腹圧性尿失禁の改善には「骨盤底筋体操」が勧められてきましたが、筋肉の収縮が自覚しづらいため、効果にも個人差がありました。そこで、骨盤底筋群・腹横筋・横隔膜・多裂筋の4つの筋肉、「インナーユニット」ごと動かす「きゅきゅっと体操®️」をお勧めします。頻尿にもある程度の効果が期待できます。【解説】半田瞳(TRIGGER筋膜調整セラピスト・理学療法士)

解説者のプロフィール

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半田瞳(はんだ・ひとみ)

高崎健康福祉大学保健医療学部理学療法学科講師、株式会社TRIGGER所属筋膜調整セラピスト、理学療法士。尿失禁の研究を専門に行っており、研究論文「腹圧性尿失禁患者に対するインナーユニット機能を用いた新たなトレーニンング方法の開発と介入効果について」にて博士号を取得。独自の骨盤底筋群体操を開発し、その有効性について科学的に証明した。尿失禁トレーニング「きゅきゅっと体操®️」考案者。研究論文「中高年女性における腹圧性尿失禁とインナーユニット機能との関係性」では、世界で初めて、 骨盤底筋群の機能から尿失禁のリスクを割り出す基準値を導き出した。この論文で、「理学療法学」第9回学術優秀論文賞優秀賞を受賞。当該年、女性で唯一の受賞となった。

実践後8週目で尿失禁の回数が大幅減少

くしゃみをしたり笑ったりした拍子に、尿がもれ出てしまう腹圧性尿失禁。その改善のために、骨盤底筋体操を続けているという方もいるでしょう。

骨盤の下には、ハンモックのように膀胱や腸などの臓器を支えている筋肉群があります。これらは骨盤底筋群と呼ばれており、排尿機能と深く関わっていると考えられています。

そのため、腹圧性尿失禁の改善には、昔から骨盤底筋群を鍛える「骨盤底筋体操」が勧められてきました。

ただ、出産を経験した女性の多くは、骨盤底筋群やその周辺の神経にダメージを受けており、骨盤底筋群の収縮・弛緩の感覚がわかりづらいようです。

私のもとにも「医師に勧められて骨盤底筋体操を始めたが、正しくできているか、わからない」と相談にいらっしゃる方が少なくありません。

実は2000年以降、「この従来の骨盤底筋体操では、腹圧性尿失禁に十分な効果が得にくい」という、いくつかの研究報告があります。従来の骨盤底筋体操での改善率は17~69%と個人差が大きく、筋肉の収縮も自覚しづらいため、体操を習慣にしにくいというのです。

これらの研究報告を知った私は、効果が出やすく、行う人が体感を得やすい骨盤底筋体操はないかと考えました。そして、骨盤底筋群を従来のように単独で動かすのではなく、「インナーユニット」ごと動かすことを思いついたのです。

インナーユニットとは、腹腔を覆う「骨盤底筋群」「腹横筋」「横隔膜」「多裂筋」の4つの筋肉の総称です。

画像: 実践後8週目で尿失禁の回数が大幅減少

私はまず、超音波画像診断装置を使ってインナーユニットの互いの関連性を調べました。

その結果、インナーユニットの各筋肉は、単独で収縮させたときよりも、複数を同時に収縮させたときの方が、より大きく収縮することを確認しました。

さらに、腹圧性尿失禁のある人は、そうでない人と比べると、骨盤底筋群だけでなく、インナーユニットの他の筋肉も衰えていることがわかったのです。

その上で、実際に腹圧性尿失禁のある人に、従来の骨盤底筋体操と、インナーユニットごと骨盤底筋群を動かす体操(後に「きゅきゅっと体操®️」と命名)を続けてもらい、その改善効果を比較しました。

実験では、腹圧性尿失禁のある女性92人を2つのグループに分けて、それぞれの体操を12週間続けてもらいました。

その結果、きゅきゅっと体操を続けたグループは、8週目に尿失禁の回数が大きく減少。12週間後には、尿失禁が「消失した」と答えた人は、従来の骨盤底筋体操で44.4%だったのに対し、きゅきゅっと体操では78.7%にも上ったのです。

画像: 尿失禁の回数が明らかに減少!

尿失禁の回数が明らかに減少!

画像: 12週間で全員が尿失禁の改善を実感!

12週間で全員が尿失禁の改善を実感!

尿意の切迫感が和らぎ姿勢がよくなる人も

現在私は、尿もれ・頻尿などのある方に、きゅきゅっと体操を指導しています。きゅきゅっと体操は、病院やヨガ教室などから紹介される重症の患者さんにも効果が出ています。

ある70代の男性は、前立腺がんの手術後に、ひどい尿もれに悩まされるようになりました。歩くと振動で尿がもれるため、外出時にはおむつが欠かせなかったのです。

しかし、3ヵ月間きゅきゅっと体操を続けたところ、もれる尿の量が激減。おむつではなく、尿もれパットで対処できるようになりました。

きゅきゅっと体操は、骨盤底筋群を強化することで尿意の切迫感も和らげるため、頻尿にもある程度の効果が期待できます

また、インナーユニットは姿勢を維持する筋肉でもあるので、続けていると、姿勢がよくなったり、腰痛やポッコリおなかが改善したりする人も少なくありません。

今回は、高齢者でも手軽にできるきゅきゅっと体操をご紹介します。行う際には、深い呼吸を意識してください。深い呼吸で、インナーユニットの1つである横隔膜をしっかりと上下させると、骨盤底筋群をはじめとする他のインナーユニットの筋肉も同時に動かせます。

きゅきゅっと体操は、朝晩2回を目安に続けてください。個人差はありますが、8週間ほど続ければ変化を実感できるでしょう。慣れてきたら、行う回数を増やすとより効果的です。骨盤底筋群は、低負荷・高頻度で効率よく強化されるといわれているからです。

「きゅきゅっと体操®︎」のやり方

朝晩2回を目安に行うと効果的。
回数が多くてつらい人は慣れるまでは10回からスタート。
骨盤底筋群を引き上げるときは、おしっこやおならを軽く我慢するような感覚で。お尻の筋肉が動くほど肛門を強く締めてしまうのは誤り。
おなかはへこませ過ぎないようにする。

ウォーミングアップ

画像1: 「きゅきゅっと体操®︎」のやり方

四つんばいになり、骨盤の幅と両ひざの幅が同じになるように、ひざの間を開く。背中はまっすぐに保つ。

画像2: 「きゅきゅっと体操®︎」のやり方

10秒ほどかけてゆっくりと鼻から息を吸いながら、お尻を左右に開くイメージで、お尻を後ろへ下げる。このとき、おならをするような感じで骨盤底筋群をゆるめる。

ゆっくりと鼻から息を吐きながら、①の姿勢に戻す。このとき、骨盤底筋群を収縮させてもよい。②~③を10回くり返す。

きゅきゅっと体操

画像3: 「きゅきゅっと体操®︎」のやり方

あおむけに寝て、両足をいすの上に乗せ(股関節とひざの角度はそれぞれ90度になるようにする)、ひざの間に畳んだタオルやボールを挟む。このとき、太ももの内側の筋肉がやや収縮するのを意識する。

画像4: 「きゅきゅっと体操®︎」のやり方

鼻から息を吐きながらおなかを少しへこませて骨盤底筋群を引き上げ、そのまま7秒間保つ。その後、鼻から息を吸って骨盤底筋群をゆるめてリラックスする。これを20回くり返す。

②をスピードアップして20回行う(1秒で息を吐いて骨盤底筋群を引き上げ、1秒で息を吸ってリラックスするのをくり返す)。

画像: この記事は『安心』2022年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年1月号に掲載されています。

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