解説者のプロフィール

矢留江里子(やとめ・えりこ)
1967年生まれ。日本中医学院(旧北京中医薬大学日本校)中医薬膳専科を卒業。国際中医薬膳師。登録販売者としてイスクラ薬局六本木店に勤務。フードコーディネーター、NPO日本食育インストラクターなどの資格を持つ。中医学情報サイト「COCOKARA中医学」では、日々の生活に取り入れやすい食養生レシピを提案。
リラックス効果のある香りで心が落ち着く
ユズと聞いて、まず思い浮かべるのは「ユズ湯」です。子供のころから、冬至のユズ湯は我が家の恒例行事。母から「今日はユズ湯よ」といわれると、楽しみでワクワクしたものです。
国際中医薬膳師となった今では、ユズの効能にも着目しています。ユズを湯船に入れると、皮の成分が湯に溶け出します。この湯につかることで血行が促進され、手足の冷え、肩こり、腰痛などの痛みが緩和。体が温まれば免疫力が高まるので、カゼをひきにくくなります。
「冬至にユズ湯に入るとカゼをひかない」といういい伝えは、単なる伝統的な風習ではなく、理にかなっているのです。
そうしたわけで、私は今も冬至にはユズ湯を欠かしません。ユズ湯につかると体がポカポカし、入眠もスムーズになると実感しています。
ただし、ユズの皮に含まれるリモネンという成分には刺激性があるので、肌の弱い人は注意してください。湯の中では皮をもまず、肌がピリピリする場合は控えたほうが無難です。
ユズの香りは、リラックス効果をもたらします。柑橘系の香りは、苦手とする人が比較的少ないため、アロマテラピー(芳香療法)にもよく使われるようです。私も、漢方薬局へ健康相談に見えるかたに、冬の養生法としてユズを活用するようお勧めしています。
そのユズの香りには「理気」といって、気(一種の生命エネルギー)の巡りをよくする作用があります。忙しかったり、ストレスがたまっていたり、疲れていたりすると気が滞りがち。そんなときにユズの香りをかぐと、心がスーッと落ち着き、リラックスにつながります。
ユズは少量でも強い芳香があるので、ほんの少し料理に加えるだけで、香りを存分に楽しめます。和食のお店などに行くとユズの皮をすりおろして、料理の仕上げにサッとあしらってくれるものです。
ちょっと贅沢な気分を楽しめるうえ、食欲をそそるユズは、我が家の家族も大好き。ブリ大根など青魚の煮物、茶碗蒸し、お吸い物や酢の物……いつもの家庭料理でも、ユズの皮を添えるだけで、ふだんと違う特別感あふれる一品になります。
消化不良や下痢にはユズ茶がおすすめ
柑橘類の皮は薬効があり、漢方では、「陳皮(ちんぴ)」(ウンシュウミカンの果皮を乾燥させた物)や「枳実(きじつ)」(ダイダイなどの幼果を乾燥させた物)などといった形で、生薬として使われます。
健胃作用といって、胃を丈夫にする働きがあるので、胃腸薬として重宝されます。ユズにも同様の効果が期待できます。消化機能を促進し、食べ過ぎなどによる胃腸の負担を和らげてくれるでしょう。
特に皮には「化湿(かしつ)」といって湿気を飛ばす作用があります。胃腸が弱い人は体に水がたまりやすく、そのために消化不良になったり、下痢になったりする傾向があります。自覚症状のあるかたは、ユズの皮を煎じ、お茶として飲むといいでしょう。
白いワタも薬効はありますが苦みが強いので、取り除いてもかまいません。黄色い皮の部分を刻んで冷凍しておけば必要なときにいつでも使えますし、ハチミツ漬けにして、韓国のユズ茶のように、お湯で溶いて飲むのもお勧めです。
そういえば、韓国の女性は美容意識が高いといわれますが、ユズには、美肌効果も期待できます。豊富なクエン酸が新陳代謝を活発にし、ビタミンCは、肌へのダメージを抑え、シミやシワ対策に効果的。抗酸化作用も高いので、アンチエイジングに一役買ってくれるでしょう。
果汁の使い方として、ぜひ紹介したいのが、手作りの「ユズぽん酢」です(作り方は下記参照)。
手作りのユズぽん酢は、市販品とは全く異なる風味で、まさに絶品。どんな料理にも合いますが、私は特に白菜と豚肉などの鍋物や、ギョウザを食べるときに使うのがお気に入りです。
果汁をしぼったあとの皮をネットに入れて、ユズ湯にしてもいいでしょう。薬効高いユズを余さずに使い切り、冬を元気に乗り切ってください。
ユズぽん酢の作り方

材料
ユズ…5~6個(果汁100mlが取れる量)
しょうゆ…150ml
みりん…10ml(好みで煮切ってもよい)
カツオ節、刻みコンブ…各6g
❶ユズは横半分に切り、スプーンなどで果肉を出し、ガーゼなどで包み、種が入らないようにして果汁をしぼる(100mlに満たない場合は、市販のユズ果汁か酢を足して調整)。
❷清潔な瓶に①と、ほかのすべての材料を入れ、冷蔵庫で保存。最低でも30分おき、味をなじませ、必要な分だけを茶こしなどでこしてから使う。2週間ほど寝かせると酸味の角が取れ、より旨みが増す。半年ほど日もちする。
[別記事:【柚子(ゆず)まるごと活用法】 万能ユズジャム、ユズみそ、ユズ皮茶、ユズの種化粧水の作り方→]

この記事は『壮快』2022年2月号に掲載されています。
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