解説者のプロフィール

楊進(よう・すすむ)
1947年、京都府生まれ。北里大学卒業、同大学大学院修士課程修了。薬学修士。楊名時太極拳始祖・楊名時師家の長男で後継者。幼少より太極拳を楊名時に、形意拳を王樹金に学んだ後、李天驥老師に拝師し、太極拳、形意拳、八卦掌、武当剣などを修得。NPO法人日本健康太極拳協会理事長、楊名時太極拳師範、内家拳研究会主幹、太極学院学院長などを歴任。著書に『DVDでよくわかる! 太極拳 推手詳解』(橘逸郎共著、ベースボールマガジン社)などがある。
▼日本健康太極拳協会(公式サイト)
適度な全身運動で血流や代謝をアップ
「スワイショウ」とは、中国で古くから伝わってきた気功法の一種で、腕を振る体操のことです。中国語では「甩手」と書き、「ポーンと放り投げる」という意味を持つ、〝甩〟という字を用いています。
スワイショウの特徴は、この漢字の通り、手(腕)を放り投げるようにして振ること。誰でも簡単にできる上、健康効果も高いので、多くの人にお勧めしています。
私たちは、このスワイショウを、太極拳の準備運動として行っています。手軽で、全身運動にもなるので、ウォーミングアップに最適なのです。
実は、スワイショウの歴史は太極拳よりはるかに古く、紀元前から行われてきました。その歴史が示す通り、スワイショウを行うだけで、次のような多彩な健康効果が見込めます。
●ダイエット
実は、腕は意外と重く、60kgの体重の人でも両腕だけで8kgあります。その腕を勢いよく振りながら姿勢を維持するので、下肢(足)や体幹(胴体)の筋肉を使います。
そのため、知らないうちに全身運動になり、代謝が高まることで、効果的にダイエットができるのです。1日1回のスワイショウで5~10kg、中には20kgのダイエットに成功した人もいます。
●高血圧
適度な運動には、血圧を下げる効果があります。とはいえ、毎日ほどよい運動を続けるのは難しいもの。しかし、スワイショウなら、空き時間に手軽にできるので続けやすく、高血圧の改善にも役立ちます。
●ひざ痛・腰痛
運動不足や姿勢のゆがみは、ひざ痛や腰痛の大きな原因になります。スワイショウは、体に過度な負担をかけない運動であり、姿勢を整える効果もあるので、こういった症状の改善に効果的です。
ただし、足腰に痛みがある人は、「前後のスワイショウ」(やり方は下項)を、痛みが増さない範囲で始めてください。慣れてきたら、徐々に時間や強度を増やしましょう。
●冷え症
スワイショウをすると、全身の血行がよくなり、冷え症も改善・解消できます。肩や首の筋肉もほぐれるので、肩こりや首こりの改善にも役立ちます。
●便秘
腕を振ることで、自然に腹筋が使われるため、腹部の内臓が刺激されます。特に「左右のスワイショウ」(やり方は下項)は、体のひねりによる内臓のマッサージ効果もあるので、便秘解消につながります。
その他にも、心身の疲労回復や、病後・術後の体力回復、脳の活性化、高齢者の筋力維持、食欲不振の改善など、幅広い効果が見込めます。
疲れ目の改善におすすめ
スワイショウは、目の健康維持にも大いに役立ちます。実際の例を、一つお話ししましょう。
太極拳師範である小島信先生は、以前は近視用のメガネをかけていました。しかし、太極拳を始めたところ、ある日からメガネがいらなくなったそうです。小島先生は現在70代ですが、今もメガネをかけておらず、元気に太極拳を続けています。
ただ、私自身に関しては、強度近視に近い状態のためか、残念ながら現在もメガネをかけています。おそらく、先天性の近視ではあまり効果が期待できないのでしょう。
それでも、74歳になる今も白内障になっておらず、老眼もあまり進んでいないのは、スワイショウを続けているからかもしれません。
スワイショウには、いくつか種類がありますが、今回ご紹介するのは「前後のスワイショウ」と「左右のスワイショウ」です。どちらも簡単に行えますが、前後のスワイショウの方がより手軽に行えるので、初心者向けでしょう。
体力に自信がない人や、足腰に痛みがある人などは、まずは前後のスワイショウを、無理なくできる範囲から始めてみてください。続けていると体力がついてくるので、徐々に左右のスワイショウを組み合わせていくのがお勧めです。
もちろん、無理なくできる人は、左右のスワイショウを行っても構いません。前後と左右をセットで行うと、使われる筋肉が違うので、より効果的です。
スワイショウは、1日1~2回、各2~3分ほどを目安に行ってください。回数にすると、前後は40~50往復、左右は25~30往復程度です。
注意点としては、一度にやり過ぎないこと。簡単なので、ついやり過ぎてしまう人がいますが、めまいなどの体調不良が起こったり、ランナーズハイ(陶酔状態)のようになったりすることがあるようです。
気分が悪いと感じたら、まずはいったん中止して休み、気分がよくなってから、適度な回数を行うようにしてください。
スワイショウは、ぼーっと遠くを見ながら行うので、疲れ目や眼精疲労の改善にも効果的です。目を酷使することが増えた今こそ、ぜひ行ってください。
「スワイショウ」基本のやり方
●ヘルニアや脊柱管狭窄症など、整形外科的治療を要する人は行わない。
●病気で治療中の人は、主治医の許可を得て行う。
●呼吸は自然に行う。
●腕の力を抜き、ゆったりとしたスピードで腕を振る。
●無理に腕を振り上げたり、体をひねったりしない。自分のできる、気持ちいい範囲内で行う。
●目はつぶらず、ぼーっと遠くを見るようにして行う。
●腕がぶつかる物がないところで行う。
前後のスワイショウ
腕を前後に振るだけです。とても簡単にできるので、どんな人にもお勧めできる方法です。まずはこれから始めてみましょう。
❶足は肩幅ぐらいに開き、ひざや股関節の力をゆるめて立つ。
❷腕や肩の力を抜いたまま、両腕を前後に振る。1回につき2~3分程度行う。

肩の高さくらいまで腕を振り上げる。振り上げたとき、手のひらが上に向くようにすると、より効果的。

後ろに振るときは、無理に振り上げるのではなく、反動で放り投げるようにする。
※慣れてきたら、ひざを少し曲げて行うと、筋力強化によい。
※前後のスワイショウは、左右のスワイショウに比べてランナーズハイ(陶酔状態)のようになりやすい。やり過ぎには十分注意する。
左右のスワイショウ

・でんでん太鼓を回すイメージで、体をひねる。腕の力は抜いて、自然に体に巻き付くように。
・体をひねることで体幹の筋肉がまんべんなく使われるので、内臓のマッサージ効果が期待できる。
・重心の移動のさせ方によって、やり方が2種類(A・B)に分かれる。どちらのやり方でもいいので、やりやすい方を行う。
ポイント

❶足は肩幅ぐらいに開き、ひざや股関節の力をゆるめて立つ。
❷腕や肩の力を抜いたまま、「視線で体を引っ張る」つもりで、左右に体をひねる。1回につき2~3分程度行う。
A 前歩きの腕振り
体をひねった方向の足に重心を移動させます。

B 後ろ歩きの腕振り
※体をひねった方向と逆の足に重心を移動させます。


この記事は『安心』2022年2月号に掲載されています。
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