解説者のプロフィール

平松類(ひらまつ・るい)
二本松眼科病院副院長。昭和大学医学部卒業。昭和大学病院、彩の国東大宮メディカルセンターなどでの勤務を経て、2018年より現職。緑内障手術トラベクトーム指導医。テレビ、雑誌、新聞などでの医者任せにしないための医療解説に定評がある。『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ)など、著書多数。Youtube「眼科医平松類チャンネル」にて、目の健康情報を無料で配信。
▼二本松眼科病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
7割の人に効果が期待できる
加齢とともに、老眼や近視が進行する例は少なくありません。
特に近年は、モバイル機器の普及によって目への負担が増し、「スマホ老眼」や「スマホ近視」なども増えています。そんな人たちの中には「一生、物が見えづらいままだ」などと、諦めている人も多いのではないでしょうか。
しかし実は、老眼・近視の見えづらさは、目のトレーニングによって、ある程度は改善できるのです。
効果が科学的に実証されている目のトレーニングもあります。例えば、「ガボール・アイ」は、「実践した人の約7割が改善」「老眼・近視とも平均約0.2の視力向上」などの臨床データが報告されています。
ガボール・アイに関しては、私の経験では、近視の場合、0.1以下の極端に視力が低い方では、効果は限定的。老眼の場合は、多くの方で視力回復効果を確認しています。
ガボール・アイでは「ガボールパッチ」という、輪郭のぼやけた図形を眺めます。この図形は、脳の視覚野に作用するといわれています。ぼやけて見づらい図形を、できるだけ鮮明に見ようと試みることで、脳の「目に映った物を処理する機能」を高めるのです。
したがって、ガボール・アイは目の「見る」機能そのものを高めるわけではありません。老眼・近視が「治る」のではなく、老眼・近視でも「見えやすく」するのです。
ただ、ガボール・アイは、ガボールパッチが手元にないと行えません。そこで今回は、ガボールパッチの代わりに身近な「お札(紙幣)」を使ったトレーニングをご紹介します。
お札の「透かし」も、ガボールパッチと同じく、輪郭がぼやけています。この見づらさを利用することで、ガボール・アイと同等の効果が期待できるトレーニングを行えるのです。
まず、明るい場所で1000円札を両手に持ち、目の高さ辺りにかざして、中央にある透かしを見つめます。目とお札の距離は20~30cm程度。メガネやコンタクトレンズは着用したままで構いません。
目線をなるべく保ったままで、そのまま両手を少しずつ下げていくと、腕が水平よりもやや下に来た辺りで、「透かしが見えるかどうか」のギリギリの状態になります。
その状態で10秒ほど、透かしをしっかりと見るように意識してください。両手を下げるときは、顔は多少動いてもいいですが、目とお札の距離は保ちましょう。
透かしを10秒見つめたら、両手を元の位置へ戻して、自分の見た透かしの形が正しかったかどうかを確認します。これを10回くり返してください。
この「1000円札トレーニング」は1日に1度行います。脳と目を長時間使った後の、夜に行うのがお勧めです。日中に行ったり、回数を増やしたりしても構いません。体調不良の日は休み、無理のない範囲で続けてください。
1000円札トレーニングも、ガボール・アイと同様に、年齢を問わず、約7割の人で、老眼・近視の見えづらさの改善が期待できます。
1000円札トレーニングのやり方
※1日に1度行う。メガネやコンタクトレンズを着用したまま行ってもよい。
用意するもの
・1000円札1枚(5000円札でも10000円札でもOK)
❶明るい場所で1000円札を両手に持ち、目の高さ辺りにかざし、中央の透かしを見つめる。


❷目線はなるべく保ったまま、両手だけを少しずつ下げていき、「透かしがギリギリ見えるかどうか」の辺りで止める。その状態で10秒ほど、透かしをしっかり見るよう意識する。

❸両手を元の位置に戻し、透かしを確認する。以上を10回くり返す。
スマホの使い過ぎによる視力低下の改善にも
もう1つ、手軽にできる目のトレーニングをご紹介します。主に近視の改善効果が期待できる「遠近トレーニング」です。
私たちの目は、目の中にある「毛様体筋」という筋肉が、目のレンズに当たる水晶体の厚みを変えることで、ピントを合わせています。
近くを見るときは、毛様体筋がギュッと収縮して水晶体を厚くし、遠くを見るときは、毛様体筋がゆるんで水晶体を薄くするのです。
近視の発生メカニズムは、まだ完全には解明されていませんが、普段、手元や近くばかりを見る人が、近視になりがちなことがわかっています。
現代人の生活は、手元はよく見るのに、遠くを見る機会は減っています。毛様体筋が常に収縮・緊張しており、ゆるむ機会が少ないという、近視になりやすい環境です。
遠近トレーニングは、毛様体筋の収縮・弛緩をくり返すことで、毛様体筋の柔軟性を高めて、目のピントを合わせる機能向上を目指します。
遠近トレーニングは、主に近視の進行を遅らせる効果が期待できます。特に、毛様体筋が過剰に働いて近視のようになる「仮性近視」や、スマホの使い過ぎで進行する「スマホ老眼」に効果的です。
やり方は、顔から30cmほど離れた近くの物と、2~6mほど離れた遠くの物を交互に10秒ずつ、10回見るだけです。
見る対象は、雑誌や置物など何でも構いません。ただし、ハッキリと形を認識できるものにしてください。
「手元が見えづらい」という方は、見る対象を顔から40~50cmほど離しても構いません。「遠くの物がぼやけて見づらい」という方は、2m以上先の、やや近くの物を見てください。メガネやコンタクトレンズは着用したままで構いません。
遠近トレーニングも、1日に1度行うだけです。体調の悪い日は無理をせず、できる範囲で続けてください。1000円札トレーニングとあわせて行うのもよいでしょう。
遠近トレーニングの効果の現れ方には、個人差があります。視力が悪過ぎる方は、効果が出にくいようです。また、普段パソコン作業などで長時間手元を見続けている人ほど、効果が現れます。
今回ご紹介したトレーニングは、まずはどちらも2週間は続けてみてください。日常生活の中での見えづらさが、ある程度改善されるはずです。
遠近トレーニングのやり方
※1日に1度行う。メガネやコンタクトレンズを着用したまま行ってもよい。
❶顔から30cmほど離れた近くの物を10秒見る。
※見る物は何でもよいが、ハッキリと形を認識できるものにする。

❷2~6mほど離れた遠くの物を10秒見る。以上を10回くり返す。


この記事は『安心』2022年2月号に掲載されています。
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