ひざや股関節の痛みを訴えて当院に来る人は、ほぼ全員、左右の脚の長さが違っています。だいたい0.8〜1.2cmくらいの差が多いようです。0.8cmというと大したことないと思われるかもしれません。しかし、それは片方だけスリッパをはいているのと同じくらい差があるということです。【解説】大谷内輝夫(ゆうき指圧院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

大谷内輝夫(おおやち・てるお)

1953年富山県生まれ。ゆうき指圧院長。NPO法人ゆうき膝・股関節研究所所長。自身が提唱する運動療法『ゆうきプログラム』の論文は、世界変形性関節症会議で採用されるなど、学会でも大きな反響を呼ぶ。著書に『100歳まで歩ける足腰をつくる!2万人を「健脚」にした ひざ・股関節ケア体操』『股関節痛の94%に効いた!奇跡の自力療法』(ともにマキノ出版)など多数。
▼ゆうき指圧(公式サイト)

痛み治療の基本は「脚長差を整える体操」

ズボンを購入して裾直しをしてもらうとき、「右と左の長さが違う」といわれたことはありませんか? もしくは、ベルトのバックルの位置がズレてきたり、スカートのファスナーの位置がズレたりした経験はないでしょうか。

これらはいずれも、左右の脚に「脚長差」が生じていることを意味します。

当院ではひざや股関節の痛みを専門に、運動療法を中心とした保存療法を研究・開発し、患者さんの治療にあたっています。開業当初、症状が同程度でも、人によって治療効果に差があることに疑問を感じた私は、試行錯誤の末、ある結論にたどり着きました。

それは、「改善効果を高めるには、脚長差の調整が不可欠である」ということです。

ひざや股関節の痛みを訴えて当院に来る人は、ほぼ全員、左右の脚の長さが違っています。だいたい0.8〜1.2cmくらいの差が多いようです。

0.8cmというと大したことないと思われるかもしれません。しかし、それは片方だけスリッパをはいているのと同じくらい差があるということです。その状態が長期間続くと、体のバランスが崩れます。そしていろいろなところに負担がかかり、痛みにつながるのです。

この根本原因を治さないかぎり、いくら痛いところにアプローチしても、ほんとうの改善効果は期待できません。

それに気づいた私は、当院での基本的な治療の一つとして、必ず皆さんに脚長差を整える体操を行ってもらうようにしました。すると、ひざや股関節の痛みや可動域に対して、多くのケースで高い改善効果が得られるようになりました。

脚長差のチェックポイントは3つ

脚長差には、「真の脚長差」と「見かけ上の脚長差」があります。

真の脚長差とは、先天的な股関節の脱臼や形成不全、あるいは軟骨のすり減り等があって、左右の脚の長さに差が生じている状態です。

一方、見かけ上の脚長差は、体の使い方や生活習慣などによって骨盤にゆがみが生じ、左右の脚の長さが違っている状態を指します。

真の脚長差は、原因自体の治療も考慮しなければなりません。放置すると、痛みのあるほうに体重をかけまいと無意識に脚を上げてしまいます。そして、骨盤がゆがみ、脚長差がどんどん大きくなっていきます。

見かけ上の脚長差は、趣味やスポーツ、日常の習慣など、さまざまな要因によって起こります。こちらは体のゆがみを正せばよいので、当院の体操で改善可能です。ちなみに、真の脚長差を放置した場合に大きくなってしまった脚長差も、見かけ上の脚長差といえます。

脚長差があると、前述したように体はバランスを崩します。それを調整しようと、上半身や頭の位置がズレてしまい、骨や筋肉に負担がかかります。その結果、肩や首のコリ、腰痛、座骨神経痛などが起こります。

それだけではありません。体がゆがむと、内臓も圧迫されて機能が低下します。下痢や便秘になったり、内臓の位置がズレることで下腹がポッコリ出たりして美容にも影響します。

血液循環も悪くなります。横隔膜をしっかり動かせなくなって呼吸も浅くなるでしょう。酸素や血液の流れが悪いと、健康にさまざまな悪影響が生じます。たかが脚長差とあなどってはいけないのです。
では、ご自身の脚長差をチェックしてみましょう。チェックポイントは次の3点です。

足を伸ばして床に座り、左右の内くるぶしの位置を確認。
足を伸ばして床に座り、左右の大転子(下図)の位置を確認。
鏡の前に立ち、骨盤の上に指をおいて左右の高さを確認。

画像: 脚長差のチェックポイントは3つ

いずれも左右差があれば、脚長差があるということです。最もわかりやすいもので判定してください。

当院では症状や原因、状態を見極めながら、その人に合った体操プログラムを組んでいます。その際、すべての人に基本としてやっていただくのが、脚長差の調整体操です。

今回は比較的誰もが行いやすく、幅広いタイプに効果の出やすい体操を二つ紹介します。次項をご参照ください。

一つめは、骨盤の高さを揃える体操です。この体操は、骨盤周囲の筋肉をまんべんなく動かします。それによって、骨盤を引き上げている側腹筋(腹斜筋など)と腰の筋肉が緩み、骨盤のゆがみが正されて、脚長差が改善します。

腰の悪い人は手をお尻の横に、ひざが悪い人は太ももの横に、股関節が悪い人はお尻の後ろに置くと効果的です。

二つめは、骨盤の前後のねじれを正す体操です。回しにくい方向に上半身をひねることで、前にねじれた骨盤を正しい位置に戻し、脚長差を改善します。

当院の体操は、体に痛みがある人でも無理なく安全に行えることが特長です。紹介した二つの体操もわずか数分でできるので、朝と晩の1日2回実践しましょう。

朝は起きてすぐ行うと、ゆがみのない状態で一日をスタートでき、動きやすくなり、ケガもしにくくなります。夜は入浴後、筋肉がやわらかいときに行うのがお勧めです。

脚長差調整体操のやり方

ステップ 1
骨盤の高さを揃える

イスやベッドに座り、両手をお尻の横に置く。
※床に脚を伸ばして座った状態で行ってもOK。

画像1: ステップ 1 骨盤の高さを揃える

肩をなるべく動かさないようにしながら、床と水平になるように、おへそを中心にひらがなの「い」の字をお尻で書くように動かす。同様に、「い」の字を逆から書くように動かす。

画像2: ステップ 1 骨盤の高さを揃える

肩をなるべく動かさないようにしながら、床と水平になるように、おへそを中心に、英語の「Z」の字をお尻で書くように動かす。同様に、「Z」の字を逆から書くように動かす。
※②~③を各10回、朝と昼に行う。

ステップ 2
骨盤のねじれを正す

※腰と背中に軽いひねりを感じるように行う。

画像3: ステップ 1 骨盤の高さを揃える

イスやベッドに座り、左右に腰を回して、回しづらいほうを確認する。回しにくい方向側の手をお尻の後ろに置く(写真は右の場合)。
※手を置く位置は自分のやりやすい位置でOK。

画像4: ステップ 1 骨盤の高さを揃える

回しにくい方向に上半身をねじる。もう一方の手で、お尻の後ろに置いた手のひじをつかみ、30秒静止する。
※朝と昼に各1回行う。

画像: この記事は『壮快』2022年2月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年2月号に掲載されています。

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