解説者のプロフィール

大久保愛(おおくぼ・あい)
薬剤師、国際中医師、国際中医美容師、漢方カウンセラー。昭和大学薬学部生薬学・植物薬品化学研究室卒業。北京中医薬大学で漢方・薬膳・東洋の美容などを学び、日本人で初めての国際中医美容師の資格を取得。漢方カウンセラーとして年間2000人以上の女性の悩みにこたえてきた。近著に『1週間に1つずつ 体がバテない食薬習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
記憶力の低下を予防してアンチエイジング効果も
私は国際中医師、かつ漢方カウンセラーとして、多くのかたに健康や食事のアドバイスをしてきました。東洋医学の目線で見ても、「納豆」は、とても優れた効能を持っていると考えられます。
そこでまず、納豆の効能を東洋医学の立場からお話ししましょう。併せて、西洋医学的(栄養学的)な裏づけも添えていきます。
まず、納豆の効能ですが、「補気(ほき)」「補腎(ほじん)」「活血(かっけつ)」「痰湿除去(たんしつじょきょ)」、以上四つの側面から述べることができます。
❶補気
「気」とは、東洋医学で考える一種の生命エネルギーです。気が不足したり、滞ったりすることで、私たちの体に不調が起こります。それを補うのが補気の働きです。
納豆には、良質のたんぱく質に加えて、ビタミンB群が豊富。これらの働きで体の代謝がアップすれば、気が補われて、体調が整うと考えられます。
❷補腎
腎は、東洋医学における五臓の一つ。五臓とは、「肝」「心」「脾」「肺」「腎」のことで、この五つが、私たちの体の機能を支えています。
なかでも、腎は、成長・発育・生殖などにかかわり、腎が衰えると、白髪が増える、もの忘れが多くなるといった、いわゆる老化現象が起こってきます。腎を補うことで、それらの老化現象を予防します。
また、納豆に含まれるレシチンという成分は、生体膜を構成する成分で、記憶力の低下を予防する作用が知られています。納豆のビタミンK2やカルシウムには、骨粗鬆症の予防・改善効果もあります。
❸活血
活血とは、血流をよくする働きです。納豆に含まれるナットウキナーゼという成分は、血栓(血の塊)を溶かす作用があり、血液をサラサラにして、血流をよくしてくれます。
❹痰湿除去
「痰湿」とは、私たちの体にたまった不要な物のことです。放置していると、たまった物が炎症を起こしたり、体が熱を持ってアレルギー疾患を起こしたりすることにつながります。
納豆に含まれるビタミンE やイソフラボンは、抗酸化力が高い成分で、そうした不要な物を除去してくれます。豊富な食物繊維によるデトックス作用も期待できます。
このように多くの有効成分を含んだ納豆に、トッピングや味つけなどで、ほかの食材を組み合わせると、健康効果をさらに高めることができます。
足りない栄養素を補うことで健康効果がアップ
ここでは、私自身が愛食している「納豆+α」レシピを、ご紹介しましょう。
●オートミール納豆
「オートミール納豆」は、電子レンジで加熱したオートミールをご飯のかわりにして、納豆を合わせて食べる物。作り方はとても簡単です(下記参照)。
このレシピは、生活習慣病対策をしたいかたにも最適です。
食後の血糖値の上昇の度合いを示すGI(Glycemic Index)値という指標があります。オートミールは、このGI値が55と、比較的低いのが特長です。精白米は88、精白パンが95ですから、低GI食品といえるでしょう。
これまで、納豆をご飯にかけて食べていたかたが、ご飯をオートミールにおき換えるだけで、糖質を減らす効果が期待できます。
また、オートミールには、近年注目されている、セカンドミール効果も期待できます。
セカンドミール効果とは、最初にとる食事(ファーストミール)が、次の食事(セカンドミール)後の血糖値にも影響を及ぼすことを指します。
オートミールには、水溶性食物繊維であるβ-グルカンが含まれています。β-グルカンには食後血糖値の上昇を抑える作用があり、それが次の食事の際の血糖値の上昇も抑えることがわかっているのです。
β-グルカンには、コレステロール値を低下させる働きもあります。さらに、納豆の血液サラサラ効果が動脈硬化や高血圧の予防にも役立ちます。こうした点から、糖尿病や高血圧など生活習慣病のかたや、その予備軍のかたに、オートミール納豆は大いに勧められます。

オートミール納豆
材料
オートミール…15g
水…25ml
納豆…1パック
❶耐熱容器にオートミールを入れ、水を加える。
❷ラップをせずに、①を電子レンジに入れ、500Wで30秒加熱する。
❸電子レンジから②を取り出し、軽くほぐす。 納豆を加え、好みの調味料で調味する。お勧めの味つけは、クミンパウダー、種を除きたたいた梅干し、カツオ節など。
●こうじ納豆
腸内環境を整えたいかたにお勧めなのが、「こうじ納豆」です(下項参照)。私は多めに作りおきして、おやつにしたり、夕食のおかずとして小鉢で出したり、お酒のおつまみにしたりしています。
納豆菌+こうじ菌で、より多くの菌を取り入れることができ、腸内環境の改善に役立ちます。腸の働きがよくなれば、お通じもよくなります。
また、腸内環境が改善されることで、免疫力もアップします。アレルギー疾患にお悩みのかたにも勧められるでしょう。

こうじ納豆
材料
納豆…6パック
こうじ(乾燥)…納豆のかさの半分程度
だし用コンブ…5cm角
しょうゆ…適量

❶チャックつきの袋に、納豆、コンブ、手でほぐしたこうじを入れる。こうじが軽く湿る程度のしょうゆを加える。

❷①を袋の上からもみほぐし、混ぜる。常温でひと晩おく。
※翌日から食べられるが、こうじがやわらかいほうがよい場合は3日ほどおく。冷蔵庫で2週間は保存が可能。
※しょうゆは大さじ2〜3杯を目安に、好みで調整する。量が多ければ保存性が高まるが、塩分を控えたい場合は少なくし、唐辛子やクミンなど抗菌作用のあるスパイス類を加える。
●カツオ節納豆
レシピというほどのこともなく、ただ納豆にカツオ節をたっぷりのせるだけの一品です。味つけに、梅干しを加えるのがお勧めです。
納豆を食べれば植物性たんぱく質はとれますが、動物性たんぱく質の補給ができません。カツオ節をたっぷり加えることで、不足分を補給できます。たんぱく質不足に陥りがちな高齢者には、ぜひお勧めしたい食べ方です。
カツオ節には、ビタミンD や鉄も豊富。納豆には、ビタミンK2がありますので、ビタミンDとビタミンK2との相乗作用で、骨粗鬆症の予防効果が高まります。
これらのレシピは食べるタイミングにも気をつけましょう。
例えば、オートミール納豆は、朝に食べるといいでしょう。先に説明した、セカンドミール効果を生かすためです。
夕食では、その日足りなかった栄養素を、納豆+αとして加えて補うのがいいでしょう。おなかの調子を整えたいときは、こうじ納豆を選んだり、「今日はたんぱく質が取れていないな」と思ったら、カツオ節納豆を夕食の一品に添えたりすれば、体調管理に役立ちます。
ぜひ皆さんもさまざまな食べ方を楽しみながら、納豆を健康増進に生かしてください。

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。
www.makino-g.jp