解説者のプロフィール

村上茂樹(むらかみ・しげき)
医療法人「湘悠会」むらかみ眼科クリニック院長。医学博士。86年順天堂大学医学部卒業。91年、同大学院医学研究科博士課程修了。92年、眼科で最も歴史と権威のある井上眼科病院(東京都)で診療部長を務める。94年、熊本県の西日本病院眼科部長に就任。96年、熊本県宇土市に現在のクリニックを開院。2007年、順天堂大学客員准教授。12年より同大学客員教授。日本眼科学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本ブラインドマラソン協会医事委員。『緑内障 防ぎ抑える最強療養法』(創流出版)など、著書多数。また、新しい治療法や医療器具の発明特許、実用新案なども多数取得。
▼むらかみ眼科クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
青魚に含まれる脂肪酸は低温でも固まらない
DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった不飽和脂肪酸は、サバやイワシ、サンマ、アジ、カツオ、マグロなどの青魚(背が青い魚の総称)に豊富に含まれています。
これらの脂肪酸は、人間の体内では作ることができない必須脂肪酸です。すなわち、人体にとって、なくてはならない栄養素の一つになっているのです。
体の中でも、これらは特に眼にも多く含まれています。眼のフィルムに当たる網膜の脂肪組織のうち、約80%以上もがDHAによって構成されています。
DHAはこの他にも、脳神経や視神経などといった、高度かつ重要な神経組織に多く存在しています。特に、視神経の伝達において、この脂肪酸は非常に大切です。
しかし、現代では世代を問わず、こうした魚を食べる機会が著しく減少しています。そのため、DHAやEPAの摂取不足が懸念されているのです。
そんな不飽和脂肪酸の重要性について語る前に、脂肪酸の種類について説明しましょう。
脂肪酸とは、脂質を作っている成分のことで、大きく分けて、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の二つがあります。
飽和脂肪酸を多く含むのは、牛や豚などの肉類の脂質で、これらは常温で固まるのが特徴です。そのため、四足の動物の肉を食べ過ぎると、飽和脂肪酸が体内の血管壁に沈着してしまい、血管の炎症や血栓(血液の塊)の発生につながります。
一方、不飽和脂肪酸は、青魚の脂に多く含まれることもあり水中など低温の状況下でもサラサラして固まりません。また、液体を保つ特性により、血流をスムーズにする働きも持っています。
これにより、血中の悪玉コレステロールや中性脂肪を減少させ、前述した血管のトラブルを防ぐのにも役立ちます。
特に、小さな感覚器である眼は血管も極めて細く、微細な血管を通して栄養物質を供給しています。そのため、眼の健康維持には、眼内の血流をサラサラに保つことが重要なのです。
毎日90g分の魚を食べると◎
不飽和脂肪酸であるDHAとEPAを日常的に摂取すれば、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性など、網膜の血管の動脈硬化や血栓などの重篤な眼病による視覚障害を予防できます。
さらに、わが国でも中高年に多い正常眼圧緑内障の進行抑制にも、その効能が期待されています。
一般的に、緑内障は眼圧が高くなり発症するといわれていますが、実は、日本人の場合には眼圧が正常範囲内でも発症する「正常眼圧緑内障」が緑内障全体の7割以上を占めています。
正常眼圧緑内障では、視神経の血流障害が問題になっていると同時に、視神経自体が弱いことも関係していると考えられています。
さらに、最近の研究では、視神経の周囲にある細い血管の血流を改善することが、正常眼圧緑内障に有効であることがわかってきました。
そのため、こうした眼の病気において、DHA・EPAの摂取が非常に大切になるわけです。実際に、DHAとEPAを継続して摂取した研究でも、視力やドライアイが改善したとの報告がなされています。
さて、DHAやEPAのとり方ですが、前述したように、これらは青魚に多く含まれています。そのため、サバやイワシなどを積極的に食べることをお勧めします。
厚労省の基準では、DHAとEPAを合わせた1日の目標摂取量は1gとされています。これは、約90g分の魚に相当します。小さいサンマなら1尾、イワシなら1~2尾分を食べればよいでしょう。もちろん、脂がのっている魚の方がDHAやEPAの含有量が多くなります。
手軽な方法として推奨したいのが、サバやイワシの缶詰を使うこと。缶詰の汁には魚のDHAやEPAが溶け出しており、水煮缶であれば、塩分を気にせず汁ごととることができます。
なお、魚が苦手な人は、DHAやEPAが手軽にとれるサプリメントを使うという手もあります。しかし、一度に必要以上をとり過ぎると、おなかがゆるくなったり、月経血の量が増えたりすることもあるので注意してください。
また、眼にはこれらの脂肪酸だけでなく、ビタミンB群・C・Eや、ルテイン・アントシアニン・アスタキサンチン・リコピン・レスベラトロール・ヘスペリジンなどの抗酸化物質(酸化を防止する物質)、亜鉛やセレンといったミネラルも必要です。これらをバランスよくとり入れた上で、青魚を積極的に食べるようにしてください。

この記事は『安心』2022年2月号に掲載されています。
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