解説者のプロフィール

加藤淳(かとう・じゅん)
名寄市立大学栄養学科教授・農学博士。帯広畜産大学大学院修了。豪州クイーンズランド大学、北海道立総合研究機構・中央農業試験場、道南農業試験場などを経て現職。豆類の研究を行うとともに、「アズキ博士」として講演や普及活動に尽力。
煮豆と煮汁の両方をとって有効成分を余さず活用
私は長年、アズキの健康効果を研究してきました。
アズキには、たんぱく質、糖質、食物繊維、ビタミン・ミネラル類が豊富に含まれています。また、老化の元凶となる活性酸素の害を防ぐ抗酸化物質のポリフェノールが多いのも特徴です。
こうしたアズキの有効成分を余さず活用するには、ゆでたアズキの煮豆と煮汁の両方をとるのがお勧めです。
ポリフェノールは水溶性なので、7~8割が煮汁に溶け出します。ビタミンB群やカリウムも水溶性で、一定程度は煮汁に溶け出します。一方、アズキには食物繊維も豊富ですが、そのうち9割は水に溶けない不溶性なので、煮豆に残ります。
基本的なアズキの煮方については、下項をご参照ください。
ポイントは「びっくり水」です。一気に加熱するとアズキの皮が縮んで、豆の内部まで吸水しにくくなり、煮えムラが生じます。びっくり水でお湯の温度をいったん下げることで皮が伸びて、内部までしっかりと煮えて、食感がよくなるのです。
では、アズキのさまざまな健康効果をご紹介しましょう。
アズキのポリフェノールに関して、私たちが行った動物実験の結果からは、血圧と血糖値を下げる作用があることがわかっています。特に、血圧に関しては予防効果だけでなく、すでに高血圧を発症している動物(ラット)でも血圧を下げる効果があることが確認できています。
医師と共同で、人間への作用を調べる臨床試験も行っています。30~50代の男女32人を対象に市販のアズキ茶(175ml)を4週間1日3回、飲んでもらいました。ちなみに、このアズキ茶の有効成分は、下項で紹介している家庭で作る煮汁と大きく変わりません。
4週間後の血液検査の結果、もともと中性脂肪と悪玉(LDL)コレステロールの値が高めだった人の数値が下がったのです。基準値内の人には、ほとんど変化が見られませんでした。
これらの実験や研究の結果から、アズキのポリフェノールはメタボリック症候群の防止に有効と考えています。メタボリック症候群は、内臓脂肪型肥満に加えて、高血圧、高血糖、脂質異常のうちの2つ以上が合併をしている状態を指します。
アズキには、食物繊維も豊富です。ゆでたアズキ100g当たりの食物繊維含有量はなんと12.1g。サツマイモの約2倍、ゴボウの約3倍です。
食物繊維を多くとると、満腹感が増して、食べ過ぎを防げます。また、アズキの食物繊維の9割は水に溶けない不溶性食物繊維で、便のかさを増して便秘を解消し、大腸をきれいにしてくれます。デトックス効果も抜群なのです。
アズキのでんぷんは太りにくい
ところで、アズキ(乾燥)の重量に占める栄養成分は炭水化物が約58%で最も多く、たんぱく質が約20%、脂質は約2%です。アズキの炭水化物には、でんぷんが多く含まれているのが特徴です。
炭水化物は、太りやすい栄養素と思う方も多いでしょう。しかし、アズキに含まれるでんぷんは煮ることによって性質が変わり、その大部分が難消化性のでんぷん(レジスタントスターチ)になります。これはほとんど消化吸収されないので、太りにくいのです。
しかも、レジスタントスターチには特別な働きがあります。不溶性食物繊維のようにお通じをよくしたり、水溶性食物繊維のように腸内の善玉菌のエサになって増殖を促したりして、腸内環境をよくします。また、食後の血糖値の上昇をゆるやかにし、満腹感を持続させる作用もあります。
なお、アズキの栄養成分は、熱や油に強いものが多いので、加熱調理で有効成分が減る心配はありません。アズキの煮汁と煮豆を料理に使うことで、毎食アズキを食べることができて大変有用です。
このように、アズキはとてもダイエットに適した食品です。私もよく知人に「少量でいいので、食事のたびにアズキを食べましょう」とお勧めしますが、実践した人はほぼ1ヵ月以内に減量効果が現れています。
ちなみに、とる量の目安としては、1日あたり煮豆は50~100g、煮汁はコップ1杯(200ml)程度になります。とり過ぎても問題はありませんが、これくらいであればアズキを楽しめてよいと思います。
アズキの煮方

用意するもの(作りやすい分量)
・アズキ……100g
・水……600ml
❶鍋にアズキと水を入れて火にかける。沸騰したら弱火にする。
❷10分ほどして水が茶色になってきたら、水200ml(びっくり水)を入れる。アズキが鍋の中で激しく動きだしたら、水1カップを加える。それを何度かくり返し、40分ほど煮る。
❸アズキを1粒取り出して、指でつまんでみる(ヤケドに注意)。少し力を入れて潰れる硬さになったら、火を止める。ざるでこしてアズキの煮汁と煮豆に分けたら完成。
・冷蔵庫で保存。アズキの煮汁は数日以内、煮豆は5日以内に食べ切ること。
・1日当たり煮豆50~100g、煮汁はコップ1杯(200ml)を目安にとる。

この記事は『安心』2022年2月号に掲載されています。
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