解説者のプロフィール

菅沼加奈子(すがぬま・かなこ)
菅沼病院副院長。2002年、新潟大学医学部医学科卒業。川崎市立川崎病院勤務を経て、14年より菅沼病院内科・リハビリテーション科勤務、18年より同病院副院長。16年、歩クリニック開院。骨格のたいせつさを伝える講演会を全国で精力的に行っている。著書に『腰痛、ひざ痛が自分で治せる足首パタパタ』(主婦の友社)がある。
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▼専門分野と研究論文(CiNii)
骨格のゆがみがあると痛みが出やすい
私が副院長を務める菅沼病院では、内科だけでなく、腰やひざ、股関節、肩などの痛みを取るリハビリテーションも行っています。腰痛やひざ痛の患者さんも多く、そのような患者さんによく見られるのが、骨格のゆがみです。
骨格のゆがみとは、骨格の上下、左右、前後のバランスが悪くなった状態です。重力や体重が片側に偏ってかかるため、骨や関節に負担がかかり、痛みが発症しやすくなります。
骨格のゆがみの基となるのが骨盤です。骨盤は、全身の骨格をバランスよく動かすために最も重要な部位です。
骨盤を一つの骨と考えていらっしゃる人もいるかと思いますが、実際は三つの骨で構成されています。骨盤の中央にある仙骨と、その左右にある寛骨です。

仙骨と寛骨のつなぎ目を仙腸関節といい、ネジのように緩んだり締まったりする動きをします。歩くときは、足を上げている側の仙腸関節が緩み、地に足を着けて体を支えている側が締まります。仙腸関節の動きが左右対称に滑らかに動いていれば、骨盤はしっかりと正常に動きます。
しかし、仙腸関節が緩み過ぎたり、締まり過ぎたりすると、左右どちらかの関節ですき間が大きくなってしまいます。そうなると、骨盤の左右のバランスがくずれてきます。
例えば、左の仙腸関節が締まり過ぎると、右側が緩み過ぎて骨盤の右が上がります。このときに、関節のすき間が大きくなっているので、その分、右脚が下がって伸びたように見えます。逆に、右が締まり過ぎると左が緩み過ぎて、左脚が伸びて見えます。
床に座って、両脚をまっすぐに伸ばしてみてください。左右のひざのお皿の位置が違っていたら、脚の長さが違うということですから、骨盤がゆがんでいる可能性があります。
足首をよく動かして正しく歩くと骨盤が整う
脚の長さの左右差は、骨盤のゆがみのバロメーターでもあります。つまり、左右差がなくなれば、骨盤のゆがみも軽減していると考えられるのです。
そのために私が患者さんに勧めているのが、歩くことです。
足首を動かすと、仙腸関節の動きがよくなります。その結果、骨盤のゆがみが取れて、腰やひざの痛みの治りが格段に早まります。
人間は二足で歩いて進化してきた動物なので、歩くことで骨格が整い、体をきれいに動かせるようになります。
また、歩かないでいると、足腰がどんどん衰えてしまいます。これは日々、患者さんを診ていて実感していることです。家に籠もりがちな生活は、骨格のゆがみや関節痛の大きな原因になるのです。
ふだん、ほとんど歩かないという人は、まず10〜15分から始めてみてください。慣れてきたら30分に延ばし、余裕がでてきたら40〜45分ぐらい歩くようにします。
歩くときには足首をよく動かして、地面に足を着けるときには、つま先を上げてかかとから。地面から足を離すときには、親指から抜けるようにして歩きます。
歩幅は自然でかまいません。大股だとつま先から地面に着いてしまうので、むしろ小股のほうがお勧めです。ひざや腰が痛んで歩くのがつらいという人は、小股でなるべくスタスタ歩いてみてください。
片側のみ杖をついて歩くのはお勧めできません。反対に、両手でポールを着くノルディックウォーキングは推奨できます。歩き方を指導している専門医もいるので、医療機関で相談してみるとよいでしょう。
歩いている様子を、家族や友人にチェックしてもらうのもお勧めです。後ろから見て、足裏がしっかり見えるように歩行をしている人は、きれいに歩けています。逆に足裏があまり見えない人は、足首を使って正しく歩けていません。
日常生活では、体が左右どちらかに傾かないように、体をまっすぐ正面に向けることを意識してください。体の傾きは骨盤の傾きによるものですが、それを放置することで、ますます傾いてしまうのです。
歩けないときは「足首パタパタ」がおすすめ
とはいえ、股関節やひざなどに痛みがあり、歩くのがたいへんというかたも少なくないでしょう。そういった場合は、足首を動かすだけでも効果があります。
私が推奨している「足首パタパタ」のやり方を下で紹介しているので、ぜひお試しください。負担が少ない運動なので、歩くことが難しくないかたでも、歩くことと併行して取り入れてほしいと思います。
足首パタパタのやり方

❶あおむけになって、両手を骨盤の左右に置く。
❷3秒かけて、左の足首を大きくゆっくりひざ側に反らすとともに、右の足首を反対側に伸ばす。
❸3秒かけて、右の足首を大きくゆっくりひざ側に反らすとともに、左の足首を反対側に伸ばす。
❹3分間、②と③を交互にくり返す。

※ 慣れないうちは行うのは1分でもよい。目安は各30回。
※ 慣れてきたら速度を速めて、100回程度行う。
※ ②と③は逆の順序で行ってもよい。
※ ①〜④を1セットとし、1日3セットが目安。何セット行ってもよい。
※ 座りながら行ってもよい。
ところで、体が傾きやすいのが、座っているときです。パソコンで作業をしたり、デスクワークを長時間したりしているときに傾きやすいので、気をつけましょう。パソコンやノートを、傾きやすいほうとは逆側に少し移動するとよいでしょう。ちょっとしたことで防げるので、工夫してみてください。
骨盤が左右バランスよく、きちんと動くようになると、股関節や、さらに太ももの骨を介して股関節とつながるひざ関節もしっかりと動き、スムーズに歩けるようになってきます。
また、骨盤が整うと、背骨も整います。よく胸を張ることがよい姿勢と思われがちですが、人間の背骨は本来、胸の部分は後ろに丸くなり、腰の部分が前に出るといった、S字カーブを描いているのが正しい姿勢です。
骨盤が整い、背骨が正しいS字カーブを描くと、肩こりや、姿勢の悪さからくる頭痛が改善します。頸椎(首の骨)は顎関節とも密接にかかわっているため、噛み合わせがよくなった人もいました。また、骨格のゆがみが取れたら、不定愁訴が消えたという人もいます。
脚の長さの左右差は、高齢者にとって、つまずきや転倒の原因となり、ひいては寝たきりにつながることもあります。骨盤のゆがみを解消して、脚の長さの左右差がなくなれば、つまずかないでスムーズに歩けるようになり、転倒のリスクを防ぐことにもなるのです。

この記事は『壮快』2022年2月号に掲載されています。
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