「見る力」とは、単純に視力検査の結果だけで計れるものではなく、動く物への反応や空間(距離間)を把握する力といった、総合的な視覚能力を指します。私が世界チャンピオンになれた一因に、見る力を高めるトレーニングがあるといっても決して過言ではありません。何歳からでも、見る力を高めることは可能です。【体験談】飯田覚士(第9代WBA世界スーパーフライ級チャンピオン)

解説者のプロフィール

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飯田覚士(いいだ・さとし)

第9代WBA世界スーパーフライ級チャンピオン。日本視覚能力トレーニング協会代表理事。2004年、「飯田覚士ボクシング塾ボックスファイ」を設立し、ビジョントレーニングと体幹トレーニングを融合させたオリジナルプログラムを開発。著書に『人生を変える「見る力」』(マキノ出版)、『おうちで簡単 ビジョントレーニング』(ベースボール・マガジン社)などがある。

トレーニングすれば目もちゃんと動くようになる

わずかな段差につまずいて、転びそうになる。お皿やコップに誤って手をぶつけてしまい、食べ物や飲み物をこぼすことが増えた……。こうした日常の変化を、年齢のせいにしていませんか? これらには、加齢による衰えではなく、違う原因が潜んでいる可能性があります。

それは、「見る力」を使えなくなっていること。見る力とは、単純に視力検査の結果だけで計れるものではなく、動く物への反応や空間(距離間)を把握する力といった、総合的な視覚能力を指します。

私が見る力について初めて知ったのは、 プロボクシングの日本ランキングに入ったころの1993年のことでした。仕事で出会ったライターさんに「目のトレーニングをしてみませんか?」と勧められたのです。

当時、視力はいいほうで目になんの問題も感じていませんでした。しかし「強くなれるならなんでも試したい」と思い、先生を紹介してもらってトレーニングを受けることにしました。

初回のトレーニングでは、「飯田君は上目遣いが苦手だね」と指摘され、ハッとしました。

ボクシングでは、あごを引いて上目遣いで相手を見なければなりません。なぜなら、あごは人体の急所だからです。たとえパンチがかすっただけでも、頭、すなわち脳が揺れてしまい、脳震盪(一過性の意識障害、記憶障害)が起こる恐れがあります。

私はあごを引く姿勢を維持するのが苦手でした。特に試合後半になると、無意識のうちにあごが上がる癖が、以前からあったのです。トレーナーからも、「あごが上がっている」と何度も注意されていました。このころは目の問題だと認識していません。「上目遣いが苦手」=「あごが上がる」ということに気づかされ、衝撃的でした。

先生からは、「目も筋肉で動いているから、トレーニングすればちゃんと動くようになるよ」と説明していただきました。こうした弱点の克服も含め、私はより一層強くなるため、見る力を高めるトレーニングに励みました。

そして半年ほど経つと、驚くべき効果が現れ始めました。
・あごが上がる癖がなくなった
・相手の動きが遅く見える
・パンチの当たる場所がわかる
・相手のフェイントを見破れる
・相手との距離感がよくなった
といった、それまでとは明らかに違う感覚が得られ、私の見える世界はどんどん変わっていったのです。

世界チャンピオンになれた一因に、見る力を高めるトレーニングがあるといっても決して過言ではありません。

お手玉やけん玉などもトレーニングになる

1999年に現役を退いてからは、ジムを経営しつつ、子供やアスリートに見る力を高めるトレーニングを指導しています。

WBA世界ミドル級スーパー王者である、村田諒太選手の指導にも携わりました。以前にはなかった動きが見られるようになり、その効果が現れているようです。

指導した子供たちでは、気が散りやすい子が落ち着くようになったり、スポーツに限らず才能が開花した子がいたり、さまざまな好影響が見られます。

冒頭に挙げた老化現象と思われがちなミスも、見る力を高めることで改善につながると考えられます。

そのためには、親指を立てて「いいね!」のポーズで行う「眼球運動」(下項参照)がお勧めです。これは、眼球を素早く動すためのトレーニングです。お手玉やけん玉といった、昔ながらの遊びも適しています。

両目をきちんと使って焦点を定めることも重要です。「遠近トレーニング」(別記事参照)も行うといいでしょう。遠くを見るときに、親指が二重に見えれば両目が使えています。

[別記事:視力が回復し老眼対策にも有効!目の疲れが取れる遠近トレーニング→

何歳からでも、見る力を高めることは可能です。毎日を元気に気持ちよく過ごすため、「見る力」を高めましょう。

眼球運動のやり方

※1日最低1回行う。何回行ってもよいが、無理はせずに、痛みや異常を感じたら中止する
※いつ行ってもよいが、朝起きたときに行うのが特にお勧め。

両手の親指を立て、まっすぐ前を見たときの視線の高さに両腕を伸ばす。左右40cmほど空ける。
あごを引き、顔は動かさずに両目で右の親指の爪を1秒見る。その後、左の親指の爪を1秒見る。これを10秒くり返す。

画像1: 眼球運動のやり方

両手の親指を立てて、体の左右中央、頭の上と胸もとに両腕を伸ばす。
あごを引き、顔は動かさずに両目で上の親指の爪を1秒見る。その後、下の親指の爪を1秒見る。これを10秒くり返す。

画像2: 眼球運動のやり方

両手の親指を立てて、頭の左上と胸もとの右下に両腕を伸ばす。
あごを引き、顔は動かさずに両目で左上の親指の爪を1秒見る。その後、右下の親指の爪を1秒見る。これを10秒くり返す。
左右の親指の高さを逆にして、同様に行う。

画像3: 眼球運動のやり方

眼球を動かす筋肉を鍛え視覚能力が向上
岐阜県立多治見病院眼科医 宇佐美欽通

総合的な視覚能力のトレーニングはビジョントレーニングと呼ばれ、海外では権威のある専門トレーナーが多くいます。

眼球運動は、眼球を動かす外眼筋が鍛えられ、動体視力の向上や視野が広がる効果が期待できます。視力回復には、こうした視覚能力の向上も大事です。

画像: この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年3月号に掲載されています。

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