解説者のプロフィール

溝渕俊二(みぞぶち・しゅんじ)
1984年、高知医科大学卒業。専門は消化器外科。同大学助手を務め、89年より国立がんセンター(現・国立がん研究センター)にレジデントを経て、がん専門修練医として勤務。97年、高知医科大学第2外科に帰局。2007年より高知大学医学部看護学科教授。09年に馬路村農業協同組合と共同研究契約を締結し、18年より同大学医学部共同研究講座「高知馬路村ゆず健康講座」特任教授を兼任している。
便に含まれる乳酸菌が日を追うごとに増加
私はもともとは消化器外科医で、食道がんを専門としていました。食道がんの手術はとても大がかりで、手術が成功しても患者さんの受けるダメージは少なくありません。合併症のリスクも高くなります。
合併症を防ぐには、どんな栄養をどういった方法で補給するかという選択が、重要になります。そこで、附属病院に栄養管理を行うNST(栄養サポートチーム)を立ち上げ、患者さんが抱える課題を検討するようになりました。
高知県は、ユズの生産量が日本一で、全国シェア50%以上を誇ります。この名産品であるユズを、人々の健康度の向上に役立てられないかと、馬路村農協と共同で研究を始めました。今回紹介するのは、その最新の研究成果である「ユズ果汁の腸内環境改善効果について」です。
腸内環境に対して、ユズ果汁がどのような効果を発揮するかを調べるため、まずはマウス実験を行いました。
32匹のマウスを二つの群に分け、片方の群にはユズ果汁を5%混ぜた水を、もう片方の群には水を用意し、好きなように飲ませました。エサは両群とも同じ物を与えます。

1週間ごとに便を採取して調べたところ、水を飲んだ対照群に比べ、ユズ果汁入りを飲んだ群は、便に含まれる乳酸菌量が日を追うごとに増加。4週間後には、22倍以上に増えました。
乳酸菌は代表的な善玉菌ですから、乳酸菌の数が増えれば、腸内環境がよくなっていると判断できます。
また、実験開始前と4週間後で、マウスの糞便量も比較しました。水を飲んだ対照群と比べると、ユズ果汁入りを飲んだ群は、便の量も増えていました。これもまた、腸内環境がよくなったことを示唆します。
ユズ果汁で腸の動きが活発になり便秘が改善
そこで今度は、便秘傾向のある健常な人(男性16名、女性26名)に協力をお願いし、臨床試験を行いました。
ユズ果汁5gを含んだ、1包18gのゼリーを馬路村農協と共同で試作。この〝馬路ゆずゼリー〟を毎日摂取してもらい、試験開始前、1ヵ月後、3ヵ月後、そして試験終了1ヵ月後の4回にわたり、便秘の状態を確認します。できるだけ客観的に見るため、二つの国際的な尺度を採用しました。
一つは「CAS(日本語版便秘評価尺度)」と呼ばれる方法。腹部膨満感や、排便回数、便の量などといった項目に対し、自己評価するものです。点数が高いほど便秘傾向にあり、5点以上は便秘とされます。
もう一つが、「ブリストルスケール」という方法。こちらはコロコロ便から水様便まで、便の形状を評価する尺度です。

CASの推移を見ると、試験開始前の平均値は5点以上を示しました。これが、開始1ヵ月後には、いずれも4点未満に低下。摂取して1ヵ月で便秘傾向が改善されていました。3ヵ月後には、さらに点数が下がりました。この傾向に男女差は見られません。
また、ブリストルスケールでも多くの被験者が、かたかった便がやわらかくなり、普通便に改善したと評価しました。
そして、図表上には示されていませんが、試験終了から1ヵ月後の検査では、再び便秘傾向が戻っていました。つまり便秘解消には、ユズ果汁入りゼリーの継続した摂取が肝心ということです。
この試験に引き続き、二重盲検法という方法で臨床試験を実施しました。まず、ゲル化剤に香料でユズ風味をつけただけの偽のゼリーを作ります。そしてこれを、被験者自身にも医師にも、ユズ果汁入りと偽のゼリーのどちらを飲んでいるかわからないようにしたうえで、被験者に摂取してもらいます。
すると、ユズ果汁入りを摂取した群は、排便量が有意に増加していました。つまり、便秘解消はゼリーのためではなく、ユズ果汁による効果だと認められたのです。
私たちは、一連の腸内環境改善・便秘解消効果は、ユズ果汁に豊富に含まれるクエン酸やリンゴ酸などによるものと考えています。これらの有機酸が腸内を刺激したことで、ぜん動運動(腸の内容物を送り出す動き)が活発になったのでしょう。
これからも、ユズに秘められた薬効をさらに明らかにすべく研究を続け、ユズの魅力を広く伝えていきたいと思います。
[別記事:旬のユズはまるごと薬効の塊!生活習慣病やメタボ、認知症対策に役立つ万能薬→]

この記事は『壮快』2022年2月号に掲載されています。
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