服用していました。血圧は低く抑えられていましたが、ふらつきがあり、私の著書を読んだことから来院されました。
Aさんの口の中を診ると、上下の歯肉が腫れています。カルシウム拮抗剤には、歯肉肥厚の副作用があるのです。
そこで、様子を見ながら徐々に薬を調整。半分まで減らしたところ、ふらつきが減ったうえ歯茎の腫れも引き、「食事がしやすくなった」と喜んでおられました。薬を減らしたことで、血圧は10mmHgほど上がりましたが、AさんのQOL(生活の質)はグンと向上しました。
もし、Aさんが歯科にかかっていたら、どうでしょう。歯科治療をいくら行っても、根本原因(降圧剤の副作用)が取り除かれないので、歯茎の腫れは引かず、ふらつきも改善されないままだった可能性があります。
最初に述べたように、年齢とともに血圧が高くなるのは自然なこと。高血圧は生活習慣病ですから、まずは食事を見直し、運動に励みましょう。
自分の体をコントロールできるのは自分だけ。「薬は最後の選択肢」と考えるくらいで、ちょうどいいのです。

年齢が上がれば血圧も上がる!
「◯◯阻害薬」「◯◯拮抗薬」「◯◯遮断薬」は人間の生理反応を抑えて無理に血圧を下げようとするので、かえって体に不具合が生じることも。
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血圧が年齢とともに上がるのは、自然の摂理。基準値より多少高めでも、元気なら降圧剤を飲む必要はない。
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血圧を下げたいならまずは生活習慣の改善を!

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。
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