ヘバーデン結節などの変形性関節症や手根管症候群では、指の負担を減らすことがたいせつですが、全く動かさずに安静にするのも、関節がかたくなり、血流が悪化し痛みや腫れの改善が難しくなります。当院では、手指を適度に曲げ伸ばして関節を刺激する簡単なセルフケアを指導しています。【解説】池口良輔(京都大学医学部附属病院リハビリテーション科准教授)

解説者のプロフィール

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池口良輔(いけぐち・りょうすけ)

京都大学医学部附属病院リハビリテーション科准教授。1993年、京都大学医学部卒業。医学博士。日本整形外科学会認定専門医、日本リハビリテーション医学会認定専門医、日本手外科学会認定専門医、日本マイクロサージャリー学会評議員。静岡県立総合病院整形外科、神戸市立医療センター中央市民病院整形外科医長などを経て、2014年より現職。共著に『手指の痛み しびれ・はれ・変形 自力でよくなる! 名医が教える最新1分体操大全』(文響社)がある。

指を全く動かさないのは逆効果

私が専門としている手外科(手の外科)には、手指に痛みのある多くの患者さんがいらっしゃいます。そのなかでも特に多いのは、指の関節に痛みや腫れが生じる変形性関節症です。しびれを伴う痛みが現れる手根管症候群もよく見られます。

代表的な指の変形性関節症にヘバーデン結節があります。ヘバーデン結節は、なんらかの原因で手指の第1関節の軟骨がすり減ると炎症が起こり、痛みや腫れが生じます。悪化すると、骨が変形して第1関節の左右にコブ(結節)ができます。

こうした症状が手指の第2関節に起こるとブシャール結節、親指のつけ根の関節に現れると母指CM関節症と呼ばれます。

手根管症候群は、手根管という手首にあるトンネルで、親指から薬指にかけてつながっている神経が圧迫されることで起こります。悪化すると、親指のつけ根の筋肉がやせて、物をつかむ力が衰えます。

いずれも、我慢をして指を使い続けると、病状が進行して物を握ったりつまんだりするのが難しくなり、日常生活に支障を来すようになります。

これらの病気は、さまざまな要因が複合的に重なって起こりやすくなるといわれています。

軟骨の柔軟性を保つ女性ホルモンの減少が一因という説もある一方、指の酷使も影響するといわれます。また、遺伝的な要因も指摘されています。こうしたことから、実際は中高年の女性の患者さんが多いものの、性別や年齢に関係なく発症する可能性があるといえます。

手指の病気では、指の負担を減らすことがたいせつです。しかし、全く動かさずに安静にするのも問題です。手指の筋力が衰えて関節の動きが悪くなり、かたくなるばかりか、血流が悪化し、骨は萎縮して、痛みや腫れの改善が難しくなります。

つまり手指の病気では、適度に動かすこともまた重要になるということです。痛いからといって動かさないと、症状はいっそう悪化し、さらに痛くなるから動かさない、という悪循環に陥ります。

指の変形性関節症に対する手指の運動の有効性は、海外の研究論文にもまとめられています。その一つである、2002年に行われたオーストリアの研究をご紹介しましょう。

この研究では、指の変形性関節症を発症した40人の患者さんを、手指の運動に加え負担を減らす指導を行ったグループと、指導を行わなかったグループに分けました。そして3ヵ月、痛みのレベルや握力、日常生活動作の不自由度といった変化を観察しました。

すると、指導を行ったグループでは、痛みや握力、生活動作の優位改善が認められたのです。

可動域が広がり関節の柔軟性を維持

こうしたことをふまえ、当院では鎮痛薬や湿布などの薬物療法のほかに、手指を適度に曲げ伸ばして関節を刺激する簡単なセルフケアを指導しています。その結果、症状がよくなったという声が、以前に増して聞かれるようになりました。

そのなかでも、特に変形性関節症や手根管症候群の痛み、しびれの軽減、筋力アップに役立つふたつの「手指ストレッチ」をご紹介しましょう(下項参照)。

いずれも、手指を動かすストレッチです。このストレッチで指の関節を動かすと、可動域が広がり、関節の柔軟性を維持できるようになります。また、手指の筋肉が鍛えられるので、関節の衰えを防ぎ、安定性を高める効果が期待できます。

さらに手指の血流がよくなり、指先にたまっていた血液が流れ出します。痛みの原因である老廃物が排出されやすくなり、腫れが改善し、骨の変形を防ぐことにもつながるのです。

手指ストレッチは、腱鞘炎や手指の骨折で手術したあとのリハビリとしても有効です。ただし一度変形した指を元の状態に戻すことはできないので、ご留意ください。

手指ストレッチは朝、昼、晩の1日3セット行いましょう。朝は、眠っている間にこわばった手指がほぐれてから、行うといいでしょう。

コツは力を入れ過ぎず、一つひとつの動作をゆっくり行うこと。また、入浴後やぬるま湯で手を温めたあとに行いましょう。手が冷えているのは、血流がよくない状態なので効果が期待できません。

痛みがひどい人は無理をせず、痛みが強くならない範囲で行ってください。軽めから始めて、慣れてきたら少しずつ回数を増やします。行い過ぎは痛みを強くするので禁物です。

ご紹介した手指ストレッチでも症状が一向によくならない人や、手指の病気でほかの悩みがある人は、手外科専門医の診察を受けることをお勧めします。

「日本手外科学会」のホームページでは、手外科専門医の名簿が公開されており、お近くの診療施設も調べられます。ぜひご活用ください。

手指ストレッチのやり方

下記2つのセルフケアを、それぞれ朝、昼、夜の1日3セット行う。
痛む手だけでなく、両手とも行う
手を温めてから行い、強い痛みが生じたら中止する
はじめは行う回数を減らしてもよい。慣れてきたら徐々に回数を増やす。

グリップエクサ

画像1: グリップエクサ

軽くこぶしを握り、4秒キープする。親指はこぶしの中に入れない。

画像2: グリップエクサ

人差し指から小指までの4本の指を、指のつけ根から直角に曲げて伸ばす。親指は自然に横へ開く。これを4秒キープする。

画像3: グリップエクサ

人差し指から小指までの4本の指の、第1関節と第2関節を内側に曲げる。親指
は自然に横に開く。これを4秒キープする。

①~③を5回くり返す。これを1セットとする。

ゴムバンドエクサ

画像1: ゴムバンドエクサ

手を軽く握り、ゴムバンド(ヘアバンドなどでもよい)を5本の指のつけ根付近に巻く。親指はこぶしの中に入れない。

画像2: ゴムバンドエクサ

それぞれの指の間を、少しずつ開いていく。開ききったら、6秒キープする。

①、②を10回くり返す。これを1セットとする。

画像: この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。

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