解説者のプロフィール

能見登志惠(のうみ・としえ)
とちの実健康倶楽部クリニック院長。鳥取大学医学部卒業、同大麻酔科入局、同大手術部から公立豊岡病院麻酔科部長を経て、2001年に山本記念病院へ。09年、山本記念会都筑ふれあいの丘クリニック院長、漢方外来や在宅医療を担当。17年、とちの実健康倶楽部クリニックを開院、現職に至る。気功体操の指導や講演会にも精力的に取り組む。学生時代より東洋医学を探求して、気功歴28年。日本東洋医学会会員、日本麻酔科学会会員、全日本鍼灸学会認定医。
▼とちの実健康倶楽部クリニック(公式サイト)
頭は〝全身の健康状態を映す鏡〟
肩こりがひどくなると、いくら肩をもんでも、いっこうによくならないことがあります。
腰痛や首痛といった痛みやコリも同様です。患部を直接もんでも効果が出ないばかりか、かえって逆効果になることも多いのです。
では、痛みやコリを改善するにはどうすればよいのでしょうか。私がお勧めしているケアは、後述する気血水や血流、リンパ液などの流れをよくする「頭のゾーンもみ」です。
東洋医学では、西洋医学では捉えきれない「目に見えない異常」をも想定して、治療を行います。
東洋医学の考え方の基本は「気」「血」「水」の三つの要素が滞りなく全身を巡ることによって、健康が保たれるというものです。「血」と「水」は、西洋医学でいう血液やそのほかの体液に該当します。
一方で「気」は、生命の源となるエネルギーで、目には見えない存在です。この気が枯渇したり、流れが滞ったりすると、体の痛みをはじめ、さまざまな心身の不調を招くのです。
現代人の多くは、慢性的なストレスや運動不足などによって、気血水が滞ることで、体の痛みや不快感を抱えています。そして、この現象は、西洋医学的な検査では、なかなか捉えることができません。
ですから、検査をしても痛みの原因が見つからない場合や、痛みが慢性化している場合は、東洋医学的なアプローチが必要になってくるのです。
気血水の流れをよくする方法はいろいろありますが、なかでもセルフケアとして行いやすいのは、頭をもむことです。
頭は、「全身の健康状態を映す鏡」です。体のどこかに気血水の滞りがあると、それが頭部の特定の場所に、痛みやブヨブヨするといった異常反応として現れるのです。
その特定の場所をまとめたのが、下掲の「頭もみ治療地図」です。該当する場所(ゾーン)を自身の指でもむと、気血水の滞りが解消され、痛みや不快感といった症状も、みるみるよくなります。また、頭をもむことは西洋医学の観点で見ても、血流やリンパ液の滞りの改善が期待できます。
不調部分がひと目でわかる「頭もみ治療地図」
※痛みを感じる体の場所と、異常が現れる頭の場所は、左右逆になります。
※●の位置は目安です。ご自身の指で、異常を感じる部分を探してください。

体の柔軟性がアップする例も
頭のゾーンもみのやり方は下項をご参照ください。
頭のゾーンもみの最大のメリットは、その即効性です。30年ほど前、ある中医学の先生からこの方法を教わりましたが、「これは現場ですごく使える技術だ!」と感心しました。
それ以来、多くの患者さんに紹介しています。「こんなことで痛みが取れるわけがない」と疑ってかかる人は少なくありませんが、あまりにあっけなく、瞬時に痛みが楽になるので、皆さん驚かれます。
頭もみを行う前とあとで前屈をしてもらうと、柔軟性がグンと高まっていることも多く、その場で体が変わるのが実感できます。
頭のゾーンもみのポイントは、行い過ぎないこと。多くても1日3回くらいにしましょう。リラックスするために行うのですから、痛くなるほど強く刺激するのもNGです。
頭に、全身の痛みを取るスイッチがあると思うと、なんだか楽しくなってきませんか? あまり難しく考えずに、気楽に変化を楽しむような気持ちで試していただきたいと思います。
頭のゾーンもみのやり方
●1日に1~3セット行う。それ以上は行い過ぎなので禁物。
●気持ちいい力加減で押しもむ。痛みが強い場合は無理せずに中断する。
●痛みを感じるときに行ったり、仕事や家事の合間にリラックス目的で行ったりするのがお勧め。

❶前項の「頭もみ治療地図」を参考に、頭皮がやわらかくブヨブヨしているところや少し痛むところを、指で探す。

❷①の場所を、人差し指、中指、薬指の3本の指でギュッギュッと押しもむ。これを30秒(20回程度)行う。
体の右側が痛む場合は頭の左側、体の左側が痛む場合は頭の右側の該当箇所を押しもむ。※写真は体の両側が痛む場合。

症状が軽い痛みや不快感なら、対応するゾーンをポンポンと軽く叩くだけでもよい。

この記事は『壮快』2022年2月号に掲載されています。
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