解説者のプロフィール

山口康三(やまぐち・こうぞう)
回生眼科院長。1981年自治医科大学医学部卒業。横浜市立市民病院、神奈川県立厚木病院などを経て、91年より現職。食事や運動、睡眠などで綜合的に対処する「目の綜合医療」を考案。著書『緑内障・白内障は朝食抜きでよくなる』(マキノ出版)が好評発売中。
▼回生眼科(公式サイト)
「山口式・目の改善プログラム」は4項目
皆さんは「目の不調は、目だけに原因がある」と考えていませんか?
実は、目の病気、とりわけ現代の中高年に増えている緑内障、白内障、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症などは、「生活習慣病」としての側面を色濃く持っています。
ですから、悪化を防ぎ、回復を促すためには、生活習慣の改善が欠かせません。
目と全身の状態が深い関係を持っていることは、最近の研究でも明らかになってきています。しかし、一般的な眼科治療には、まだまだそうした視点が欠けています。
ですから、本当の意味で目の病気を治療するには、患者さん自身が「自分の病気は、目の生活習慣病」という認識を持って、改善に取り組んでいただくことが大切になってきます。
このことから、私は患者さんには、必ず生活習慣の改善についての指導をしています。
今回は、その中でも特に重要で効果の高い4項目を、「山口式・目の改善プログラム」としてご紹介しましょう。
①少食にする
3段階で食事の量を減らし質を高める
ここで言う「少食」とは、食事の量を減らすだけではなく、質を高めることも意味します。
緑内障や加齢黄斑変性など、目の病気になった人の食生活を聞くと、食べ過ぎ、甘い物好き、油っこい物のとり過ぎなどが目立ちます。これらは、血流を悪くする大きな要因になります。食事の量を減らして質をよくしていけば、全身の血流、ひいては目の血流が促せます。
また、少食にすると、体の修復に必要な各種のホルモンの分泌が高まります。同時に、体の変質したたんぱく質などを分解する「オートファジー(自食)」というしくみも活性化することがわかっています。これらは全て、目の病気の進行抑制や改善につながります。
私は、少食を以下の3段階で実践することを勧めています。
Step 1. 間食・夜食をやめる
間食や夜食をやめるだけでも、目によい影響が出やすくなりますが、特に気をつけたいのが、甘い物の摂取です。甘い物は毛細血管をつぶして血行を悪くするので、目の状態も悪くなります。
Step 2. 腹八分目にする
過食を続けると、血液をドロドロにして血流を悪くする活性酸素が多く発生します。腹八分目を心がけると、それを防いで血流を促すのに役立ちます。
また、目は脳の出先機関で、脳の一部といえます。「腸脳連関」という言葉がある通り、腸と脳は密接に関係しています。腹八分目の食事は、消化器への負担を減らし、腸、ひいては脳を元気にするので、目にもよい影響を与えます。
よくかんでゆっくり食べると腹八分目でも満足感を得やすくなります。主食を玄米や発芽玄米、胚芽米にすれば、なおよいでしょう。
Step 3. 朝食を抜く
腹八分目に慣れたら、それを続けつつ、朝食を抜いてみましょう。これで、さらに食事全体の約3分の1が減らせます。しかも、長時間腸を休ませることができるので、さらに腸が健康になり、脳と目によい影響が与えられます。
野菜ジュースや豆乳、すまし汁などの飲み物を、朝食代わりに飲んでもよいでしょう。

②ミネラルをとる
目的は血流の改善
目は、脳と並んで多くの血液を必要とする器官です。目に血液を届ける血管は細いので、流れが滞りやすく、全身の血流が悪くなれば真っ先に影響を受けます。
目の病気の原因は、ほとんどの場合、全身の血流不良が大きく影響しています。そして、現代人の血流不良の背景にあるのが、ミネラル不足です。
血流を促すのに、ミネラルは欠かせません。しかし、加工食品やコンビニ食、外食などが多い食生活では、ミネラルが大幅に不足します。
本来、ミネラルは野菜に多いのですが、近年では野菜の栄養素そのものが低下しているのに加え、流通や保管によってもミネラルが失われています。
ミネラルを豊富に含む「天然だし」を活用
そんな現代の食生活の手軽なミネラル補給として、当院では「視力回復だしスープ」と名づけたスープをお勧めしています。簡単に作れるスープですが、目の病気の進行抑制や改善に、大きな効果を発揮します。
視力回復だしスープの主な材料は、煮干し・アゴ(トビウオ)・コンブの粉末です。全て古来だしをとるのに使われてきた食材で、いずれもミネラルを豊富に含んでいます。
ミネラルの中でも、特に亜鉛は目に必要で、かつ現代人に不足しやすいミネラルですが、視力回復だしスープには、亜鉛も豊富に含まれています。
そのため、視力回復だしスープを習慣づけてとると、ミネラルの補給によって目の血行が促され、目に必要な亜鉛もたっぷりとれます。また、物を見ることは目と脳の共同作業ですが、視力回復だしスープは、脳の血流もよくします。ですから、二重三重の意味で、目や視力に効果をもたらすのです。
このスープは、薄めてそのまま飲んでもいいですし、だしとして料理に活用していただいても結構です。
視力回復だしスープの作り方は、下記の通りです。別記事では、視力回復だしスープを使った料理のレシピもご紹介していますので、そちらもぜひお試しください。
視力回復だしスープの作り方

材料(出来上がり約650ml)
煮干し(イワシ)粉末……大さじ6
アゴ(トビウオ)粉末……大さじ4
コンブ粉末……小さじ1
水……1L
酢……大さじ1
塩……大さじ1
※粉末が入手しにくければ、食材そのものを煮出して作ってもよい。また、材料がそろわなければ、上記のうち1~2個の食材で作ったり、だしに使う他の食材(シイタケ粉など)を使ったりしてもよい。
❶鍋に煮干し粉末、アゴ粉末、コンブ粉末、水を入れ、ふたをせずにごく弱火で、沸騰させないようにして30分煮出す。
❷ざるで①をこす。ざるに残っただしがらもスプーンなどで押して絞る。
❸酢と塩を加えて混ぜ、保存容器に移し、冷蔵庫で保存する。1週間で使い切る。
※塩分が気になる場合、塩は入れなくてもよい。酢の量は好みで増減してよい。
基本のとり方
1日にだし原液100ml程度を目安にとる。飲む場合は、水もしくはお湯で3~4倍に薄めて飲む。
その他の活用法
納豆や豆腐、おひたしにそのままかけてもよいし、料理に使用してもよい。
③よく歩く
1日に合計で1万3000歩ゆっくり歩く
目の病気改善のために、ぜひ実行していただきたいのが「歩くこと」です。お勧めしている歩数の目安は、1日に1万3000歩です。室内の歩数や買い物、通勤時などとの合計でよく、小分けにしても構いません。
歩くことで、全身と目の血液循環がよくなります。また、前述したオートファジーのしくみも、少食と歩くことを組み合わせると、より活性化します。
これらの効用を得るには、しゃかりきになって義務感で歩くのは逆効果で、ゆったりした散歩ペースで、楽しみながら歩くことが大切です。歩くことをストレス解消にも役立てると、さらによいでしょう。
甘い物でストレスを解消していた人も、この機会に、歩くことをストレス解消法に代えてみてください。

④目のマッサージをする
目の周囲をほぐして血流を改善
自分で行う目の病気対策のベースは、食事内容と運動をはじめとする生活改善ですが、そこにプラスするとよいのが「目の5秒マッサージ」です。
これは、文字通り5秒程度でできる簡単なマッサージで、目の周囲をほぐして血流をよくするのに役立ちます。手軽にできて気持ちよく、目がスッキリするので、ぜひとり入れてみてください。
眼球そのものには触れずに、目の周囲にある骨のふちを押します。心地よく感じる程度の力で押すのがコツです。眼球自体は、絶対に押さないように気をつけましょう。
左右の手で、左右の目に同時に行います。1日1回でも結構ですが、2回行うとより効果的です。特に、寝る前に行うのがお勧めです。
目の5秒マッサージのやり方

❶目の上にある骨(眼球が収まっている骨のくぼみ)のふちに親指の腹を当てる。軽いタッチで、5秒押してからパッと離す。目頭から目尻まで、少しずつ移動しながらくり返し行う。
※眼球は絶対に押さないこと!

❷目の下側にある骨のふちに、人さし指の腹を当てて、5秒押してからパッと離す。目頭から目尻まで、少しずつ移動しながらくり返し行う。
※眼球は絶対に押さないこと!
治療と並行してセルフケアに取り組むことが大事
今回ご紹介した「山口式・目の改善プログラム」を通常の治療に加えることで、目の病気の進行抑制や改善に成功している患者さんが、当院には多数いらっしゃいます。その例をいくつかご紹介しましょう。
①緑内障(63歳・男性)
この方は、ある程度視野の欠損が進んだ状態で当院に来られました。緑内障の診断では、視野の欠けている度合いを数値化したMD値が重視されます。数字が大きいほど視野欠損が進んでいることを表すのですが、この患者さんの初診時のMDは8.1でした。
そのときの右目の視野検査の結果を解析したのが、下の図です。この図は、色が薄いほど正常かそれに近く、濃くなるほど視野の欠損が進んでいることを意味します。

そこで、少食や歩くこと、目の5秒マッサージなど、生活改善に取り組んでいただいたところ、1ヵ月半程度で、検査結果が改善しました。色の濃い部分が減っていることが、おわかりいただけるでしょう。

自覚症状でも、視野が改善しました。MD値は6.1に下降。0から10未満が緑内障の初期なので、以前よりも視野が回復したことになります。
②緑内障(50代・男性)
緑内障によって眼圧が39mmHg(基準値は10〜21mmHg)と高くなり、4種類の薬を使っても下がらないとのことでした。視力は0.1でした。
少食や歩くなどの生活改善を行ったところ、わずか半年で眼圧が10mmHgまで下がり、視力も0.2に上がりました。
③黄斑変性(74歳・女性)
69歳のときに左目の黄斑変性と診断され、毎月、眼球内注射を受けていました。注射なしで進行阻止や改善ができないかとのことで、来院されました。
生活改善を行ったところ、初診時にあった黄斑部の出血と変性は約2ヵ月できれいに消え、0.2だった視力は、0.8に回復しました。
④糖尿病網膜症(65歳・男性)
血糖値のコントロールがうまくいかず、両目に糖尿病網膜症が発症し、眼底出血を起こして視力が右0.4、左0.1になっていました。また、当時のヘモグロビンA1c(過去1~2ヵ月の血糖状態がわかる数値で、基準値は4.6~6.2%)は12.6%でした。
生活改善を指導して約1年後には、ヘモグロビンA1cが5.5%になり、眼底がきれいになって、視力は右1.2、左0.7に回復しました。
なお、生活改善の効果の現れ方は個人差が大きく、残念ながら、誰もが同じように維持・回復できるとは言えません。しかしこの方々の例は、自助努力がいかに大切で有効かを示していることは確かでしょう。
「点眼薬さえさしていればよい」「悪化したら手術すればよい」という考え方ではなく、「目の病気は自分で治す」という積極性を持って、生活改善に取り組んでいただきたいと思います。

この記事は『安心』2022年2月号に掲載されています。
www.makino-g.jp