手足の指は、脳の広い領域と対応しています。音楽に合わせて手足の指を動かすOK指体操は、脳の半分以上の領域が刺激され、血流がよくなります。また、OK指体操は単純に指を動かすだけでなく、「考える」という要素も含まれており、このほどよい緊張や刺激が「善玉ストレス」として脳の健康のために働くのです。【解説】竹内東太郎(埼玉成恵会病院健康管理センター長)

解説者のプロフィール

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竹内東太郎(たけうち・とうたろう)

埼玉成恵会病院健康管理センター長。1948年、東京都生まれ。脳神経外科認定医・専門医。72年、日本大学医学部卒業。76年、日本大学大学院医学研究科博士課程外科系脳神経学専攻にて博士号を取得後、日本大学医学部脳神経外科学教室に入局。以後、駿河台日本大学病院脳神経外科医局長、日本大学専任講師、東松山市立市民病院脳神経外科部長、南東北医療センター院長、行田総合病院病院長、小金井太陽病院病院長、川越病院病院長、東鷲宮病院高次脳機能センター長などを歴任し、現職。
▼埼玉成恵会病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

音楽に合わせて手足の指を動かす

「2025年には高齢者の約5人に1人が認知症」という予測を、厚生労働省が発表しました。高齢化が進む日本では、認知症の患者数が増えています。皆さんも、「認知症は嫌だ」「家族に迷惑をかけたくない」と思っている人は多いのではないでしょうか。

私が認知症の改善や予防にお勧めしているのは、「OK指体操」です。

10年前に考案し、来院された患者さんやデイサービスの利用者など、多くのかたに指導してきました。そして、軽度から中等度の認知症の改善をはじめ、多くの実績を残しています。

その成果は、認知症の症状を評価する国際基準のテスト(MMSE)の検証結果でも、顕著に現れています。この検証では、比較的軽度の認知症患者さん48名に1年間OK指体操を毎日行ってもらい、その前後で症状をMMSEで評価しました。

OK指体操を行う前の平均点は16.2点(21点以下は認知症の疑いあり)でした。一方、1年後の平均点は20.4点と、4点以上もアップしたのです。

また、ご家族へのアンケートでは、「元気になった」「笑顔が多くなった」「イライラしなくなった」といった回答が多数寄せられています。

なぜこれほどの効果があるか、ご説明しましょう。

神経細胞は互いに結びつき、巨大なネットワークを構築しています。その一部がダメージを受けると、情報をやりとりできず、脳機能に異常が生じます。

脳の神経細胞が生きていくために必要なブドウ糖と酸素は、血液に乗って運ばれています。そのため、血流が悪くなれば神経細胞に障害が起こり、死んでしまうこともあります。

代表的な認知症である「脳変性認知症」と「脳血管性認知症」は、どちらも脳の血流の悪化が主な原因で、こうしたことが起こっているのです。

神経細胞は再生しないとされています。しかし一部の神経細胞が障害を受けても、残った神経細胞間で新しい連結を作る働きがあります。これを「代償作用」といいます。道路でたとえると、事故や渋滞で通れない場所に、バイパスを作り新たなルートができるようなものです。

OK指体操は音楽に合わせて手足の指を動かす体操です。

手足の指は、脳の広い領域と対応しています。さらに聴覚・記憶をつかさどる側頭葉や、思考・判断に携わる前頭葉など、半分以上の領域がOK指体操で刺激され、血流がよくなります。多くのブドウ糖と酸素が運ばれて神経細胞が活性化し、代償作用が促される、というわけです。

下の二つの写真は、Aさん(74歳・女性)の脳の血流量が、OK指体操を行う前後でどのように変化したか、実際に測定した物です。左の開始前と比べ、右のOK指体操を始めた1年後の写真では、脳の血流量の増加が確認できました。前述のMMSEでも、14点から20点と、大幅に改善しました。

画像: 色の明るい部分は、血流がよい状態を現している。OK指体操を行うようになって1年後には、血流がよい部分が大幅に増加。

色の明るい部分は、血流がよい状態を現している。OK指体操を行うようになって1年後には、血流がよい部分が大幅に増加。

〝考える〟要素が脳への適度な刺激になる

OK指体操は単純に指を動かすだけでなく、「考える」という要素も含まれており、この点も重要です。ほどよい緊張や刺激が「善玉ストレス」となるからです。

私はストレスを、前向きになれて血流が改善して心身に好影響をもたらす「善玉ストレス」と、つらさや苦痛を感じて体全体に悪影響を及ぼす「悪玉ストレス」とに区別して考えています。

認知症の撃退には、善玉ストレスが重要です。悪玉ストレスはよくありませんが、全くストレスがないのもよくありません。

生活に張りがなく、ボーッと過ごしている状態は、認知症が悪化するリスクが高まります。ふだんの生活で善玉ストレスを取り入れることは、脳の健康のためにたいせつなのです。

OK指体操は本来、七つの手足の運動を行いますが、今回は簡易版として二つをご紹介します。簡易版といえども、効果は十分に期待できるでしょう。ご自身の好きな曲を聴きながら行ってください。最低1回行えば、1日にいつ、何回行ってもかまいません。

今は認知症の心配がないかたも、ぜひ予防のためにOK指体操を日課にしてください。

OK指体操のやり方

イスに座って行う。
好きな曲を流して口ずさみながら、リズムに合わせて「手のニギニギ運動」と「足のパッパ運動」を交互にくり返す。曲の1番で手のニギニギ運動、2番で足のパッパ運動など、キリのいいタイミングで2つの運動を切り替える。計3~4分行う。

手のニギニギ運動

画像1: 手のニギニギ運動

両腕を胸の前に伸ばして、手のひらを前方に向けて開く。

画像2: 手のニギニギ運動

親指だけを伸ばしたまま、両手同時にそれ以外の4本の指を握ったり開いたりすることをくり返す。

足のパッパ運動

かかとを地面に着けたまま、両足のつま先を10cm程度浮かせる。

画像1: 足のパッパ運動
画像2: 足のパッパ運動

両足のすべての足指を、グッと曲げたり、広げて伸ばしたりすることをくり返す。広げて伸ばすときは、できるだけ足の指を大きく扇状に開くように意識する。

画像: この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。

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