解説者のプロフィール

大野京子(おおの・きょうこ)
東京医科歯科大学眼科学教室教授。日本眼科学会認定眼科専門医。1987年、横浜市立大学医学部卒業。2014年より現職。2016年に日本近視学会を立ち上げ、近視疾患診療のガイドラインの作成、矯正では対処できず失明に至る可能性がある「病的近視」の研究や啓発活動に取り組む。専門は近視、眼底疾患、黄斑疾患。
子どもの近視や病気の重症化が増えている
まだまだ予断を許さない新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)ですが、眼科領域にも、コロナ禍の影響が現れています。
世界的にハッキリと影響を受けているのは、子どもの近視の増加です。これは、外出自粛により外遊びが減り、室内で近距離を見る時間が増えたことの影響と見られています。
大人の近視や、その他の目の病気についての明確な統計は、今のところありません。しかし今後、リモートワークの増加などによる目への影響が報告されることも予想されます。
眼科ならではの問題としてはコロナ禍によって、目の病気を持つ患者さんの受診間隔が空いてしまうことが挙げられます。
特に、網膜剥離のような緊急性の高い病気を発症した場合や、加齢黄斑変性の進行を抑制する眼内注射を継続している場合は、受診の遅れが原因で重症化するリスクが高まります。
また、新型コロナの流行以降、目の手術の際に、医療者だけでなく患者さんもマスクをするようになりました。そのせいで、マスクの上部から出た呼気が手術中の目に触れて、呼気中の雑菌による細菌感染を起こしやすくなる問題も発生しています。
これについて、現在は手術中に、患者さんのマスク上部を紙テープで閉じることでリスクが劇的に減少しました。
ちなみに、目は粘膜なので、目からコロナなどのウイルスに感染するケースもあるようです。目からの感染症対策としては、人と非常に密接するところでは一時的に目を閉じる、ゴーグルやフェイスシールドを使うなどが有効です。
目の重大な病気は、コロナ禍に限らず、早期発見・早期治療が大切です。中でも特に気をつけたい病気について、早めに受診するための注意点を挙げましょう。
白内障
白内障は、目のレンズに相当する水晶体が濁る病気です。病気のタイプにもよりますが、初期症状としてよくいわれるのは「昼間、明るいところで光が反射して見えづらい」「光がまぶしく感じる」という症状です。
また、夜に月や街灯が2〜3個に見える「複視」という症状も、初期に多く見られます。これを放置していると、病気が進み「メガネをかけても視力が回復しない」「視界が白くかすむ」などの症状が出てきます。
ひとつでも当てはまったらすぐ眼科へ!
□昼間、明るいところで光が反射して見えづらい。
□日光や車のライトなどの光がまぶしく感じる。
□夜になると、月や街灯が2〜3個に見える。
□ピントが合いづらい。
□目がかすむ。

加齢黄斑変性
加齢黄斑変性は、加齢などが原因で眼球内の中心部(黄斑部)に異常が生じ、物が見えづらくなる病気です。
初期症状としては、字や風景などがゆがむ、一部が欠けて見えるなどの症状が現れます。しかし、厄介なことに、両目で見ると症状が出なかったり、目の異常をもう片方の目で補うしくみが働いたりすることが原因で、症状に気づきにくいことが多くあります。
視野の真ん中付近がゆがんで見えるのも、加齢黄斑変性の特徴なので、本などの四角い物を見ると気づきやすいでしょう。
ひとつでも当てはまったらすぐ眼科へ!
□字や風景などがゆがんで見える。
□文字の一部や景色が欠けて見える。
□文字が大きく見えたり、小さく見えたりする。
□両目で物を見ているときは、物がゆがんで見えたり、欠けて見えたりすることはない。
□四角い物を見たときなどに、真ん中付近がゆがんで見える。
□片側の目を隠し、目から約30cm離して下のマス目を見たとき、中心の線がゆがんで見えたり薄暗く見えたりする。


このように見えたらすぐ眼科へ!
緑内障
緑内障の主な症状は、「視野の欠け」です。これが進行すると、横から来た人に気づきにくい、障害物を見落として転びやすくなるなどの症状が現れます。中には、歩行中に車にひかれそうになったり、逆に運転中に人をひきそうになったりという、危険な事例もあります。
ただし、緑内障の場合、こういった症状が出たときは、かなり進行しています。基本的に、自覚症状が出てからの治療だと手遅れになる可能性が高いのです。そのため、早期発見をするには、眼科の定期検査を受ける必要があります。
40歳を過ぎたら、年1回程度の眼科検診を受けるのが最も安心です。特に、近親者に緑内障の患者さんがいる人、強度近視や遠視の人などは、緑内障の発症リスクが高いと考えられます。該当する人は、ぜひ検診を受けるようにしてください。
年1回程度の眼科検診を受けましょう!
□強度近視、または遠視である。
□近親者に緑内障を発症した人や、強度近視、遠視の人がいる。
以下の症状がある場合は、すぐ眼科へ!
□視界にぼやける部分がある。
□最近、視野が狭くなったと感じる。
□歩いているとき、対向者や障害物に気づきにくくなることが増えた。
□運転中に歩行者を見失うことが増えた。

無意識のうちに症状が進行し、視野が欠けていることも
網膜剥離
網膜剥離は文字通り、目の中でカメラのフィルムの役割をする網膜がはがれる病気です。
これについては、飛蚊症の発症や悪化で気づく患者さんが多くいます。飛蚊症とは、何もないのに虫や糸くずのようなものが見える症状のことです。
飛蚊症自体は、目に問題がなくても起こるものもありますが、網膜剥離が原因の場合、突然症状が出たり、急激に悪化したりするのが特徴です。虫の数も非常に多く、すすをまいたように見えることもあります。
また、飛蚊症の他、視野の周辺にカーテンを引いたような黒い影が見えることもあります。こういった症状が出たら、すぐに眼科に行きましょう。
なお、病的な飛蚊症は、網膜剥離に限らず、何らかの病気で硝子体(眼球内にあるゲル状の組織)への出血などが起こったときに見られます。しかし、その多くは、すでに重い目の病気で受診している中で起こります。それまで目の病気がない人に突然起こったり、悪化したりしたときは、やはり網膜剥離を疑う必要があります。
以下の症状がある場合は、すぐ眼科へ!
□ある日突然、黒い虫のような大量の点が見えるようになった。
□今までは気にならなかったのに、突然視界を覆うような黒い点が見える。
□すすをまかれたように、視界が黒いもので覆われている。
□急に大きな影が見えるようになった。
□視野の周辺に、カーテンを引いたような黒い影が見える。
※黒い点が見える場合でも、気にならない程度の量であったり、昔から見えていたりする場合は、重大な病気が隠れている可能性は少ない。「ある日突然、大量の点が見えるようになった」など、明らかに急激な異常を感じた場合はすぐに眼科を受診する。

こんな見え方の場合はすぐに眼科へ!
網膜剥離の他に飛蚊症が出る病気・症状
●硝子体出血
糖尿病や高血圧、外傷などが原因で、目の中で出血が起こった状態。
●ぶどう膜炎
目の中にある「ぶどう膜」に炎症が起こり、眼内に炎症が起こる病気。目が赤くなったり、痛みを感じたりすることも。
重大な病気ではないけれど…。
目が発している「お疲れモード」のサイン
□目がショボショボする。
□目の奥が重だるい、痛みを感じる。
□目が乾く、ゴロゴロとした異物感がある。
□画面の文字がなんとなくかすんで見える。

この記事は『安心』2022年2月号に掲載されています。
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