解説者のプロフィール

八田告(はった・つぐる)
八田内科医院院長。1992年、島根大学医学部卒業。近江八幡市民病院内科、京都府立医科大学腎臓高血圧内科などを経て、近江八幡市立総合医療センターの腎臓センターと京都府立医科大学薬理学教室に兼務。2013年、腎臓センター顧問を務めつつ八田内科医院を開院。21年、京都府立医科大学臨床教授。日本透析学会認定医・指導医。日本腎臓学会専門医・指導医。日本循環器学会専門医ほか。医学博士。
▼八田内科医院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
たんぱく質摂取に最適な食品は「納豆」
私のクリニックでは、腎臓病や高血圧、循環器疾患などの慢性疾患の患者さんたちに、年に2~3回程度、血液検査をしています。多くの検査数値のうち、私が必ずチェックする項目の一つが、血液中のアルブミンの値です。
アルブミンはたんぱく質の一種で、この値は、その人の栄養状態の指標です(正常値は3.9g/dl以上)。アルブミン値が低いということは、その患者さんが低栄養で、エネルギー源であるたんぱく質の摂取量が足りていないことを示すのです。
ことに高齢者の場合、たんぱく質の摂取が足りず、低栄養の食事を続けることは、深刻な問題を引き起こします。
たんぱく質が不足すれば、体そのものが脆弱化して、むくみやすくなったり、免疫力が低下し、カゼや感染症などにかかりやすくなったりします。
最近診察した80代の女性は、急性腎盂腎炎で発熱し来院しました。採血すると、アルブミン値がかなり低めでした。彼女はそのころ生活が不規則で、食事が十分に取れなかったとのことです。低栄養で体全般の抵抗力が落ちたことが、感染症につながったと考えられます。
また、たんぱく質の摂取量が足りなければ、筋肉量はしだいに減少し、体重も減っていきます。筋肉が減ると、血圧の変動も大きくなり、血圧が上がりやすくなります。
さらに高齢者にとって高リスクなのは、筋肉量の低下が進んで筋力が低下すると、転びやすくなることです。骨折し、入院すれば、寝たきりや認知症の発症につながるおそれがあります。
筋肉量の低下は、高齢者だけの問題ではありません。
当院では年1回、体組成計を使って、患者さんの筋肉量を調べています。毎年調べるので、経年での変化がわかりますが、コロナ以降、高齢者はもちろん、若いかたでも筋肉量の減少が目立つようになりました。巣ごもり生活によって、運動の機会を失った影響が如実に現れているといえるでしょう。
このような筋肉量の減少を放置しておくことは、年齢によらず体によくありません。そこで私は、運動を勧めるとともに、たんぱく質不足が懸念される患者さんに、食事で積極的にたんぱく質を摂取するようにアドバイスしています。
1日に、体重1kg当たり1.0g以上のたんぱく質の摂取が一つの目標です。これは、厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)に、「65歳以上の高齢者は、サルコペニア(加齢による筋肉量の減少と身体機能の低下した状態)や、フレイル(心身の虚弱状態)を防ぐために望ましい」と記載されている量です。
たんぱく質の種類は、赤身の肉よりは、魚か卵。動物性たんぱく質より、植物性たんぱく質をとってくださいと話しています。なかでも大豆加工品がお勧めですが、とりわけ手軽な物が、「納豆」です。
年を取ると、どうしても食が細くなりがちです。そういう状況では、ステーキを焼いて食べましょう、などといっても現実的ではありません。しかし、納豆なら手軽に食べられ、継続もしやすいはずです。
常食すれば、大豆の良質なたんぱく質(納豆1パックでたんぱく質約6g)を摂取できるだけではなく、納豆に含まれる多くの有効成分も取り入れることができます。

納豆には良質なたんぱく質が含まれる
「腎臓病はたんぱく質を制限」は変わりつつある
私の専門である腎臓病の患者さんについても、よほどの重症でない限り、たんぱく制限ではなく、逆にたんぱく質の摂取を勧めています。
従来は、「腎臓病になったらたんぱくを制限する」というのが常識でした。しかし近年、この定石は揺らぎつつあります。
実際のところ、たんぱく質制限を行っても、腎機能の変化には差が出ないどころか、むしろ低栄養による弊害のほうが大きいと考える医師が増えてきているのです。
腎臓病のかたも1日当たり0.8g~1.0gのたんぱく質を摂取するほうが健康維持に役立つというのが、私の考えです。
実際、患者さんにそのように勧めて、成果を上げています。低栄養から感染症にかかりやすかった腎臓病の患者さんが、たんぱく質の摂取により感染症を寄せつけなくなった例などもあります。
ちなみに私自身も、納豆をよく食べています。我が家では納豆に生卵をのせて食べるのが定番です。納豆と卵で、植物性と動物性、両方の良質なたんぱく質をとることができます。オクラやメカブもよく加えます。
ただし、納豆に付属しているタレは減塩のため使いません。カラシをつけるだけでも、十分おいしく食べられます。
皆さんも、栄養不足や、筋力の低下を防ぐために、ぜひ納豆を有効に活用してください。

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。
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