解説者のプロフィール

伊藤智広(いとう・ともひろ)
三重大学大学院生物資源学研究科准教授。井村屋製菓株式会社中央研究所研究員、岐阜県国際バイオ研究所専任研究員、近畿大学農学部准教授を経て現職。2020年第7回日本細胞外小胞学会奨励賞受賞。
Wの効果で骨粗鬆症を防ぐ
アズキを煮るときに、煮汁を捨てるのは、もったいない! アズキの煮汁には、優れた成分がたくさん含まれています。
アズキには、植物に含まれる抗酸化物質「ポリフェノール」が豊富です。これは水に溶ける性質があるため、その大部分は煮汁に溶け出します。
私たちはポリフェノールを有効活用するために、アズキの煮汁に注目して、いくつかの実験を行いました。
まずは、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)への効果を紹介します。
最初に、骨粗鬆症のことを簡単に解説しましょう。私たちの体内では、骨を作る「骨芽細胞(こつがさいぼう)」と、古くなった骨を壊す「破骨細胞(はこつさいぼう)」がバランスを保ちながら、常に骨を作り変えています。
しかし、加齢とともに両者の働きのバランスがくずれてきます。骨芽細胞の働きが低下すると、骨の形成が滞ります。すると、老人性骨粗鬆症になってしまうのです。
また、閉経後に女性ホルモンの分泌低下が原因で、破骨細胞の機能が異常に高まり、骨の破壊に骨の形成が追いつかなくなって起こる骨粗鬆症もあります。こちらは、更年期障害として現れる女性特有の骨粗鬆症です。
私たちの実験で、その両方の骨粗鬆症にアズキが有効だと判明しました。
まず最初に紹介するのは、マウスの骨芽細胞と破骨細胞に及ぼす影響を調べた実験です。骨芽細胞に、アズキのポリフェノール濃度を10~20倍に濃縮した煮汁を加えてみました。
すると、アズキのポリフェノールは、骨芽細胞の働きを活性化させているとわかりました。さらに、ハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)という骨を作る成分も増えていました。
つまり、骨芽細胞が衰えることによって起こる老人性骨粗鬆症に効果が見込めるということです。
次に、骨を壊す破骨細胞に対する影響です。破骨細胞は、前駆細胞(骨髄由来の単球マクロファージ系のもの)が無数に分かれて、融合することで酵素や酸を出して骨を溶かしています。
マウスの実験で、アズキの煮汁を破骨細胞となる前の前駆細胞に加えたところ、明らかに融合する数が減ったのです。
つまり、骨を壊す働きにブレーキがかかるということになります。ですから、閉経後の女性がなりやすい骨粗鬆症の予防効果も期待できます。
コレステロールの吸収を体内で抑制
次に、食品から摂取したコレステロールに、アズキの煮汁がどのように影響するかを調べた実験を紹介します。
コレステロールは、悪者扱いされることも多い成分ですが、肝臓で体内合成されて性ホルモンの材料になるなど、体にとって必要なものです。
コレステロールが問題となるのは、食事から摂取する量が多過ぎる場合です。食事で多量にコレステロールをとると、使いきれなかった分が血液中にたまり、それが動脈硬化を引き起こす原因となります。
実験では、次のエサを1ヵ月間与え続けたラット(実験用のネズミ)の血中コレステロール値を比較しました。高脂肪食を与えた理由は、肝臓でコレステロールを作るのに必要な脂質を十分に与えるためです。
①コレステロール+高脂肪食+アズキの煮汁
②コレステロール+高脂肪食
③高脂肪食+アズキの煮汁
この実験の結果、①の煮汁をとったラットは、②に比べて血中コレステール値がほぼ半分になっていたのです。このことから、エサからとり入れたコレステロールの吸収を、アズキの煮汁が体内で抑制したために、血中コレステロール値が上がらなかったと推察できます。
一方で、③のラットの血中コレステロール値は変わりませんでした。この結果は、生命活動にとって必要なコレステロールの体内合成を、アズキの煮汁が邪魔するおそれはないことを示唆しています。
また、人への効果について、ある皮膚科医の先生から、興味深い報告をいただきました。「アズキの煮汁を患者に勧めたら、尋常性白斑が改善してきた」というのです。
尋常性白斑は、「メラニン」という色素を作る細胞(メラノサイト)がなんらかの原因で減少したり、機能を失ったりして、そこだけ皮膚の色が白く抜ける病気です。
あくまでも「そういう患者がいた」というだけなので、効果を確認するにはさらに臨床試験を行う必要があります。ただ、思い当たることはあります。
実は私たちも動物実験の結果から、アズキの煮汁にメラニンの産生を促す働きがあるのではないかと考えていました。
体毛をバリカンでそったマウスにアズキ煮汁を加えたエサを与えたところ、新しく生えた体毛の色が、アズキの煮汁を与えていないマウスに比べて濃くなりました。これは、メラニンを作る酵素のチロシナーゼが活性化し、メラニンがどんどん作られたことによるものでした。
この結果から、メラノサイトの機能が低下して起こる尋常性白斑や白髪の改善に、アズキの煮汁が役立つ可能性があると考えられます。
「アズキの煮汁ヨーグルト」がお勧め
そんなアズキの煮汁ですが、私がお勧めしているとり方が、煮汁に牛乳とヨーグルトを加えて発酵させた「アズキの煮汁ヨーグルト」です。これならおいしく続けられると思います。

用意するもの(作りやすい分量)
・アズキの煮汁……100ml
・牛乳……700ml
・ヨーグルト……大さじ5

❶材料を全て耐熱瓶に入れる。耐熱瓶が半分以上浸かる鍋に水を張って強火にかける。ぬるめの風呂と同じくらいの温度(約40℃)になったら、火を止めて、耐熱瓶を鍋の中に入れる。ヤケドに注意。

❷ぬれた布巾で、鍋ごと覆って発酵するまで保温する。3時間ほどたったら、発酵してヨーグルト状に固まっているかを確認する。
まだ発酵していなければ、耐熱瓶を取り出し、鍋を再加熱して約40℃に温めて、瓶を入れる。発酵してヨーグルト状の硬さになるまでくり返す。冬場は室温が低いので、こまめに温度を確認しながら、調整を行うと失敗が少ない。

出来上がり!
・冷蔵庫で3日ほど保存可能。通常のヨーグルトと同じように食べる。
・ヨーグルトメーカーで作ってもよい。その場合も、分量は同じ。


この記事は『安心』2022年2月号に掲載されています。
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